第九章 21

 地上で戦うアメリカ軍が、有効な戦略を確立して被害を抑え始めた頃、第一中隊と共に地下を行くアレクセイとオリガとトムレディーは、アパラチコーラ空軍基地内部への侵入に成功していた。


 トムレディーが、敵が仕掛けた温度と音と動作に反応するセンサーを無効化しながら進んでいく。




 順調に思えた初動だったが、第一中隊はすぐに大きな問題に直面した。


 ノヴェ・パカリーニャが分子構築機を用いて金属製の建材を変形させ、地下を迷路のように作り変えていたのだ。


 第一中隊は同じように分子構築機を使用して壁を穿ち、道を作ろうとしたが、壁の内部に仕込まれていた誘電装置が邪魔をして、分子構築機がうまく機能しなかった。


 隠密作戦であるため爆破するわけにいかないので、第一中隊は止むを得ず、道が分かれるごとに隊を分けながら進攻した。そうしなければ、背後を突かれる恐れがあるからだ。




 隊を何度も分け続けた結果、トムレディー隊を護衛する二百五十人規模の中隊の人員は、いつしか十六名にまで減ってしまったが、それでも止まるわけにはいかなかった。事態は一刻を争うのだ。


 脳神経インプラントを使って基地の保安システムに不正接続したアレクセイとオリガが、監視カメラを乗っ取って、敵の動きを探る。


 通信をしてしまうと敵から探知されてしまう恐れがあるので、得られた情報は、口頭でマトス一等兵曹長に伝えることになっている。



「この通路を右折した先にある丁字路に、敵が待機してます。手に何かを持ってます」



 そう報告したアレクセイに、マトスが詳細情報を求める。



「どんなものを持っている?」



「丸くて黒い物です。それと同じものが、兵士たちの背後にある箱にたくさん入ってます」



「それは回転走行グレネートだ。無線接続で、移動指示を入力している最中なんだろう。それを放たれる前に片付けるぞ。万が一に備えて電磁パルス弾を撃ち込んで、全ての回転走行グレネードを無力化してから制圧する。ヴィンス、電磁パルス擲弾てきだんを装填しろ」



「もうやってます」



 ヴィンスと呼ばれたヴィンチェンツォ・ミラベッロ上等水兵は、隊長の言葉を聞きながら独自に判断し、自動小銃の左側面に装備されている小型の擲弾発射器に電磁パルス擲弾てきだんを装填し終えていた。



「いいぞ。エマ、空間レーダーに警戒すべきものは映っていないか?」



「右折してすぐの地点に、微かな隆起反応あり。非金属地雷の可能性があります」



「そうか。支配した監視カメラで確認してくれ、アレックス」



 アレクセイは乗っ取った監視カメラで周囲を確認し、その結果を報告した。



「何かが設置されているようには見えません」



「となると、シート式で間違いないな。ヴィンス、訂正だ。通常擲弾を曲がり角付近に一発撃ち込んで、シート式地雷を吹っ飛ばせ。それから間髪入れずに曲がり角まで走り込んで、曲がり角の先にある丁字路に電磁パルス擲弾をぶち込め」



「もう装填し直しました。二発目の電磁パルス擲弾が、電磁防弾領域発生機で跳ね返されたら、どうします?」



「三発目に非金属擲弾を装填しろ。いつもの訓練どおり、反撃覚悟で派手にやるのみだ」



 部下たちは声を潜めながらも揃って返事をして、行動開始の指示を待った。



「やれ」



 マトス一等兵曹長の指示を聞いたヴィンスは、指示どおり曲がり角に通常擲弾を撃ち込み、その先に設置されていたシート式の非金属地雷を破壊すると、機敏な動作で曲がり角の壁際に走り込み、慣れた手つきで電磁浮遊板を床に起動して、自動小銃を手放した。


 すると、起動した電磁浮遊板が自動小銃をふわりと浮遊させ、壁際から四インチのところまで移動させた。


 ヴィンスが、被っているヘルメットのバイザー部分に表示される銃身カメラ映像を見ながら、引き金を引くような形にした右手を左方向へと傾けていくと、その動きを読み取った電磁浮遊板が、壁際で浮遊している彼の銃を左へと移動させ、曲がり角から銃身を覗かせた。


 廊下の先で身構えていた十名の敵兵がその浮遊する自動小銃に向かって一斉に撃ち始めるのと同時に、ヴィンスが見えない引き金を引いた。


 その人差し指の動きを読み取った電磁浮遊板が、無線によって自動小銃に命令を出し、電磁パルス擲弾を発射させる。


 十名の敵兵の目前で電磁パルス擲弾が炸裂し、全ての回転走行グレネード内部のコンピュータに過剰電流を発生させて損傷を与え、無力化した。



「フィールドゴールを食らえ、ろくでなしども



 ヴィンスはそう呟いて、見えない引き金を再び引くと、浮遊する自動小銃の擲弾発射器から撃ち出された非金属擲弾が、敵兵の間を通り抜けた瞬間に炸裂し、全員を解体した。



「いい仕事だ、ヴィンス。あいつらが絶命したことで生体シグナルが途切れ、俺たちが侵入したことが向こうに知られた。連中が迎撃態勢を整える前に潰すぞ。走れ!」



 海軍特別強襲部隊の面々は人工筋肉式外骨格型スーツを着込んではいるが、地下ではその跳躍力を有効活用できないので、ただの防弾スーツを着ているのと大差ない状態となっている。


 アレクセイ達はスーツの補助を受けながら懸命に走り、中枢へと急ぐ。

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