第20話 ミスコンのカラクリ ①

 街から少し離れた、閑静な住宅街に建っている俺の家のリビングでは、異様な光景が繰り広げられていた。


 俺が座っている向かいのソファで、凛先輩が真美ちゃんを抱きしめて「可愛い! 可愛い!」と言いながら頭をなでなでする。

 真美ちゃんは迷惑そうな顔をしながら、凛先輩のされるがままになっている。

 そして、その横に座っている今日子は、そんな二人を呆れた顔して見ていた。


 一方、俺の左隣の一人掛けソファでは、徳井が座っていて「始めて友達の家に招待された!」と言って目を潤ませている。

 その対面の一人掛けソファには、昌が座っていてタブレットを出して、真面目な顔でしきりに何か操作していた。

 さすがは昌だ。

 事の重大さを考えて、岡田生徒会長のことを調べ直しているのだろう。


「えーと、これから大事な話をしようと思うんだけど…………」


 って、誰も俺の話を聞いてないし……。


「あっ! ごめん! 真美ちゃんがあまりに可愛いのでつい夢中になっちゃたわ。みんな! 徹くんが何か話しがあるそうよ!」


 凛先輩の声で、みんながいっせいに俺の方に向き直った。

 えーっ、俺の言った事は無視で、凛先輩の言った事は聞くのかい! いいさ、いいさ、どうせ俺の言う事なんて……と一人愚痴っていると、


「徹! 話しがあるのなら、ちゃんと話しなさい」


 今日子に思いっきり怒られてしまった。


「わぁ~っ、今日子ちゃん、徹くんの奥さんみたい」


 凛先輩が目をキラキラさせながら嬉しそうに言った。


「えーっ、やだ! 何言ってるんですか、白石先輩!」

「そうだよ。今日子は単なる幼馴染だから」


 俺と今日子は、先輩の誤解をあたふたしながら解こうとしているときに、突然昌が大きな声を出した。


「わーっ! クリア出来なかった! このパズルゲーム難しいんだよなー」

「昌! おまえはそのタブレットでゲームやってたのかよ!」


 まったく!

 さっきおまえのことを感心した俺の気持ちを返して欲しいよ!


「あははは、おふざけはそれくらいにして、徹、本題に入らないか?」

「おまえが言うか! おまえが!」


 昌は俺の言葉をさらっと流して、ソファに腰掛け直し真顔で話す。


「とりあえず、今日子ちゃんと真美ちゃんと徳井は事の発端を知らないから、徹、もう一度説明してくれ」

「わかった」


 俺はひと呼吸置いてから、ゆっくりと話し始めた。


「俺が凛先輩に生徒会室へ連れて行かれたのは、三人とも知っているよね」

「みんなが連れて行かれた羽多野君を待っていたあの日の事だね。僕も羽多野君の事が心配で待っていたんだ」


 徳井はにっこり笑いながら話す。

 お前も俺を待っていたのか! 嬉しいような……何か怖いような……。


「で、生徒会室でパソコンの打ち込み作業をしていたのよね」


 今日子はあの日のことを思い出して、恥ずかしいのか少し顔を赤らめている。


「うん。その時にパソコンの中の一部の文字が点滅し始めて、その文字を繋げて読むと『生徒会長岡田の不正を暴け』っていう言葉になったんだ」


 三人は話の内容が内容なだけに、真剣な表情で聞いて、しばらく黙り込んで考えているようすだった。

 誰もが口を開かない中、以外にも真美ちゃんがゆっくりと話を切り出した。


「それって、羽多野くんの見間違いってことはないんですか?」

「俺も始めはそう思ったんだけど、はっきりと目で追って読んだから、光っていた文字の内容に間違いない」

「そうですか」

 

 真美ちゃんは、彼女に似つかわしく無い険しい表情で答えた。しかし、すぐさま何かを思いついたように俺に聞いてきた。


「羽多野くん、この家にネットに接続してあるパソコンはありますか?」

「無線LAN接続してあるノートパソコンならあるけど……」

「じゃあ、それを貸して貰えます?」

「うん。いいよ」


 俺は何に使おうとしているのかわからないままに、ノートパソコンを真美ちゃんに渡した。


「今から学園のホストコンピューターに接続します」

「はい? 真美ちゃんアクセスコード持っているの?」

「いいえ、持って無いですよ〜」


 真美ちゃんはノートパソコンのキーボードを凄い勢いで打っているのだが、それとは正反対に声は変わらずのんびりしている。


「それじゃ無理…………」

「はい! 接続完了しました」

「マジか!」


 そういえば、パソコンに詳しいって言ってたっけ。

 しかし、ほんわかした笑顔で、さらりと凄いことをやってのける真美ちゃんには驚かされる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る