俺の平穏な日常を壊すのは誰だ!

ワイルドベリー

第1話 来客は突然に! ①

私立神楽坂総合学園高等部


 陽も既に落ち切って、校舎が夜の闇に飲まれてしまいそうな時。

 生徒たちが全て下校し、人影も全く無くなった校舎の一室から、男性と女性の話し声が聞こえてくる。


「はい。分かりました」

「君には大変な事を押し付けた形になって申し訳ないが…………あ、イテッ」


 どうやらこの暗闇のせいで、何処かに頭をぶつけたらしい。

 ガラガラ! ドン! ピシャン! バタン! ドシャン!

 頭をぶつけたのが要因になり、次から次へと物が落ちてきて、頭を打ちつけたり、床に積んである物に足をとられて、もんどり打って倒れたりしている。


「いてっ! いた! おぉっ! うぅー! ぎゃーっ!」

「大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。しかし今度から話をするときは、何処かもう少し明るいところでする事にしよう」


 そう情け無い声で話す男に、女はクスクス笑いながら「はい」と答えた。


 そんな緊張感のあるのか無いのかわからない会話は、夜の闇に溶け込んで消えていった。




 ピンポーン!

 玄関のベルが鳴った。

 それは好きなアニメのクライマックスにさしかかるところだった。


「宅配便かそれとも新聞の勧誘か? ……ったく、いいところだっていうのに!」


 その耳障りな音は、早く玄関のドアを開けろと言わんばかりに繰り返し鳴らされる。


「はいはい、わかりましたよ」


 俺はリビングから玄関へと向かった。

 俺は羽多野 徹。高校一年生。身長170センチ前後、髪型は長くも無く短くも無くて洗いざらし、顔の造りもそう目立った部位も無く普通、まあ自分で言うのもなんだが、これと言った取り得も無く、平凡を絵で描いたような男だ。当然のことだが、俺は平凡を絵に描いてあるのを見た事は無い。

 もっとも、俺自身は平凡である事がイヤな訳ではない。波の荒い海峡を渡るより、波静かな大海原を航行したいと思っている。


 つまりだ! 俺は平穏な日常が大好きだ! ってことだ。


 そんな俺が、この四月から一人暮らしをする事になった。つっても、母は俺がまだ小さい時に病気で亡くなっていて、元々俺と父親の二人暮らしなわけだが……。その父親に彼女が出来たみたいなんだ。そりゃあ、母が亡くなってもう十年以上経つし、そういう事もありだと思う。が、一人息子を残して彼女の所に行ってる父親ってどうなんだ? って思いもあって中々複雑な気持ちなんだよな。

 玄関へ向かう間も、催促のベルは鳴らし続けられる。


「今、開けるって!」


 俺は玄関のドアを開けた。


「えっ?」


 そこにいたのは、宅配便の配達員でも新聞の勧誘員でもなく、女の子。透き通るような肌に、意思が強そうで尚且つミステリアスな瞳、背中辺りまで伸びている長い黒髪、十人の男子がいたら十人が美人って答えそうな女の子が立っていた。


 誰だ? この女の子?

 うーん、どこかで見たような感じもするけど……

 俺が考えている間に、女の子は家に入ってきた。何のためらいも見せずに! あたかも自分に家のように!


「はぁ? ちょっ……ちょっと待て! えっ? 何これ、どういう事?」


 俺はパニクった。だってそうだろう? いきなり知らない人が何も言わずに家の中に入ってくるんだぜ。冷静に対応しろっていう方が無理だって!

 で、この女の子が俺に初めて言った言葉がこうだ。


「何? 自分の家に入るのに説明がいるの? うるさい男ね!」


 はああああああーぁ!?

 何言ってんの? 意味が分からない!


「いやいやいやいや! うるさいって、勝手に家に入られたら、普通誰だって聞くだろう! まあ、いい。いや、よくないけど……。とりあえず、あんた誰?」


 俺の言葉に彼女は不思議そうな顔をしてた。


「えっ? もしかして、あなた、何も聞いていないの?」

「聞くって何を? どうやら、何かあるみたいだな。とりあえず、一から説明してくれ」


 いったい何だってんだ?

 俺は彼女の言葉を待った。


「…………」

「…………?」

「………………」

「………………お、おい?」

「何?」

「何? じゃないだろう! さっさと説明してくれ!!」


 彼女は目を細めて俺を睨みながら


「あなた、まさか私にこんな所で説明しろって言うの?」


 こ、怖い、なんで美人って怒ると凄みが増すのだろうか……。


「わ、分かったよ。とりあえず中に入ってくれ」


 俺は彼女をリビングに案内した。

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