第9話 三点リーダーは「・・・」ではなく「…」を偶数個で「……」が基本。ダッシュも「――」が基本


⑤ 三点リーダーは「・・・」ではなく「…」を偶数個で「……」が基本。ダッシュも「――」が基本。


「次は三点リーダー。まぁ、三点リーダなのかなぁ? ……それとぉ~、……ダッシュだねぇ~」

「お、おう……」


 ダッシュと口にしている割には、のんびりと体を起こしながら、のんびりと言葉を紡ぐ彼女。

 当然意味が違うのは理解しているものの面白かったのだろう、笑みをこぼしながら答える彼なのであった。

 なお三点リーダーも三点リーダも正解であり、日本工業規格のJISではリーダと表記されている。

 そして、句読点や三点リーダやダッシュなどの文字以外の記号のことを『約物やくもの』と呼ぶ。

 縦書きの項目で記号としょうしたのは約物のことである。


「これはネット小説とかで、よく見かけるねぇ?」

「確かに……」


 書かれた文字の「・・・」を指差して言葉を紡ぐ彼女。

 その言葉に肯定の意を示す彼。

 実際にネットの小説投稿サイトなどでは多く見受けられている。


「……たぶん、これを使う人ってぇ~、三点リーダを見て真似まねをしているんだと思うんだけどぉ……三点リーダって知らないんだと思うんだぁ」

「どう言うことだ?」


 彼女の説明に疑問を覚えた彼。


「ん~? だって、知っていたら使わないと思うからぁ~」

「いや、だから……」


 そんな彼の疑問を説明せずに視線を落とした彼女。

 言葉を返しながら同じように視線を落とす彼。


『あずき』


 そこには自分の名前を平仮名ひらがなで書いていたのだった。


「ねぇ、お兄ちゃん……これ何て読む?」

「は? ……いや、『あずき』じゃねぇか?」


 彼女の質問に、何とも小馬鹿にされた気分になり、少しムッとした表情で言葉を返す彼。


「そうだよねぇ? これで『あ』なんて読めないでしょ~?」

「……あ……」

「――いしているよ。お兄ちゃん♪」

「……何、連想ゲームしているんだよ?」


 彼女の言葉を理解した彼は驚きの声を発していた。

 ところが、すぐさま自分の願望的な言葉を付け足す彼女。

 そんな彼女に呆れ顔で言葉を投げかける彼であったが。


「お兄ちゃんが意地悪したから仕返しだもん!」

「……いや、そう言う意味じゃないだろうが……」


 ほほふくらまして答える彼女。

 言いたいことを理解した彼は苦笑いを浮かべて答えるのであった。


 つまり、彼女が「これで『あ』なんて読めないでしょ?」と伝えたのに。

 彼が「あ」と口走ったことで、意地悪をして「あ」と読んだのだと思ったのだろう。

 彼は、そう解釈をしたのだが。

 彼女は彼が意地悪をしていないことくらい承知している。

 単純に、前項にて気を抜いて普通の文章を書いてしまったことを反省し、アピールを復活させただけなのである。


「とにかく、『あずき』は『あずき』であって、『あ』なんて読まないの。それと一緒で『・』三文字で『三点』なんて言わないんだよぉ。一文字に点が三つあるから三点なの!」

「なるほど……だから『三点リーダ』って知っていたら使わないってことなのか」

「まぁ、普通そこまで考えていないだろうから、知っていても使っている人っているだろうけどねぇ~」

「どっちだよ……」

 

 彼女の言葉に苦笑いで返す彼。

 事実、使うからと言っても単語の意味まで考えないのだから「単語を知っていても使っている」人間の方が多いのだろう。


『・』三文字で『三点』なんて言わない。

 例えとしては的を射てないのかも知れないが。

 サッカーで一人が一試合で三点ゴールを決めることを『ハットトリック』と呼ぶのだが。

 一試合で三点ゴールを決めるから呼ばれるのであって、三試合で一点ずつ決めた累計るいけいで呼ばれるものではない。

 話を進めよう。


 彼女の説明では少し混乱を招くかも知れないので修正すると。

『あああ』と書いてあるものを『さんあ』とは呼ばないだろう。『あああ』は『あああ』である。

 だから「・・・」は「てんてんてん」と、認識されるだけ。三点とは言わない。

 そう言うことなのだと思われる。


「それでぇ~、三点リーダは偶数個。つまり二個で一セットなんだよぉ。ダッシュもだけどねぇ」

「なるほど……」

「元々は、『ミ』との誤植ごしょくける為に三点リーダを二個繋いだのが最初らしいけどぉ」

「へぇ? そうなのか……」


 彼女の説明に感嘆の声を漏らす彼。

 植字しょくじ。つまり印刷する際に原本から印字の型に文字を植え込む際、三点リーダだと判断しやすくする為に二マス使われたとされている。

 なお、ダッシュについては明記めいきがないのだが、『スキー』などの『ー』である伸ばし棒。つまり長音符ちょうおんぷとの誤植を避ける為なのではないかと考える。

 単純に三点リーダとそろえただけなのかも知れないが。

 

「ただ……今の小説だと、偶数個ってルールは重要じゃないみたい」

「そ、そうなのか?」

「うん……」


 苦笑いを浮かべて紡がれた彼女の言葉に驚いて聞き返す彼。

 基本ルールとして偶数個と書いてあるのに重要ではないと言う彼女。

 答えを知りたくて見つめる彼に言葉を繋げた彼女はメモ帳に何かを書き始めていた。


 

『三点リーダ。

 主に会話の中で時間の経過や静寂せいじゃく。つまり無音に使われる。

 また、地の文の末尾まつびに使うことで余韻よいんや感情を表現する。

 そして言葉の省略にもちいることもある。


 ダッシュ。

 三点リーダとは逆で、会話の中で時間の経過のない時に使われる。つまり台詞を重ねる時やさえぎる時に使われる。

 また、地の文の末尾に使うことで展開の切り替えを表現する。

 そして心情や引用にも用いることもある。』


 

「……っと。あくまでも私なりの考えなんだけどぉ、こんな感じだと思うよぉ~」

「……なるほど……」


 書き終えると視線を彼に合わせて苦笑いを浮かべながら声をかける。

 彼女の声に、視線をメモ帳から彼女に移して納得の声を発する彼であった。

 

 どちらも文字だけでは伝わらない作者の脳内で読まれている、言葉のスピードを表現しているのだと思われる。

 三点リーダのリーダとは、リーダー。つまり導く者である。

 作者が次の言葉へといざない、自分の足で進むような感覚だろう。

 逆にダッシュとは、そのままの意味だと思う。

 作者が手を引いて、強引に進ませるような感覚なのかも知れない。

 当然、約物を発音する者はいないのだろうが、仮に音に出すとすれば。

 三点リーダは「てんてんてんてんてんてん」となり、ダッシュは「ススッ」とか「シュシュッ」となるのだろう。

 語感はともかく、イメージとして伝わっていることを願うのである。


 なお、それぞれ上の二つは本文で使われているので理解できるだろうが。

 三点リーダにおける、言葉の省略とは。

 既出きしゅつの長文。説明、台詞などを始まりと終わりだけ書き出し、間を「……」で省略すること。

 私の場合、だいたいは全文を書き出すのだが、意味が理解できるのであれば省略も可能なのだろう。


 それとは別なのだが。

 本来、言葉の前後に使う場合は二個が基本だが、完全な沈黙ちんもくの場合は四個を使うのが基本らしい。

 これはあんに、言葉の入れ忘れではなく完全な沈黙であることを理解してもらう為なのかも知れない。

 だが、私の小説においては沈黙が多用されるので文字数削減の為、全部を二個で統一しているのでご容赦ようしゃ願いたい。

 

 ダッシュにおける、心情とは。

 三人称においての登場人物の心情。思考を意味する()と同じなのだが、ダッシュを使う方がより深く心情を表現できるのだと思われる。

 そう、一人称では地の文で心情を表現できるのだが、『地の文の心情』とは本来の心情とは違うのだろう。

 小説とは誰かに説いているもの。つまり語り部は誰かに語っているのである。

 とは言え、それは読者に語っているのではない。あくまでも小説内の世界の誰かに向かって語っているのである。


 たまに見受けられる例として。

 登場人物が誰かに語りかけているような文章。


『え? 誰もそんな説明は必要ないって? 早く、会話を続けろとな?』


 このような地の文を読んで――

「急にコッチに話しかけられてえるわー」などと言うやからがいるのだが。

 正直書き手から言わせてもらえば。

「誰もお前になんぞ話しかけちゃおらん!」と言うことである。

 そう、登場人物は小説世界の中の誰かに語りかけているのであって、間違っても読者に語りかけているのではない。

 お芝居などの舞台で客席に向かって声をかけるシーンなどが存在するのだが。

 確かに『お客とのかけ合い』を主体とする場面も存在するが、それとは別に独白などで客席に向かって、誰かに想いをせる場面もあるだろう。

 もっとわかりやすく言えば、ドラマやアニメでも存在するだろう。

 そんな場面を「自分に話しかけられている」などと考えるのは不自然ではないだろうか。

 そう、読者や観客とは小説や舞台の世界において空気でしかないのだから。話を戻そう。


 そんな風に語りかけているとは言え、心に秘める部分と言うものは存在する。

 それがダッシュで地の文よりも落としてえがかれる心情である。もしくは地の文に差し込まれる()で代用される部分なのである。

 本来の語りにおいては語られない部分。だけど物語の構成上、書き出される部分なのだろう。

 語りの人間の話を聞いている人物には聞こえていない声。

 だけど空気である読者には伝わっている声。

 つまり読者へ理解を示す為に、あえて明言めいげんしている心の声なのである。

 とは言え、地の文の文頭に使うのには、単純に強調の意味も含まれるので必ずしも心情とは言えないのだろう。

 だいたい「こんな風に使われている」程度に覚えていてほしい。


 そして、引用とは。

 誰かの言葉や台詞を書き出し、ダッシュで繋いで言葉の発言者名を書く。

 つまり「この言葉は、この人物が言った言葉ですよ」と伝えることである。


 

「だからねぇ~? 時間を演出するのに三文字以上で使われることもあるんだよぉ?」

「へぇ? ……三文字?」


 苦笑いのまま彼女は言葉を繋げる。

 その言葉に感嘆の声を漏らす彼だったが、すぐに疑問の声を発していた。

 本来、偶数個が基本のはずなのに奇数の三文字とは?

 彼の言葉に彼女が説明をする。


「今のラノベとかって、三文字でも使われるんだってぇ~」

「そうなのか……」

「だから、必ずしも偶数個じゃなくても大丈夫みたい」

「なるほどな」


 納得の表情をする彼に彼女が言葉を繋ぐ。


「まぁ? 二個以上使っていたら大丈夫なんだよぉ。さすがに一個だと気づくけどぉ……二個以上だと何個使っているのかなんて、わざわざ数えないでしょ?」

「ま、まぁ、そりゃそうだな」


 彼女の言葉に苦笑いを浮かべて言葉を返す彼なのであった。

 そう、さすがに一個しか使われていない場合か二個使われているかの違いは気づくだろうが、二個以上が三個でも四個でも、それ以上でも。

 何個使われているかなんて、わざわざ数える暇人ひまじんもいないだろう。そんな暇があるなら小説を読んでほしい。

 だから基本ルールとして二個以上を守れているならば、何も問題はないと言うことなのである。


「……ふぇ~ん。導いて、ダッシュしすぎて疲れたよぉ~」

「…………」


 説明を終えたのだろう。彼女は言葉とは裏腹に、笑顔を溢しながら彼の左腕を自分の方へと導いていた。

 確かに説明的には導いたのかも知れないが、何もダッシュしておらず、普通に説明をしていただけである。

 とは言え、彼も呆れ顔ではあるが何も言わず、笑顔で彼女の導きに身を任せているのであった。

 

  

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