何時か君に会う日まで

於田縫紀

序章 物語のはじまり

序-0 はじまりの、その前 B Side

第0話 物語の始まるすこし前に

「起立、礼、解散」

 日直の号令。

 英語Ⅱの授業が終わった。

 私の視線はつい斜め前の席の方に向く。

 三崎君は今日も嫌そうな顔でノートを整理していた。

 授業が終わったのにご苦労な事だ。

 それにしても何故、あんなに嫌そうにノートを整理しているのだろうか。

 私は見るたびにそう思う。

 印象的すぎて毎回確認する癖がついてしまった。

 彼の後ろの席の男子が声をかけた。

「メシどうする三崎、カフェ行くか」

「悪いな。ノートがまとめ終わっていない。終わった後でパンでも食べるよ」

 そう行ってノート整理に戻って、また嫌そうな顔をする。

 ここは取り敢えず全国レベルの進学校。

 だから勉強に対して真面目な人はそれなりに多い。

 それでも彼のノートに対する情熱はちょっと異常だ。 

 情熱というか、見た目はいやいやという感じだけれども。

 彼の名前は三崎みさきさとし

 この1年E組のクラスメイト。

 私は彼を入校前から知っていた。

 正確には話として聞いていた。


 彼の行動のおかしい点はそれだけではない。

 いや、おかしいのはむしろこの後に言う事がメインと言ってもいい。

 この一週間、昼休みの彼の行動はいつも同じ。

 彼はノートを取り終わった後、カバンからパンを出してささっと食べて。

 その後スマホにVRアダプタを繋いでセットする。

 そしてそのまま昼休み終了の予鈴まで、VR世界に行ったままだ。

 別に学校でVRアダプタが禁止されている訳では無い。

 文庫本や漫画本と同じようなものだ。

 イベント等がある日はかけている生徒も多い。

 ただ毎日昼休みかけっぱなしという生徒は珍しいと思う。

 まるで他の生徒からの干渉を避けているかのようだ。

 他の時に話をすると普通に受け答えするから、人嫌いとも思えないのだけれど。


 私は他の女子とお弁当を食べながら、ちらっと窓際一番後ろの席を見る。

 今日も空席。

 1週間前に入学して以来、そこの生徒が登校した事は無い。

 入院中につき欠席中。

 でも、その席に座る筈の少女を私は知っていた。

 私はその少女、小島知佳こじまちかの事を思い出す。

 そして考える。

 知佳が話していた三崎君って、本当にこの人なのかなと。

 聞いていた筈の彼とどうもイメージが違う。

 出身中学も名前も間違いないのだけれども。

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