第50話 涙
「さて。次は私の番かな。メイも色々文句を言いたいことがあると思うんだ。三崎君は遠ざけておくから何でも言って」
うん、言いたい事は色々ある。
まとまらないけれど。
だからしばらく考えて何とか冷静になろうとして。
そして出した質問が、これ。
「何故、三崎君を連れて行ったの」
まるで恨み言だ。
好きな男性を奪った相手に対しての。
でも私の言いたい事を要約すると、そうなってしまう。
「うん、きっとそう言われるだろうなと思った。というか、むしろそう言ってくれて嬉しい」
知佳はそう言って、そしてきっと頷いた。
見えないけれど。
「最初はなんと言うのかな、ただ聡に別の事に興味を持ってもらうだけのつもりだったんだ。聡、休み中毎日お見舞いに来るし、学校始まっても友達付き合いをして無さそうで。
だから他に考える事を作って、出来るだけ私の事が意識から離れるようにって。
その頃偶然、電力関係を不正動作させようという話を聞きつけてね。調べてみたら私の本体がいるあの病院も停電範囲内になりそうだった。ちょうどいいかな、と思って聡に停電防止を手伝って貰った。声も姿も変えて、私だとわからないようにして接触して。
途中までは上手く行っていたと思うんだ。聡も私が変装している事を気づかないようだったし。
学校でメイも色々やってくれたみたいで。だから聡についても、このままうまく私の存在が薄れてくれるかな、と思っていたんだ」
「無理よ」
私にはわかる。
それが悔しいし悲しいのだけれども。
三崎君も知佳も気づいていないけれど、私にははっきりわかる。
それはきっと、私が部外者だから。
「三崎君も知佳も、結局お互いのことしか考えてないじゃない。それに相手が自分の方を見ているって疑ってもいないし。
変装しても声を変えても絶対無理。三崎君なら必ず見つけ出す。そこに知佳がいればね。何で気づかないの、そんな簡単なことに」
返ってきたのはしばらくの無言だった。
切れた訳でないのは気配でわかる。
そして。
「ごめんねメイ、いろいろと」
「謝らないで。それにさっき、三崎君を連れて行ったって言っちゃったけれど。本当は三崎君の方からそっちに行ったんでしょ」
それくらい私にもわかる。
説明されなくても想像つく。
三崎君は知佳しか見ていないから。
「でも、最後の最後で弱音を吐かなければ大丈夫だったと思うんだ。ちょっと扱っている案件が勝算が無い戦いって感じになって、この私が聡に会えるのは最後かなと思ったらね。どうしても会ってさよならを言いたくなって。
そうしたら最後の最後に私とばれちゃって。おまけに聡も私と同じように起きられなくしちゃって。
結局私、何をしているんだろう。」
「それは知佳のせいじゃない、必然よ」
私は思ったまま、口に出す。
「例え知佳がその時に挨拶をしなくてもよ。きっと三崎君は知佳を追いかけていって、知佳を見つける。三崎君を甘く見ないで。確かに三崎君は知佳が前に言ったとおり不器用だけれど。でも本気で知佳の事を思っているし、頭は間違いなく優秀なんだからね。違う?」
あれ、私、何を言っているのだろう。
三崎君を連れて行ってしまった知佳の事を糾弾するつもりだったのに。
知佳に文句を言ってやるつもりだったのに。
あと何で私、涙が出ているんだろう。
花粉症では無かった筈なのに。
自分でも訳がわからない。
でもVRでなくて良かった。
知佳にも三崎君にも見られずに済むから。
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