第45話 意外な言葉

「通じたか、よかった」

 向こうから聞こえるのは確かに三崎君の声。

「それはいいから、早く答を教えて」

 私、強気だ。

 実は全然強気じゃないのはわかっている。

 これは私の防御姿勢。

 でも今はこの方が便利。

 だから強気のまま押し通させてしまう。

「一言で言うと、本物の三崎聡のコピーだ。2040年5月2日17時02分に作成された。だからそこまでの三崎聡の知識や記憶は本人が忘れたもの以外、全部持っている。考え方の癖等も含めてね」

「コピーって、何処にどうやって?」

「ネット上にね。知識や考え方など一通りコピーする。どうやってというのは上手く言えないけれどさ。通称マインド・アップロードという技術だ」

 三崎君の、コピーか。

 マインド・アップロードという言葉は知らなかったが、実は私の想定範囲の答だ。

 それも最悪から考えると大分ましな方のシナリオ。

 もっとも、本当の事を言っているかどうかはまだ不明。

 それはこの三崎君と話して確かめるしか無い。

「では何故、こんな事になったの。何故あの場でこういう事をしたの」

 言っておいて思う。

 きっとそう簡単には説明出来ない理由があるんだろうと。

 でも私は知りたい。

 知って色々確かめたい。

 だから言葉を付け加える。

「少しずつでいい。ゆっくりでもいい。だから本当の事を教えて。嘘はつかないで」

「わかった。正直に言うよ。そうでなくとも糀谷さんには世話になっているし」

 世話になった、の過去形でない処にちょっと希望。

 彼は無意識なのかもしれないけれど。

「でも正直、どこから話していいのかちょっと難しいな。色々と多すぎて」

 うーん、と考えて。

 でも色々あった渦中の本人は実際そんなところなのかもしれない。

 でも私だってもう巻き込まれているのだ。

 ならば私の興味のままに聞いてみよう、

「なら聞くね。まず三崎君はこうなる事、つまり意識を失う可能性がある事を承知していたの」

「ああ。申し訳無い。でもそうなる可能性が高い、いやまずそうなるだろうなと覚悟はしていた。それは確かだ」

 やはりそうか。

 なら。

「何故そんな事をしたの」

 まさか知佳が目を覚まさないのを悲観して、2人で向こう側で……

 そんなんだったら許さない。

 別に何が出来る訳でもないけれど。

「非常事態が起こってさ。対処するには早いほうがいいと思って。病院だし、もし気を失っても知佳程度のサポートはしてくれるだろう。ただそのせいで糀谷さんには迷惑をかけてしまった。本当に申し訳無い」

「謝るのはもういいよ。私が発見したのは偶然だし。本当な病院側の見回りの誰かに発見される予定だったんでしょ。

 だから謝るのはもういいから。何が起こったの、それを教えて」

 ちょっと沈黙が入る。

 何か考えている模様。

「わかりやすく説明しようとしなくていい。わからなければその都度聞くから。だから思った通り言って」

 そうしないと、沈黙のたびに言葉を疑いたくなってしまう。

 何か嘘を考えているような気がしてしまって。

 今欲しいのは優しい嘘とかそういうのじゃない。

 何が欲しいのかは私自身わかっていないけれど。

「わかった」

 向こうで彼が頷いた気配。

「起ころうとしているのは、サイバーテロ。それも全世界規模のものだ」

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