第40話 ログオフ、そして……

 知佳の動きが止まったり動いたり。

 明らかに処理落ちが発生している。

 勿論テロ対策に処理能力を使っているせいもあるだろう。

 それでも僕にはわかる。

 彼女は悩んでいる。

 だからここで、更にだめ押しだ。

「もしここで知佳が断ったらだ。僕はおばさんに頼んで知佳のパソコンを借りてみる。その上で中身を色々調べてみる。

 知佳ならきっとプログラムを消していないだろう。レジストリハイブあたりを調べれば実行履歴は簡単にわかる。例えプログラムをゴミ箱経由で消してもだ。完全抹消していない限り、いくらでもファイルを復活させる方法はある。

 あとはプログラムを実行するだけ。専門家が再現出来なくても僕ならきっと再現出来る。何故なら年齢条件があるからだ。

 それを実行させるよりは経験者の知佳が手伝った方が安全だ。違うか」

 さあどうだと僕が思ったところで、知佳は小さくため息をついた。

「何かこんなに強引だったっけ、聡って」

「知佳に待たされたからな。もう一月以上にもなる」

 これは皮肉では無く事実だ。

 知佳は小さく頷いた。

「わかった。環境を確かめる。取り敢えず一時アップロードと起動はここのホームディレクトリでいい?」

「知佳はどうしているんだ」

「最初はそうして一括アップロードして、あとはクラウドに分散配置。多少の事故があっても私が私でいられるように」

「任せる。知佳の方がその辺は詳しいだろ」

「うん」

 知佳は頷いて、そして。

「なら最後に、向こうの世界の知佳にもう一度会ってくる?他にやり残した事があれば今のうちだよ。マインド・アップロード後の意識はもうリアルに戻れないし。あと糀谷さんへの挨拶は」

 あ、そう言えば。

 でも糀谷さんには確か、僕の方は気にしないでおけって言っておいたよな。

 それにここで知佳に心変わりされても困る。

 出来るだけ時間は節約したい。

 犯罪実施日時まで間がないから。

 そんな訳で。

「大丈夫。それより出来るだけ早く頼む。ここであまり長時間VRアダプタつけているのも目立つだろうし」

 知佳は頷いた。

「わかった。今環境を整える。余分なメモリは全てクリアし、出来るだけ安全に出来るようにしているところ。

 プログラムもこの環境用のmakeファイル書き終わったよ。順次コンパイルを始めるところ」

 CUIの黒画面が見える。

 スマホでこれを出したのをはじめて見たような。

 うーん、やっている事が古いぞ。

「何か昔ながらの感じなんだな」

「GUIとか統合環境とかはメモリを食うからね。コマンドラインが動けばそれが一番早いし無駄ないじゃない」

 とか言った後に黒い画面にOK表示が出た。

「これでこのスマホ専用のマインド・アップロード環境が出来たよ。でも本当にいい、このまま開始して」

「ああ」

 僕は頷く。

「ならいったんログオフして。それと同時にこっちのプログラムを起動するから」

「了解だ」

 僕はログオフのサインを出したところで……

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