報告書

叩いて渡るほうの石橋

報告書

 私は軍で武器の開発をしております。この度、とてつもない威力を持つ新兵器を発明いたしました。


 使えばその場は阿鼻叫喚。才能があっても努力をしてもこれを前にしては無力。有象無象を無能にしてしまうのであります。


 人間という動物は意思の疎通が得意で、言葉というものを使います。逆に言葉が使えず他の人間との関係を持てなければ、分類としてはヒトでも人間として生きていけないわけです。私はこれを利用してしまえば強力な兵器が造れるのではないかと思ったわけであります。その攻撃方法ですが、一言にまとめてしまいましょう。 


 悪口を浴びせる。


 これだけです。


 そうです、やることは簡単なのです。細かい情報が敵軍に漏れてはいけないので極秘事項も多いですが、こちらに向かってくる兵士の心の傷を解析、彼ひとりにだけ聞こえるようそのかさぶたを引きちぎる言葉を浴びせるのです。


 この地球には完璧な生物はおりませんが、人間の中には我々こそ欠点の全くない生き物だと豪語する輩が山のようにいます。そこでこの兵器で彼らに自らの欠陥を見せつけ、猿だった頃と何ら変わりがない、いや、貴様は変わることすら許されなかった程度の能力なのだと知らしめてやるのです。


 しかし申し訳ありませんが、残念なご報告をせねばなりません。これは使いさえすれば戦場で優位に立てる武器ですが、使用を禁止されてしまいました。非道徳的な武器であるからだそうです。


 おかしな話でございましょう。爆弾や銃は使っても良いのに。体を傷つけ、場合によっては一撃で死に至るものは使用可能で、私の一切の外傷を与えない武器は使えないのです。後遺症など、どんな武器を使ったって残るでしょう。それを使って良いもの悪いものに分けるなど、人間はエゴイズムの塊なのでしょうか。


 人間は他人の意思を受け取り、自分の意思を発信し伝えられる生き物です。そうすることで争いは減るはずだったのです。ところが人間は、ついには闘うという道を選び、武器という道具こそ使えど野生的な生き方を選んだのです。


 道徳的な武器とは一体どんなものなのか、見てみたいものであります。


 以上、報告を終わります。

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