りなりあ

霧乃文

第1話


『今日はいい天気!』


リイラは王都から遠く離れた村と村の間、森の中にポツンと一軒だけある家に住んでいる。一人暮らしだ。

一年前まではおじいさんと一緒に暮らしていたが、寿命だった。

このおじいさんがリイラの本当のおじいさんなのかどうか、そんなことはさほど問題ではない。

物心ついた時にはおじいさんと二人、この森の家に住んでいた。

リイラはおじいさんの名前も知らなかったが、この家で生きていくために必要な知識は全部教えてもらった。

畑仕事、きれいな水を汲める場所、魚がとれる川、食べられる草花。

おじいさんは死ぬ前に、自分の呼吸が止まったら穴を掘って埋めるように言った。

リイラはとても悲しかったが、言われた通りに埋葬した。

そうして、一人になった。

時々村へ行き、薬草や鉱物を塩など必要なものと交換してもらう。その時に村人と話すが、基本的には一人きりの生活だった。


リイラはまだ若く、おじいさんがいない寂しさをどうしていいか分からなかった。

おじいさんの遺品は何もなかったので、森で拾った丁度いい大きさの石をおじいさんの位牌にした。位牌は村人に教えてもらってつくった。

位牌があると、不思議と見守られているような気持ちになって、元気になれた。


『晴れているし、今のうちに水を汲みに行こう。』


木を針金で固定した簡素なバケツを持って、元気に井戸を目指して歩いていく。


家から井戸までは30分位だ。

とても良い天気で、井戸に着いた頃にはすっかり喉が乾いていた。


「うーん、美味しい!」


バケツに水を汲み、ついでに水を飲む。ひんやりしていて、カラカラの喉に身体に染み渡る。気が付けば満面の笑みで呟いていた。

少し休憩して、すっかり重くなったバケツを持って帰途へつく。


15分程歩いたところで、バランスを崩した。


「あっ」


危ない、と思った時には転んでいた。

バケツを持っていたので、思いっきり両膝を擦りむいてしまった。


「痛たたた…」


痛さですぐに立ち上がれず、座る。

両膝から出血していた。


「ううー、痛い…」


突然、影が落ちる。


あれ?と思い前を見ると、目の前に真っ黒い人がいた。黒いローブを着ており、深く被ったフードの隙間からこの世界では珍しい、黒髪が見えた。

その黒い人はリイラの前でしゃがんだかと思うと、血が出ている膝に唇を落とした。


「なっ…?!」


驚きのあまり抵抗も忘れ、呆然と黒い人の動きを眺めていたが、両方の膝を舐められて我に帰った。


傷が治っている。治療魔法だ。


「わぁー!ヒーラーさんなんですね、ありがとうございます!」


勢いよく立ち上がり、笑顔で深々とお辞儀をする。

黒い人も、少し間をおいて立ち上がる。フードで顔の大半は見えず、わずかに口元が見えるか見えないかといったところだ。


「…この辺で水が飲める場所はあるか?」

「はい、15分くらいで美味しい水が飲める井戸に行けます。私も今水を汲んできたところで…ってあー!こぼれてる!…もう一回汲みに行きますので、よかったら案内しますよ。」

「ああ。」


こうしてリイラは黒い人と水を汲みに行くことになった。

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