仲間が出来た日

 3回目の儀式が終わり、2人が苦しみながら担架で運ばれていく。

 おそらくあの2人は失敗だろう。

 せめて命があることを願おう。

 残ったのは4人。


 ここにきてから1ヶ月。その間に3回の儀式があった。

 最初は10人いたが、それが今ではたったの4人だ。

 ここに来てからほとんどの時間を、割り当てられた1人部屋で過ごしている。

 同じように儀式を受けている人達とほとんど会話はない。

皆、死と隣り合わせなのをわかっているのか、積極的に関わるつもりはないらしい。

 それに見た限り、年代もそれこそ種族さえ違う気がする。

 あと何回こんな儀式が続くのか、フィーは大丈夫といったが最後まで自分が生き残れるのか自信はない。


「さて、残るは最後の儀式となりますが、ここからは今までとは違います。」


 珍しくウキエさんが残った4人に向けて声をかけてくる。

 今までの儀式でもウキエさんはいたものの、声を掛けることはなかった。

 次で最後というのも嬉しい情報だ。


「まず、今日から数日でそれぞれの身体に魔法陣が浮かんできます。それが展開しきる約2年後に最後の儀式となります。」


 拘束期間が最低2年という予想外に長い日程にがっかりする。


「ちなみに2年間、心身ともに鍛えるため、トレーニングを行うのでそのつもりで。」


 さらに嫌な発表が続く。


「明日から1日中体力づくりから入るのでそのつもりで。徹底的にやるのでよく休んでおきなさい。」


 それだけ言うとウキエさんが去っていく。

 あと1つの儀式で終わりというのは嬉しいけど、厳しい訓練もついてくるっていうのは、気が重い…。


「よう、お互い明日からよろしくな。人族か?」


 いきなり肩を叩かれ、そっちを見ると、犬の耳?としっぽがある少年がニマっと笑っていた。犬歯が見えるが、人懐っこい笑顔だ。

 耳を見る限り獣人なんだろう。ミアを思い出す。


「俺はサイレウスって名前だ。人狼族になる。」


「僕はアレイフ、人族です。」


 手を差し出してみると、少し驚いた顔をしたあと、にこやかに手を握ってきた。

 ここへ来てはじめての握手だ。


「最低でも2年はこの面子でやるみたいだし、仲良くしよーぜ?」


「そうですね。」


「とりあえずアレイフ、その話し方やめろよ。他人行儀だ。」


 はじめて話して他人行儀もなにもないとおもったが、仲良くしようというのはいいことだ。


「それもそうか、まぁよろしくサイレウス。」


「おう。」


 すると別の方向からこちらは自分と同じぐらいの背格好の少年と鱗のようなものが身体に張り付いている背の高い男が近づいてくる。


「僕も仲間にいれて~。えっとね。魔族と人間のハーフで亜歩(あふ)っていうよ。」


「俺はマウエンという。燐族だ。」


 2人にも同じようなに挨拶をする。


「魔族?見えねぇなぁ。アレイフとおんなじ人族に見えるぜ?」


「しかたないよ、父親がインキュバスでね。正直見た目はほとんど人だし。」


「あーなるほどな。インキュバス自体が羽あるぐらいで普通に人族と変わらねぇもんな。」


「そうそう。ちょっと魔力が強いぐらいだからね。ハーフになると。」


 サイレウスと亜歩が親しげに話す。

 2人ともコミュニケーション能力が高いみたいだ。

 僕もマウエンに気になることを聞いてみた。


「マウエンはハーフじゃないの?」


「ああ、そもそも燐族がハーフにちかいがな。」


 そういうとマウエンは苦笑する。


「へぇ?」


「なんだ、アレイフ知らねぇのか?燐族はそもそも龍族と神族のハーフである竜神族と人族が交わってできた種族なんだぜ?」


「そうそう、バカな奴らはトカゲ族とかいってるけど、竜神族より見た目が人族っぽいだけで、力はほとんど変わらないからね。この国だとあんまり有名じゃないけど、武人として重宝される種族だよ。」


 首を傾げる僕にサイレウスと亜歩が補足してくれた。


「2人はよく知ってるねぇ…。」


「まぁ、自分等のことだからなぁ。」


 4人で輪になって、いろいろとお互いのことを話す。


 口は悪いが、イヤミを感じさせない、人懐っこい印象のサイレウス。

 子供っぽい話し方のわりに知識豊富で頭の回転が速い亜歩。

 口数は少ないが、責任感が強そうでしっかりもののマウエン。


 種族が違う上に、性格もかなり違うけど、気が合いそうに思えた。


「ところでよ。お前ら声似すぎじゃね?」


 サイレウスの指摘はすぐにわかった。

 マウエンも頷いている。


「僕等のこと?」


「そうかな?」


 僕と亜歩がお互いを見る。

 自分で聞こえている声からすると全然違う気がするけど。

 亜歩もそうなのか首をかしげている。


「ちょっとまってろ、マウエン、後ろをむこうぜ。」


 マウエンとサイレウスが後ろをむく。


「どっちでもいいから何か話してくれ。」


 僕と亜歩が顔を見合わせ、亜歩が自分を指した。

 うなづくと、亜歩が声をだす。


「これなんの実験なのかな?」


「じゃあ次、もうひとりの方が同じセリフをたのむ。」


「これなんの実験なのかな?」


 しばらく間があって、サイレウスが口を開く。


「マウエン、わかるか?」


「いや…全くわからん。たぶん口調で最初が亜歩じゃないか?」


「あーそうか、口調で判別したらそうか。」


 2人ともこちらを向き直る。


「合ってたか?」


「いや、正解だけど、そんなに似てる?」


「似てないよねぇ?」


「いやいや、口調一緒だったら絶対にわからねぇって。なぁ?」


「あぁ、わからん。」


 僕と亜歩はやはり首をかしげる。


「そういえば、自分が話す声と他人が聞く声は別物という話を聞いたことがある。」


 マウエンが首を傾げる僕らに教えてくれた。


「それってどういうこと?」


「いや、自分が話す映像や音声を記録して、自分で聞くと他人の声のように聞こえるらしい。」


「それ、記録するものがおかしいんじゃ?」


「第三者から見ると、本人の声と再生された声は同じだったそうだ。」


「へぇ…不思議なこともあるもんだねぇ。」


「まぁ特に亜歩は話し方に特徴があるから大丈夫だな。でもアレイフ、お前”僕”じゃなく”俺”にしろ。」


「へ?」


 間抜けな声がでた。


「亜歩と同じ呼び方ってだけでもアレなのに、お前、女みたいな見た目だからちょっとぐらい男らしい方がいいと思うぞ。」


「えぇ…そんな理由?」


「あ、それいいねー確かにアレイフは女の子っていっても通じそう。」


 ケタケタと笑いながら亜歩が同意する。

 たぶん、面白がってる。

 助けを求めてマウエンの方を見たが、彼もまた笑いをこらえていた。


「今日から”僕”禁止な?」


「えぇ…何か恥ずかしいよ。」


「おいおい、俺らが恥ずかしいと?どう思うマウエン。」


「うむ、心外だ。」


「いや、そうじゃなくて。」


 ここぞとばかりにつっこんでくる一人称が「俺」のサイレウスとマウエン。

 2対1だとさすがに劣勢だ。


「それいいね~僕も異議なし!」


 3対1になった。


「わ、わかったよ。気をつけるって。」


「すぐ慣れるって。てか、最初見たとき女だとおもったからな。…いや、男だよな?アレイフって男の名前だし。」


 ここまで話しておいて、まさかまだ半信半疑だったとは…。


「僕そんなに女っぽく見える?」


「僕禁止~。」


 亜歩が笑いながら指摘してくる。


「お、俺そんなに女に見える?」


 なんか口調がおかしくなった。

 そんな僕をみて3人とも笑う。


「おや、明日自己紹介から入ってもらおうと思ったのですが、もう仲良くなったのですか?」


 声のする方を見るとウキエさんが立っていた。

 たぶん誰も儀式の場から出てこないのを不審に思い、見に来たんだろう。


「ちょうどいい。本当は明日からにしようとおもってましたが、どうです?全員で食堂に行きますか?」


 これまで部屋に運ばれる食事を1人で食べていたから誰かと一緒に食べるというのは新鮮だ。

 全員喜んで同意した。


「やっぱりマウエンって食べる量も?」


「あぁ、かなり多いな。」


「おいおい、獣人の俺の前でそれいっちゃう?」


「ぼ…いや、俺も食べるほうだけど?」


「ほう、では勝負といくか。」


「望むところだ!」


「僕はパース。小食だし。審判してあげるよ。」


 ワイワイ話ながら食堂に向かう。

 そんな僕らの様子を見ながら、ウキエさんはわずかに笑みを浮かべていた。


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