第33話 運命の悪戯
「では報告をはじめます。」
ワッカーがここで報告をするのは2回目。
今回もイレーゼとローラ、カシム、ミア、ララ、ライラが並んで座っている。
前回参加していたチルは参加しておらず、前回の使者捕獲作戦後、新たに依頼された情報を報告する為に今回は集まっている。
依頼主はイレーゼ。
依頼内容は、仮面の4人について。
この情報はいろんな貴族や情報やが喉から手が出るほどほしいものだろう。
目撃情報や逸話は多いものの、その正体については全く分かっていないからだ。
それも、国王直轄の第四師団長候補とれば、情報の重要性はかなり高い。
「すでに出回っている情報も含め、まとめています。」
そういうと、ワッカーは全員に紙を配った。
内容は4人の名前から特徴、目撃情報、そして活動内容だ。
「この前来たのが、このマウって人と、サイって人ね。」
資料を読みながらイレーゼが声を上げる。
「だな。ていうか、このアフってやつ。アレイフじゃねぇか?」
「背格好とかは確かに一番怪しいわね。」
カシムの指摘に、ローラも同意する。
「身長もそうだが、浮いてるってのが…これ完全に風の魔法だよな?しかも高度な。」
「そうですね。風の高等魔法だと思われます。また第四師団の兵舎では風の魔法を使ったとか。」
カシムの質問にワッカーが追加で調べた情報を出す。
「調べた限りでは、風以外にも火や水の魔法を使うところも目撃されていますが、自分もアフが最有力かと考えています。」
「風属性以外もつかったの?」
「報告によると。」
「…おかしいの。」
疑問を挟んだのはララだ。
「あちしも、アレイフは風以外の魔法は使えないってきいてたにゃ。」
ミアも同意する。
「2年もたってんだ。使えるようになっててもおかしくねぇだろ?もともとあれだけの才能があって風だけなんておかしいだろ?」
「…そうでしょうか。」
カシムはそういうが、精霊、フィーのことを知っているイレーゼも疑問を持っているようだ。
「もしアフでないと、このレイって奴か、または別のやつってことになるけど…。そうなると厄介だな。よくよく考えると、ウキエ配下って仮面のやつ以外にもいるんじゃねーのか?」
カシムの言葉に周りが沈黙した。全員が同意か、ライラのように資料を見ながら唸っているかどちらかだ。
カシムがさらにワッカーに質問する。
「レイは剣士なんだろう?魔法使ったところは?」
「目撃されていません。剣を使う剣士のようですね。それも凄まじい太刀筋だそうです。対峙した相手はほとんど一刀で首を飛ばされています。」
「容赦ねぇな…。」
「このレイとサイの2人は完全に危険人物ですね。対峙した相手はみんな首を飛ばされるか、心臓を一突きです。」
「アフってやつは?」
「彼も容赦はありませんが、必ずしも相手を殺害しているわけではありませんから。」
全員が資料を見終わったのを見計らって、ワッカーが話を続ける。
「目撃情報は街中でもあるぐらいです。どこに出るかはわかりませんが、偶然会うことも可能かと。」
「とりあえず、このアフってやつだな。レイってやつもないとは思うが、それはそれで可能なら会っておきたいな。」
「ですね。出現情報が掴め次第、連絡するということでいいですか?」
ワッカーがイレーゼの方を見る。後手に回ることになるが、現状はこれしか手がないのも事実だ。
あくまで依頼者はイレーゼなので、念のために確認する。
「はい、それでよろしくお願いします。」
イレーゼが頭を下げて、打ち合わせは終わった。
ガタゴトと揺れる馬車の中で、アフとレイは向かい合って座っていた。
「そういえば久しぶりじゃない?2人で組むの。」
「そうだな…最近はすっかり決まっていたからな。」
「あら、そうなんですね。そういえばいつもはサイさんでしたね。今日、彼はどうしたんです?」
横からそう聞くのは上質のドレスにティアラをつけた女性。
どこからどうみても上級貴族に見えるが、そうではない。
「サイは今日、家族が熱を出したとかで急遽ね。」
「あら、それは大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫じゃないかな?そういえば、トリッシュ殿下はレイとは初対面?」
「そうですね。会うのははじめてですが…。」
そういうと、レイの膝を見る。
膝の上には今年8歳になる年の離れた弟が座っているので、そちらを見たようだ。つられてアフも目線を会わせる。
「えらく懐かれたね…。」
「えぇ、正直、私も驚いています。その子、人見知りが激しいので。」
2人の生暖かい目を受けて、レイがため息をついた。
「トリッシュ殿下、これは…まずいのではないでしょうか。誰かに見られたら…。」
「馬車嫌いのマインが大人しく座っているのです。悪いけれどそのままでお願いしますね?」
馬車には4人乗っている。
普通の馬車と違い、大型なので、中はゆったり余裕があるが、作り細工が豪華だ。
アフの前にレイ、横にトリッシュ、そしてレイの膝の上になぜかマインが座っていた。
「しかし…護衛で…。」
「だ、大丈夫だよ。レイ、というか頼むよ。サイと2人の時はほんと大変だったんだ。マイン殿下が全然馬車に乗ってくれなくて…。」
「大丈夫ですよ。護衛任務なんでしょう?ある意味、マインはとっても安全じゃないかしら?」
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1時間前、急に伝令に呼び出されたレイは、王城に来ていた。
マウと組んで盗賊の討伐に向かう途中、急遽戻るように伝令が来たのだ。
王城に来て、通されたのは王族が使う馬車の通路だ。
城の奥に馬車を乗り付けられるような庭があり、そこに案内された。
ウキエを見つけ、近づくと「やっと来た。」と言っていたので待ちわびていたのだろう。
「急に予定を変更してすまないが、サイの代わりにこっちの護衛を頼みます。マウの方は1人でも大丈夫でしょう。」
そういうウキエの隣には豪華すなドレスに身を包んだ女性と、その女性に隠れるように小さな男の子がいた。
「これはトリッシュ殿下、お初にお目にかかります。レイと申します。」
そういうと、レイは膝まづき、礼をする。
「トリッシュ・ルクトル・フォボライマです。こちらは私の弟のマイン。」
「…マイン・ルクトル・フォボライマ。」
トリッシュの後ろに隠れていた男の子が小さな声で名乗る。
そちらに向かって、レイはもう一度頭を下げた。
「レイと申します。以後お見知りおきを。」
この礼は当然のことだ。2人は第二王女と第二王子。
つまりは王家の人間なので、固くなるのも無理はない。
「レイは硬いね~。」
だが、それとは逆に軽いセリフを吐きながら、王女と王子の後ろをアフが浮いていた。
「アフはもう少しきちんとしなさい。」
ウキエに注意され、ハイハーイと手を挙げつつも態度を変えないアフ。そのやり取りを見て笑っているトリッシュが本題に入った。
「今日は視察の最終日です。いくつか周りますのでその間の護衛をお願いしますね。人がいない時はこんな風に気軽にしてください。堅苦しいのは私も疲れます。」
こんな風にとトリッシュがアフを指す。
アフとサイは王族の護衛にあたることが多いので、ある程度信頼関係があるようだ。
「では馬車の準備を。トリッシュ殿下もご支度をお願いします。」
「はい、では…すいません。資料をとってきますので、マインをよろしくお願いしますね。」
「じゃあ、僕はトリッシュ殿下についてくから、馬車が来たら乗っといてね。」
そういうと、マインとレイを残して3人が去っていく。
するとマインとレイの間に微妙な空気が流れはじめた…。
沈黙に耐えかねたレイが、マインの前にしゃがみこみ、手で覆い隠せるようなやらかいボールを見せる。
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マインはというと、レイの膝の上に座り、小さなボールを手で握りつぶしたり、眺めたりしている。
「そのボール、よっぽど気に入ったのね。」
「はい、姉さま!レイはすごいのです!ボールが消えたり増えたりするのですよ?」
上機嫌にマインが答える。
「あーあれ見せたんだ…さっすが慣れてるね。」
「あれっていうのは?」
トリッシュがアフに聞く。
「えっとね、説明しにくいな。レイ、やってみせてよ。」
その言葉に、マインが手に持っていた赤いボールをレイに「はい!」と差し出した。
レイは人差し指と中指の間にボールをはさみ。手の甲を見せ、ボールを握りこむ。
そして、次に手を開くと、中指と小指の間に青いボールが増えていた。
「え、今のどうやって!」
「おぉーすごいすごい!次消えるやつ!」
マインが次を促す。
またレイが手の甲を見せ、ボールを握りこみ、拳を見せてから開く。
ボールは消えていた。
「うーやっぱりわからない。教えてよ!」
「もう少し手が大きくならないと難しいですが…今度もう少し小さなボールを用意しておきましょう。」
「約束だよ?」
マインが嬉しそうにレイに笑顔を向ける。
「手品っていうらしいよ。」
驚いているトリッシュにアフが説明する。
「魔法とは違うの?」
「魔法じゃなくて錯覚?練習すれば誰でもできるんだって。」
「すごい…いったいどこでそんなものを。」
「マウに教えてもらったんだよ。実は僕もサイも習ったんだけど、習得できたのはレイだけだったんだ。マウは子供をあやすのに使ってたらしいよ。…って、そんなことより、今日はどこに行くの?」
話が脱線しそうになったアフがごまかした。
「今日は孤児院を訪問予定よ。孤児院は見学が自由ということもあって、年に1度はどこかの孤児院を視察してるの。」
「そうなんだ…孤児院も出迎えの準備とか大変そうだね。」
王女と王子が来るのだ。半端な準備ではないだろう。
「準備?必要ないわよ?」
「いやいや、そういうわけにはいかないでしょ?なんていってもお姫様が訪問してくるんだよ?」
「本当よ。だって、行くって事前連絡してないもの。準備のしようがないわ。」
「え…アポなし!?」
「いいえ、見学に行くとはもちろん伝えてるわよ?身分は言ってないけど。でないと迷惑がかかるし、変に取り繕われても困るから。貴族達が寄付のためにしている見学はアポなんてしないらしいし。」
「それは…そうだけど…殿下は王族だよ?」
その言葉を聞いても、トリッシュは首を傾げるだけだった。
「で、どこに行くんですか?」
「今回は、ドミニク園という孤児院に行こうと思ってるの。」
「…え?」
アフが目に見えて固まった。
「どうかした?」
「いや…その、それは…行き先って変更とかはできない?」
「もう見学に行く旨は伝えてしまったので、遅いわね。それにもうすぐ着く頃よ。」
その言葉に間違いはなく、馬車は止まった。
馬車からも見慣れたすでに門が見えていた。
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