第5問 勉強する上で大切なことは?
「どうぞ、よろしくお願いします。ビシバシ鍛えてください」
「こ、こんにちわ……」
母親に無理矢理連れて来られたのは、駅前の一角にあるこじんまりとした学習塾だった。
いつの間にこんなところに塾ができていたのか。
そう、塾。
もうその響きだけで嫌になる。
わざわざ放課後や休日に足を運んで勉強する場所。
「お母さんも忙しいから勇気の勉強見てあげられないの」
とか何とか言ってたけど、どうせ入るなら友達のいるところがよかった!
それに、この塾……。
『80点以上お断り! スクール点取り屋!』
僕はそう記された塾の入口にある看板を、胡散臭そうなものを見る目で眺める。
80点以上お断りって……。
絶対に、こんなところに足を踏み入れたくない!!
だって!
この塾に入ったら「自分はテストで80点以下でーす☆」って暴露してるようなもんじゃん!
も、もし誰か知り合いに見られでもしたら、
「ヒッシー、テストで80点も取れないんだってwwwwww」
って瞬く間に学校中に拡散されちまう!
世界中の笑いもんだ!
こんなことなら生まれて来なければよかったあ!
「
「よ、よろしくお願いします」
緊張しまくる僕を出迎えたのは塾長を名乗る若い男性だ。
な、なんだこの学生時代はリア充グループでした感迸る人は!?
ま、眩しい! 溶ける!
ほんとに若い。すらっとしてて、髪も決まってて、グレースーツも似合ってる。あとイケメン。
母と別れた後、僕は狐塚先生に連れられて塾内に入った。
中は閑散としていて、小学生くらいの生徒が二、三人いる程度。
ま、まさか、この子たちと小学校の内容から復習……的な?
しかし、幸いそんな展開にはならず――
「髪、坊主にしてるんだね! 野球部?」
「は、はい、まあ……髪決まってますね」
「モテる髪型にしてください! って言ったんだ~」
「(そんな恥ずかしいこと言ったの!?)」
二人で使うには大き過ぎる部屋に案内された後。
まずは軽い雑談から始まった。
狐塚先生は地元じゃ知らない者はいない、あの
うへー、勉強も運動も出来て、ドラゴンボールが好きで、イケメンとか。
天は二物を与えずって言葉は嘘だったんだ!
「じゃあ、まずは勇気くんの実力を知りたいから、この問題解いてみて」
「お、
相手は――数学!
テストでは散々だけど、苦手意識はない教科!
てか、九九のタイムトライアルならクラスでも五指に入るくらい、計算は得意なんだよぉおおおおおお、おらぁああああああ!
無事死亡した。
「この問題の途中式なんだけど、どうしてこうやったの?」
「え、えっと……なんか、こう、フィーリングで」
問題を解き終わった後は先生とマンツーマンの答え合わせ。
……身ぐるみを剥がされている気分だった。
今まで分からないところをそのままにしていたところ。
恥ずかしい、と。
勉強ができないことを必死に隠していた自分。
その全てが明らかにされていく。暴かれていく。
でも、先生は問題で間違っているところはちゃんと指摘しても「こんなのもできないの?」と嗤ったりはしなかった。
教え方は丁寧で、僕が分かったふりをしようものなら――
「ほんとに分かった?」
「……いや……分かりません」
それをすぐに見抜いて、にこにこと柔らかい笑みを浮かべ、さらに噛み砕いて分かるまで教えてくれた。
分かりませんって、久しぶりに言った気がする。
何か特別な教材を使っているわけでもない。
今までの常識を覆すような指導をされたわけでもない。
けど、多分――
生まれて初めてちゃんと勉強できた気がして、
それが少し嬉しくて、
何故か楽しいって感じた。
そしてテントリ(※スクール点取り屋の略)で体験学習を終えた僕は、これからもテントリでお世話になることが決まった。
てか、お母さんが勝手に決めた。
理由はこの辺じゃテントリの授業料は安いから、だそうだ。
でも、テントリの毎月の授業料が載ってる用紙をちらっと見てしまった僕は愕然とした。
安いって言っても、一ヶ月で何万円もかかるのか……。
いい点、取れるようにならないと……。
お母さんが入塾の手続きをした夜。
僕は風呂場で静かに泣いた。
そして元210点の逆襲が始まるのだ――
中学1年、3学期。
最後のテスト。
合計点、307点。
社会、84点。
……って、全然上がってないんですけどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
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