不登校

「今日は学校には行かない」って言ったら、怒られた、何度目かの朝を、思い出している。目が覚めて、涙の流れているときは、だいたいそう。――本が読みたいだとか、ゲームがしたいだとか、そんな理由じゃなかった。「一人になりたい」ただそれだけだった、けど、パパはそれを許してくれなかった。リビングの壁にもたれて、うつむいている私を見て、学校に行こうとする、妹が冷たい視線を、向ける、学校に行こうとする、弟が心配気な視線を、向ける、やめて、そんな目で、見ないで、一人になりたい、私はあわれじゃないよ、一人になりたい、大丈夫とか言わないで、僕を見ないで。みんな家を出ていって、独りになった私は、相変わらずうつむいていた。ひとりになったときと真夜中以外、私はわたしと向き合うことなんてできない。(ジリリリリ)電話の音が怖かったから、音楽を聴き始めた(リリリリ)それでも足りなかったから、ギターを弾き始めた(心配してるぞ)担任の先生の言葉が優しさの刃物を突き立てるから、詩を書き始めた(ここに居たくない)居場所を見つけられなかったから、お散歩が好きになった。「自分もそんな時期はあったけどさ」って、いろんな人に言われたけれど、他人事でしかなくて、「悩みがあるなら言ってみろ」って、いろんな人に言われたけれど、そんなにあっさり言えたら悩みなんてないに等しくて、結局、僕の中の私の存在は「わがまま」の一言で終わってしまう。だけど、違うよ、私はただ、一人になりたかっただけ。――全部が過ぎた今となっては、ただのわがままだったって、笑って言えるけれど、その笑っている私は、自分と向き合ってこその私だよ。

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