小さな愛を連ねて
カゲトモ
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「あ、お花が」
開店前、看板を磨いていると背後からそんな声が聞こえた。振り返って見ると、スーツ姿の男性が店先に飾っているプランターに手を伸ばしていた。天井から吊ったプランターからは小さな緑の葉が沢山零れている。
「おや、お花が咲いていましたか?」
「え、あっ」
ついこの間貰った時には、花なんて咲いていなかったけれどな。ってかこのグリーン、花が咲くタイプのものだったのか? それすら知らずに貰ったまま吊るしていたわ。
「す、すみませんっ」
「え」
急に話しかけたからなのか、男性は驚いた顔をして急いで頭を下げた。いや、なんで!
「あの、勝手に触ってしまってすみませんっ」
「い、いえそんなこと、お気になさらず」
別に触ったくらいで怒ったりしないし。そうじゃなきゃ店先に吊るさないでしょ。そんなことで謝らないで。
「す、すみませんっ」
男性は持っていたバッグをぎゅっと胸に抱いて再度頭を下げる。本当に何とも思ってないからっ。
「あの」
「ひ」
そんなに怯えないで。
「植物のこと、お詳しいのですか?」
「・・・え」
とりあえず話を逸らそうと話題を振ると、男性はきょとんとした顔でこちらを見る。え、花とか好きじゃないの?
「えっと」
少しだけ間を挟んで男性は口を開いた。
「詳しいとか、それほどでは、ないん、ですけれど・・・植物が、好きで」
「そうでしたか。私も植物は好きなんですけれど、もっぱら頂いたものを眺めているのが専門で。こちらも知人から頂いたものを教わった通りに育てているものですから、本当にこれであっているのかも分からなくて」
花屋の娘から貰ったプランターは、いくら育てやすいグリーンだとしても、ガーデニングなんてしたことのないおじさんには手に余る品だ。枯れていないだけ良いけれど。
「そう、なんですね。てっきり、ガーデニングが好きな方、なのかと」
「いえいえ、とんでもない。この植物の名前すらうろ覚えで。確か、何とかハート、でしたでしょうか?」
「ミリオンハート、ですね」
「え」
こっちは数日前に聞いた名前も思い出せないのに、男性はサラリと植物の名前を答えた。
やっぱり、そう言うの凄く好きな人なんだ。
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