サイバー世界に召喚された私は、この世界を修正する。

紀乃 結也子

第1話 現実世界

 ベッドの上で寝転びながら、スマホでSNSをひたすら眺めていた高梨紗子たかなしさこは、メールの着信音に気付くと、すぐさま身体を起こし、メールアプリを立ち上げた。


 -誠に残念ながら、今回は貴意に沿えない結果となりました。末筆ながら、貴殿の益々のご活躍をお祈り申し上げます。


「また、お祈りメールか……」


 思わずため息をついてそう呟くと、また寝転がってSNSに戻り、落ち込みかける気持ちを無視するように、ひたすら更新ボタンを押して、流れるタイムラインを眺め続ける。


 高梨紗子は、現在、大学4年生。売り手市場と言われる今年の就活は、夏を過ぎるころには、同期の大半が内定を1つは貰っていた。

 紗子にも、筆記試験まで進めた企業は、何社かあった。問題は面接だ。ノウハウ本通りに受け答えしてるはずなのに、面接官の反応が、どんどん薄くなっていくのだ。

 さっきのメールは、今、受けている会社の中で、面接まで進んだ最後の会社だ。思わず、就職浪人の文字が頭をよぎる。


「……そもそも、やりたい仕事も、向いてることすら一つも思い浮かばないのに、就活するなんて、無理なんだよ。」


 結局、現実逃避に失敗した紗子は、ベッドに突っ伏すと、そう独りごちた。

 そうして、しばらく落ち込んだ後、おもむろに頭を起こすと、今の心境をSNSに呟く。すると、あっという間に、いいねが大量についた。

 他のことにはやる気のない紗子だが、SNS上では軽快だ。人と話す気力は無いのに、なぜかSNSでは、息をするように言葉が出てくる。


「……逆に、SNSを仕事にすればいいんじゃない?」


 ふと、現実逃避の続きのようなアイディアが湧いてきた。採用試験に落ち続ける現状では、かえって現実的かもしれない。

 むくりと起き上がって、SNSを使った仕事を調べ始める。


「ダメだ……」


 SNSで稼ぐには、自分自身が魅力的な広告塔になるか、企業の広報担当として雇ってもらって、SNSも、現実の広報もこなす必要があるらしい。

 どちらも紗子が出来る仕事とは思えない。

 結局、ベッドに突っ伏して、SNSのタイムラインを眺める以外のことを諦めた。


 メールの着信音が、また鳴った。

 惰性でメールアプリを立ち上げると、目にの文字が入り込んできた。

 思わず、起き上がって、内容を確認する。


 -高梨紗子様

 この度、当世界の要件を満たしたため、貴殿の採用が決定いたしました。詳細は添付ファイルをご覧ください。


 サイバー世界ネオニティ


 当世界? 言い方が気になる。そもそもエントリーシートを出した覚えのない会社だ。

 だが、散々お祈りメールを貰って、世界から必要とされていない感覚に打ちのめされていた紗子にとって、採用決定の文字は、あまりにも魅力的過ぎた。


「……申し込んで忘れていただけかも。」


 自分を納得させるかのように呟くと、添付ファイルを開けた。

 すると、突然、スマホが真っ白に光り始めた。


「あ、……ヤバ……」


 ウィルスメールかも。そう考えた一瞬の間にも、スマホからの光は、どんどんと輝きを増し続ける。

 思わず、スマホを落とし、自分の身体を守るように腕を前に上げるが、当然なんの効果もない。

 身体中を包むように広がった真っ白な光の中で、紗子は意識を失った。

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