ピジョンブラッド
目が覚めた。酷く頭が痛い。幸い出血はしていないようだ。
何があったか鮮明には思い出せない。
覚えているのは…
刑務所で手錠をされたまま連れ出され、大きなトラックに乗せられて…。
その後の意識はなく、今に至る。
遠くから、大勢いるだろう声が聞こえる。
歓声だろうか。言葉は聞き取れそうにない。
俺は今いる場所が理解出来ていない。
辺りは薄暗く、陽の光を浴びることは出来ない状態だ。
外に出ることは不可能とみた方がいいだろう。
それは、目の前に鉄格子と南京錠があるからだ。
外れそうにはない。
俺の全力に近い力で引っ張ってもびくともしない。
力強く握った手を開くと、そこには血にまみれた手掌があった。
赤というよりは黒が似合う血の色。
鉄のにおいが鼻につく。
それは、俺の血ではなかった。
鉄格子に近づき舐めまわすように観察した。
鉄格子は元の色を見せず、黒い血の色を見せていた。
唯一元の色が見えそうな部分は、人の手の形をしているようだ。
誰かが握ったかのような跡をしていた。
これまでに何人もの人間がこの中にいたと思うとゾッとした。
そして何故いなくなったのか。なぜ血塗れの檻があるのか。不思議に思う。
暗くてよく見えなかったが目が慣れてきたんだろう。
鉄格子の向こうにもまた別の鉄格子が見えた。
そこにも人がいるのだろうか。
声を出そうかと思ったが、俺は思いとどまる。監禁されてると考えるなら安易に動いていいものではない。
俺は頭をフル回転させ考え続ける。
軽く音をたててみよう。話し声でなければ怪しまれないだろう。そう思った。
俺は鉄格子に近づき、音が鳴るよう殴った。
新しい血が鉄格子に増えた。
なにか周りの反応はあるだろうか。
すると隣から声が聞こえるではないか。
「うるせぇな…静かにしてくれないか…」
男の低い声だった。その声は疲れているような印象を俺に与えた。
「ここはどこなんだ?何のために俺は連れてこられたんだ?」
「お前さんが何を犯したのかは知らねぇが…ここはコロシアムだ…。」
「コロシアム?なんだそれは?」
「お前さんコロシアム知らねぇのか…。ここはな、罪人たちがコロシアイをする所さ…。」
そう隣の男が言うと、今度は正面から声が聞こえる。
「そうさそうさ。みんなでコロシアイするんだとよ!オレはまだでてねぇけどな!そのオッサンは一度勝ち抜いてるらしいんだよ!」
「うるせぇアメジスト…。お前もそのうち殺り合うさ…。」
「コロシアイ?勝ち抜き?アメジスト?宝石?なんなんだここは!」
「まぁそうかっかするなや…若い男よ…。」
「オレはアメジストと呼ばれてんだよ。そこのオッサンはサンドロップだよな!おめぇはなんだ?よく見えねぇな……ピジョン、ブラッド?なんだそりゃ。」
「勝ち抜きってのはな…どうやらこのコロシアムはトーナメント戦のようなんだ…。何人いて何ブロックあるのかは知らねぇが…殺して勝ち抜く以外に…俺らが生きる道はねぇんだよ…。」
「なんだよそれ…なんで殺し合いをしなきゃいけねぇんだよ!勝ち抜き?優勝したら何かあるってのか???」
「優勝するとシャバに出られるらしぃんだよ!噂でしかねぇけどな!!オレらは生きてシャバに出るために殺し合うのさ!」
理解出来なかった。
理解したくなかった。
俺の脳がそれを受け入れなかった。
「何でこんなことが行われてるのかはよくわからねぇが…噂によると…貴族らの金持ち達が賭け事にしてるだとか…まぁそんなのはどうでもいいんだよ…」
「みんな何かしら犯してムショにぶち込まれてっからな!オレら仲良く地獄行きだな!」
「何でそんな冷静なんだよ!!いきなりこんな所に連れてこられて、状況すらわからなくて、おまけに宝石の名前までつけられて…なんで受け入れてんだよ!!」
俺は叫んだ。感情のままに。
「そのうち受け入れなきゃいけなくなるさ…お前さんの順番が来ればな…。」
「オレはまだ順番来てねぇけどよ!隣のヤツが出てった限り戻ってこねぇんだよ!アイツは優しそうなヤツだったからな!死んだんだろうな!」
俺はどうしたらいいかわからず、その場に膝から崩れ落ちた。
「まぁ今日の試合は終わってるはずだ…1人減ったところにお前さんが来たからな…。」
「1日1試合さ!ちなみにここにいるヤツらとの殺し合いは1試合目では無さそうだぜ!このゲートから毎日1人ずつ減っては1人ずつ増えてるらしいからな!勝ち抜いていけば殺し合うだろうけどな!!」
俺は状況を受け入れるという選択肢しか存在していないことをようやく理解した。
毎日人が死んでいく。恐怖に怯える日々を過ごしていくのだ。それは絶望でしかなかった。
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