第58話 白雪姫は永遠に眠る 11

 作戦を終えて城に帰ってきた王妃とティムとアリシアの三人は、それぞれ白雪姫との決戦に向けての準備に時間を費やす事となった。


「なぁ、王妃のあの発言、どう思う」

「ええ、白雪姫を自分の娘と、言ったわよね」


 ティムとアリシアは、二人で今後についてを話し合う事にした。

 恐らくこのまま成り行きに任せれば、白雪姫が王妃を打倒し、魔法の鏡は自分達の手に渡るだろう。

けれど。


「誰が火薬に火をつけたのかも気になるが、先ずは王妃についての考察を終わらせたいな」


「そうね、まぁ個人的な希望としては白雪姫の実母であって欲しいと思うけれど、でもだとしたら、実の母親が娘を殺す役割を負わなくてはならない理由が分からないわ、悲劇にしては悪趣味過ぎるもの」


「だけど王妃からは確かに白雪姫への愛情がある、自分から火に飛び込むなんて、他人には絶対出来ない事だ」


「愛故に愛娘を殺す、それはなぜ?、死という救いでなくては救えないから?」


 死が救いになるような結末は、物語の歴史としては後半に流行ったものであり、白雪姫の成立した当時においては、死とは悲劇の象徴だが。


「城の人間に聞き回って調査したが、王妃は外部の人間で実母じゃないのは確実だ、素性は分からないが、備わった気品や礼儀作法からやんごとない身分なのは確実で、本来は白雪姫の家庭教師として雇われたが、その美貌と才覚で王妃として迎え入れられたらしい」


「美貌と才能を兼ね備えた宮女が、皇帝に見初められて皇后になる、中国だったら悪女の典型的な成り立ちになるわね」


「ああ、本来だったら王妃は憎まれるべき、倒されるべき悪女としての性質こそが相応しいはず、なのに何故、何の血の繋がりも無いはずの王妃が、白雪姫に愛情を持っているんだ?」


「・・・でもまぁ、実の親だからって、無条件で自分を愛してくれるとは限らないけどね」

「・・・それもそうだな」


 どれだけ考えても堂々巡りで、納得のいく結論は出てこない。


「ああもう、もう少しで白雪姫の真実にたどり着けそうな気がするのに、あと一歩届かないのがもどかしいわ」


 アリシアは頭を掻き毟り癇癪をあげた。


「多分、一番重要なピースが欠けているんだろう、白雪姫はやっぱり童話メルヘンだから、ありのままだけじゃ読み切れない部分があるんだ」


「未だに揃っていないピースと言えばつまり・・・」


「ああ、魔法の鏡だ、白雪姫の象徴シンボルでもあるそれを、俺達はまだ見ていないのだから」


「じゃあ結局最後まで正解は分からずじまいってことか、はぁ、推理小説だったら引き伸ばしすぎだって叩かれる展開よ、全く」


「それでお嬢サマ、いいのか?」


 ティムは最後に確認した。

 王妃はもう決着はついているから、魔法の鏡を持って好きにしていいと言ってくれたが、ティムとアリシアはそれを断って、王妃と白雪姫の決着を見届ける事にしたのである。


「いいのよ、どちらにしてもレヴォルくん達と合流しないとだし、それなら全てが終わってからの方が後腐れがないでしょ」


「そう言ってる割にはレヴォル達を返り討ちにする気満々みたいだが・・・」


 アリシアはさっきからずっと一人で、レヴォルに影響されたのかアカに影響されたのか、刀を振るって型を真似ていた。


「だって、レヴォルくんはどんどん主人公っぽくなるし、エレナは攫われてヒロインみたいだし、ティムくんは女装したら超絶カワイイし、あたしも負けてられないじゃない」


 自分は全然負けても構わないとティムは思ったが。


「このままだと私、主人公のパーティにいる地味なモブキャラみたいじゃない、そんなの嫌よ、キハーノ家の一員として、この世界の主役は私じゃないと示しがつかないんだから」


 アリシアのよく分からない対抗心にあてられつつも、ティムはアリシアに付き従う。


「へいへい、だったら盛大に出迎えてやるか、まぁたまには悪役が勝つシナリオを見ても、誰も文句は言わんだろ」


 どうせ空白の書の持ち主である自分達が関わった時点で、この想区は再編され、人々の記憶から自分達の事は消されるのだ。


 だったらたまには自分が信じた正義を貫くやり方もありかもしれないなと、普段は運命を変えることに強い抵抗を持つティムも、王妃の運命を変えることに賛同した。


 ティムには女は殴れない。


 故に、自分の信念を曲げてでも、女を見殺しになんて出来ないのだ。


「ふふふ、待ってなさいレヴォルくん、全力でこてんぱんにぶちのめしてやるわ」


 鍛錬を行うアリシアを見て、ティムも負けていられないと筋トレを始める。


 異様な熱気が部屋を包んでいた。

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