第46話 為せば成る晴れ渡る
「レヴォル!シズヤ!」
「二人とも無事だったみたいだな・・・アオさんとアカさんは?」
「・・・ジジィ達は泳いで帰るってさ、まぁ不死身の怪物人間だから心配すんな」
「そう・・・確かにアカさんは物凄く強いし、心配無いわね!」
この海を泳いで渡るなど考えられない事だったが、シズヤの様子からして心配ない事だけは皆理解した。
「それで・・・これからどうするんだ」
結局、エレナの居場所の手掛かりは掴めなかったが。
「あの、これ、預かってる、アオさんからさっき受け取った物なんだけど」
ノインが差し出したのはアオからの手記が書かれた一枚の紙だった。
そこにはこう書いてある。
ここにいる調律の巫女は全てのヒーローの頂点に立つ存在であり、全ての英雄と接続できる権限を持つ。
故に、マーリンの未来視やチェシャ猫の神出鬼没など、隠匿のみならず、戦闘においても絶対的な力を持つ。
このままでは敵わないだろう。
故に先ずは、ここから北西に百里行った所にある白雪姫の想区に行って、魔法の鏡を探しなさい。
魔法の鏡は魔除けの力のみならず、ある重要な役割を持つ。
その力を使えば知りたい事は全て知れる筈だ。
では、良き旅を。
「魔法の鏡・・・一体どんな力が」
「親切に地図もついている事だし、これは直ぐに向かうっきゃねーな」
今までは完全な手探りで行き当たりばったりな捜査だったが、今は完全にやるべき事も目的地も定まった。
次こそは一刻も早くエレナの救出に向かいたい。
「それでシズヤはどうする」
レヴォルは何気なく聞いた。
ついてくるのであれば歓迎するが、レヴォルにはシズヤの選択がそうはならないと分かっていた。
「旅に出るよ、霧の向こうまで、それでレヴォルが
見てきた物よりもっとすごい物にいっぱい出会って、レヴォルがしてくれたのよりもっとすごい土産話を沢山聞かせてやる」
シズヤはずっと一人で旅に出る日を夢見てきたのだ。
その門出に同伴する保護者がいては、シズヤとしても不本意である。
「じゃあ競走だな、どっちが沢山の想区を見て回れるか」
「ああ、絶対レヴォルを超えてみせる」
ある作家がレヴォルにとっての目標となったように。
レヴォルもまた、シズヤにとっての目標となったのである。
これもまた、良き作家としての資質なのだろう。
陸に上がるとレヴォル達は西北西に、シズヤはその逆にそれぞれ歩いて行く。
「そういえばシルバーの宝って、何が入っていたんだ」
あの大海賊シルバーの収集した宝ならば、それこそ値千金の値打ちものがあってもおかしくない。
「ああ、とんでもないもんが入ってたぜ」
「正直腰抜かしちゃったわよ、流石大海賊といった所ね」
二人のその様子にレヴォルはどんな物が入っていたのだろうと期待に想像が膨らんだ。
「ほら、これが宝物だ」
宝箱から取り出されたそれをレヴォルは広げた。
「・・・これは何だ?」
見たところ宝の地図か何かだと思うが、想区という世界において、地図はあまり役に立たない。
結局どこに行っても「沈黙の霧」に阻まれるからである。
故にこれがどこの地図だろうと使い道があるかは微妙なのであるが。
「聞いて驚きなさい、これはなんと」
「・・・なんと」
「古代都市アトランティスの地図よ」
「古代都市アトランティス?」
「ちなみにこっちは月、こっちは地底遺跡なんかもある」
「古代都市とかはともかく月って・・・イタズラだろ」
勿体ぶって焦らされた割に驚きようのない程突飛な代物だった事に、肩透かしのような脱力感を感じるが。
「あら、かぐや姫だって月に行ってるじゃない、これを偽物と決めつけるのは想像力が足りないんじゃないかしら」
「だとしても、見た所これは現地の地図であって具体的な行き方は示されて無いみたいだけど、どうやって行くんだこれ」
「さぁな、きっと世界のどこかにはこういった想区もあるって事なんだろうよ」
「それよりも私が言いたいのはね、これをシルバーが宝物にしていたって事なのよ」
「・・・?」
「だって、こんな素敵な事は無いでしょう、結末を迎えても、旅は続く、流石大海賊ね、素晴らしい事を教えて貰ったわ、この教訓を胸にこれからも頑張っていきましょう!」
盛者必衰の想区で地獄を見た結果人生観に大きなダメージを受けたアリシアだったが、シルバーのその男気に立ち直らされたのであった。
そうだ。
俺達は想区の問題を解決して去って行くわけだけど、決して物語はそこで終わる訳じゃない。
俺達が旅を続ける限り、物語は続いていくのだから。
本当の宝物は知識や経験といった思い出の中に詰め込まれている。
だから、その時一秒一秒を大切にしていたのであれば、いつか物語の終わりが突然来てしまったとしても、その輝きは永遠に色褪せる事は無いのだろう。
「じゃあエレナを救出したら、この地図を頼りに宝探しでもするか!」
「いいわね!きっと超古代文明のとんでもない超兵器を巡って、悪の秘密結社と死闘を繰り広げるのよ!」
「そんな展開になったら命がいくつあっても足りないんだが・・・」
旅は終わらない。
幾度結末を迎えようと、物語は何度でも蘇るのだから。
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