一人も好きでみんなも好き。

絹 さや子

第1話 新しい出会い

横断歩道の手前、いつも目がそこに。

それは、ログハウスで三角屋根がかわいい喫茶店。

カフェが多いけど、私は、ここのログハウスの感じと三角屋根が気に入ってる。

四角い窓がたくさんついてて、いつもそこから中をのぞき見している。

入ればいいのだが、一人では入る勇気ない。

大切だからこそ、躊躇するのだ。

別に勇気がたりないわけではない。

友達を誘うのも微妙に難しい。

みんなは駅前のカフェが好きだ。ここに「行きたい」と誘えば、理由を言わなければいけない。それが嫌なんだ。

自分の心の内側はあまり見せられない。

仲良くやってる。

でもそういうもの。

楽しいことは共有できるけど、そうじゃないものは、難しい。

だから、少しだけ寂しくなったりする。

このログハウスの窓からみえる人達、私は、ここで働いてる人の感じがなんか好き。話したことないのに、みんな楽しそう。本気で楽しそうに働いてる。

多分、20さい位の男性と女性。特にお気に入りで、その二人をいつも探してしまう。

男性は、単純にカッコいい。女性は、こっちも単純に美しい。そして二人とも笑顔がすごくいいのだ。あんな笑顔を向けられたら毎日幸せだ。いろいろなことを想像しながら、横断歩道の前でうろちょろする。スマホをとりだし、待ち合わせのふりをしたり、電話がかかって来てないのに耳にあてたり。

とにかく、周りにログハウスの中を覗いてるのがばれないように、不審者だと思われないように、すごく気を付けている。この事には、けっこうエネルギー使っている。もしかしたら、こんな注意深くできるのなら、探偵とかできるかも?なんて思ったりする。いや、ちょっと違うかな?うん、違ったと思う。

私は、この窓越しの世界、ログハウスの中の世界に何かを期待してる。


失望するほど嫌な事があるわけではない。

でも、すごく期待したい。

何でかはわからないけど、本気で期待したいんだ。もちろんそんな話は誰ともしない。めんどうなやつと思われたくない。できるだけ先回りで、おもしろいことにすり替える。それはそれで楽しいのだ。今からもそうしていく。もちろんその事に迷いはない。

だけど、この窓越しの世界に期待してるんだ。


私は、16さい。定時制高校に行き始めて2カ月。友達はいちお3人できた。面白い奴ばかり。凌馬くんと瑠璃ちゃんと愛美ちゃん。みんな複雑な事情持ち。凌馬くんはゲイで、瑠璃ちゃんはレズ。愛美ちゃんはお父さんが組長さんらしい。それで私は、お父さんは日本人でお母さんがフィリピンである。

この中では、私は、いたってノーマルに近いと思う。不謹慎だけどそう思う。

4人でそれぞれの事情を話したとき、みんな大爆笑した。深い話はしてないけど大爆笑だけで充分なんだ。でもやっぱり、痛い話はしないな。痛い話は苦手だ。


 中学の頃、とりあえずの友達しかできなかった。その友達、陰で私の悪口言ってた。正確には、私の親の悪口。母親が日本人じゃないから、勝手に酷いこと想像して言ってた。ただ、少し思う。みんなの言ってる事は、わりと当たってるかもしれない。でも、当たっていたとしても、そんなに悪いことなのか、少し疑問。

どっちにしても私には関係ない話だ。それに、私の親の事実の話などどちらでもいいのだと思う。彼女達は、今をおもしろおかしくできることなら、事実とか関係ないのだ。みんな悪口言われたくないから、一生懸命はみ出さないようにしてる。こんな状況だから、本当の友達とか親友とか諦めていた。慣れてしまえばどうってことない、そんな感じだ。普通に進学せず、定時制高校に行くというのは、なかなか言い出せず、どこから話が漏れたのか知らないが、「大変だね、頑張って」とか、言われたりした。こういう言葉もあまり素直にとれない。陰で悪口言ってたのだから、上から目線で言われてる気がして気分がよくない。なのに、「うん、頑張る」なんて笑顔で言ってる。そんな自分に本当疲れる。

もし、自分の正直な気持ちをぶちまけていいなら、こう言う。

「あんた達と離れられて本当嬉しい、あんた達のこと、面倒くさくて大嫌いだったんだ。せいぜい頑張って」と言って冷ややかに笑ってやりたい。

上から目線で返してやりたい。


はぁ~言えるわけないか。

そんな友達関係しかなかった。小さい頃はやっぱり親の事が原因なのかわからないが、友達すらいなかった。


だから、定時制高校は、正解かもしれないと思う。

あの3人は、多分私の感じてきた感情を知ってると思う。深い話は何もしてなくてもなんかわかる。

定時制高校、気に入ってる。

後は、午前中の時間をどうするかだ。決して裕福ではない。ほぼ貧乏。母親は、バイトくらいしなさいと言っている。父親は今のところ何も言わない。

凌馬くんは大工の見習いで瑠璃ちゃんは化粧品メーカーの研修中らしい。愛美ちゃんは、考え中だと言っていた。

私も同じ考え中だ。

そしてふと思った。ゲイの凌馬くんは男らしい大工の仕事。レズの瑠璃ちゃんは女性らしい化粧品メーカーの仕事。ふ~ん、そうなんだ。わかったようなわからないような、そんな感じだ。

定時制高校には部活もある。私と凌馬くんはバスケで、凌馬くんはバスケがめちゃうまい。ゲイだと知らない人の間では、かなりもてているらしい。瑠璃ちゃんと愛美ちゃんは卓球だ。なんかオリンピックの卓球を見て卓球の奥深さに感動し、どうしてもやりたくなったらしい。彼女二人は、卓球熱の話でこの前かなり盛り上がっていた。私のバスケの腕前は、普通だ。すきだけどうまくはない、普通だ。

凌馬くんや瑠璃ちゃんや愛美ちゃんは、個性が強いと思う。私は、みんなみたいに、主張というものがどうも苦手だ。いろいろ思う事はあるのだけど、それを言葉にするのは苦手みたい。

私から見て凌馬くんも瑠璃ちゃんも愛美ちゃんもキラキラしてる。

勇気出せるかな?


「は~、困ったな~」

学校で愛美が大きなため息をつきゆうつな顔でこちらを見ている。先に学校に来てた凌馬くんとと瑠璃ちゃんは私の方を見てよくわかんないけど、うなずいている。それで、ちょっと思う。愛美ちゃんのお父さんは組長さん。怖い人なんだと思う。よくわからない世界、愛美ちゃんとは仲良くしたいけど、厄介なことには関わりたくない。そんな自分の感情を知りながらその考えは今は見ない事にする。

「どうしたの?」

「困った事になったのよ。私、婚約しなければいけないのよ。それも、知らない人よ、ありえないわ」

愛美ちゃんは私と同じ年の16才。前から思っていたが、話し方が、変わってる。ちょっとマダムみたいな話しかたをする。それでいて、けっこうきついことも言う。顔は色が白くて清楚なお嬢様系。しゃべるとマダム、少しおもしろいのだ。

「どうして?」

「どうしてって、あれよ、あれ、政略結婚よ。その前準備として、婚約よ。お父様に嫌だと言ったら、今よりお金持ちになって、一生女王様みたいに暮らせるというのよ。女王様という言葉にやられたのよ。どうしたらいいかわからないのよ」そう言って頬をふくらませた顔になっているものの、目は少しうっとりした感じになっている。どうも、女王様という餌が響いたみたいだ。確か愛美ちゃんの家は、不動産もやっていると聞いた事がある。そっちのための政略結婚?それとも組長さんだから派閥争いの政略結婚?どっちなんだろう?

「何のための政略結婚?って思ってるのね、わかるわよ、考えてること。私も同じ事思ったもの。聞いてみたわ。組の方の政略結婚よ。今の時代は、いろいろ難しいらしいのよ。それで、あの世界も出来るだけ平和を求めてるの。意味のない争いはしたくないそうよ。平和のために婚約してくれって言うのよ。そのかわり、他の事は何でも願いを叶えてやるというのよ。変でしょ。いろいろ。お金なくて私を定時制高校に行かせてるのに。でも、婚約したら女王様みたいな生活が送れるらしいのよ。私、女王様憧れるわ」

そう言い終わった後、うっとりした顔に変わっている。ゆうつだったはずなのに、女王様にいろいろ思いをめぐらせてるみたいだ。

「そうなんだ」

「そうよ、どう思う?」

難しい、難しすぎる、だって、愛美ちゃんは女王様に憧れている。いいと思うとも言いずらいし、やめた方がいいとも言いずらい。だからか、この話に凌馬くんも瑠璃ちゃんも参加してこない。この展開を予想したか、もうこの展開が終わった後なんだ。そういう事かと思い、凌馬くん達の方を見る。ちょっと困ったような顔をしながらうなずいている。

「困ったよね」

愛美ちゃんの問いに答えが見つけられないから、とりあえず一緒に困ってみた。

「婚約しようかしら」


今までの私の人生。いろいろなことが頭をめぐった。それでつい言ってしまった。

「ありかも?」

お金はあった方がいい。それは間違いない。私は、きれい事はうんざりしかけてる。そうではない生き方もありだと思う。

もし、愛美ちゃんが女王様に憧れて愛のない結婚をしたとしても、あり。だって、それで、願いが叶うのなら間違ってないと思ったのだ。

「俺はちょっと嫌だな」ゲイの凌馬くんの意見。

「いいんじゃない」瑠璃ちゃんの意見。二人とも一言だけ意見を言う。

それを聞いていた愛美ちゃん

「うん、決めた、私、婚約するわ、女王様目指すわ」

そうなんだ、愛美ちゃんは、人の意見気にしないタイプなんだ。何となく感じていたが、この時改めて彼女の性格を理解した。

それと同時に私の性格、理解してくれてる人はいるだろうか?居ないな、なんて思いちょっと寂しくなった。


 「決まったわ!」

愛美ちゃんがスマホ見ながら勝ち誇ったように言う。まだ何も始まってないのだが。

「何が?」

「婚約」

「は~?」

「今、ラインでお父様に婚約しますわ」と送ったら「了解」って、返信きたわ。日にちまで入っていて、来週の日曜日、婚約パーティーするんですってよ」

愛美ちゃんは、行動がはやい。こういう所も今回の事で知った。決めたらすぐに行動に移すんだ。そのわりには、バイトとか、就職とかは決めないんだなと意地悪な発想の後すぐ気づいた。働く気あまりないんだ。じゃあこの展開は、愛美ちゃんにとって都合が良かったって事なんだな。そんな事をぼんやり思った。


 話題はいつの間にか駅前のカフェの厚焼き玉子のサンドイッチが美味しいとか、海老とアボカドのサンドイッチの方がすきだとかの話になっていた。私がすきなのは、チキンのサンドイッチだけど、なんかそういうの言えないんだな。誰かがそう言えば、私もって言うけど自分からは言えない感じ。


もうくたくただ。部活のバスケで凌馬くんがふざけて、私の邪魔ばかりした。どうやってもボールとられる。むきになって本当に疲れた。だらだらだらだら歩いてる私の視界に、三角屋根のログハウスで働いているお兄さんの姿が写った。ドキッとした。まさかの偶然。すれ違ったのだ。やっぱりカッコいい。


「緊急事態、駅前のカフェの前、集合」珍しく愛美ちゃんからのライン。日曜の朝に何が緊急事態なんだろう?あれっ?今日は愛美ちゃん婚約パーティーじゃないのかな?

みんな駅前にもう来ていた。

小さな可愛い猫を凌馬くんが抱いている。散歩をしていた愛美ちゃんが子猫を見つけたらしい。可愛くてなでなでしてたら、愛着がわいて困ってみんなを呼んだらしい。本当に可愛い。キジトラだ。ミャーとなく声がまた可愛い。

凌馬くん、飼ってあげたいけど、賃貸だからなあ。瑠璃ちゃんも同じく。私もそう。

愛美ちゃんが

「じゃあ私の家で飼うわ。お父様も今回の事があるから、私の願いは聞いてくれるはずなの。この子の名前はトラにするわ」との事。

今回の事とは、婚約パーティーの事らしい。どうも相手の男性が乗り気ではなく、延期になったらしい。愛美ちゃんの女王様計画はどうなったのか気になった。女王様計画ぜひ達成してほしいのだ。それを私は、見てみたい。


「愛美、トラって本気?もっと可愛い名前にしたら?女の子かもしれないよ」

瑠璃ちゃんがそう言い、凌馬くんが性別の確認をしている。

「この子、女の子だよ!」

凌馬くんが言う。

「トラがいいの」

「どうして?」

「昔、うちで働いてた若い衆に、トラっていたのよ、私、その人、トラが初恋だったの。女の子なら、トラ子にするわよ!」

愛美ちゃんの発言に一瞬みんな黙った。少し沈黙の後、瑠璃ちゃんが

「トラでいいんじゃない?この子は名前より美味しいご飯や愛情が好きだと思うし」

「うん、そうだね、トラに賛成」

凌馬くんもそう言う。

「だから最初からトラにするって言ってるのに」

愛美ちゃんは当然という顔で言ってる。私は、その感じをずっと見ていた。子猫を触ったらふわふわで毛の感触がすごく気持ちよくて、ミャーという声がたまらなく可愛かった。子猫は女の子だが、トラという名前になり、愛美ちゃんの家で飼われる事になった。

凌馬くんがスマホで猫のトイレとかご飯の事調べて、愛美ちゃんに教えてる。愛美ちゃんすごく真剣に聞いている。これは以外。そんな一面もあるんだと感心したりする。そんな私の心を瑠璃ちゃんが見透かしたのか、こちらをちらっと見て、意味ありげにニコッとする。恥ずかしくなって、下を向く。

「大丈夫は?めんどうみれそう?」凌馬くんの言葉に

「頑張るわ」

同じ目をしていた。女王様になると言った時と同じ目をしていた。真っ直ぐだ。その真っ直ぐさがなんかいいなあと羨ましく思った。


部活のバスケの後凌馬くんが

「あのさ~俺、ゲイでしょ。うん、瑠璃はレズだし、うん、ある意味瑠璃とは何となく気持ちはわかりあえるとこあると思う。愛美はストレートだから、きついことも言うけどゲイやレズに偏見は持ってない。ナナはどうなのかな?と思って。ナナは優しいからいつも合わせてくれてると思うけど、もう少し本音をだしてほしいというか、ほら、あのバスケの時、むきになって向かってきたでしょ?あんな感じいいと思うんだよね、瑠璃もそんなような事言ってたし、ナナも本音の方が楽でしょ?それで、うん、ゲイやレズの友達と友達やっていけそう?」

凌馬くんは、わりと淡々と、それでいて冷たい感じのしない言い方で聞いてきた。


「うん…何となく、その話、さけてたかも…ごめん」

「…うん、どうなのかな?俺も瑠璃も友達やってきたいんだよね、本音が言える友達。今って難しいでしょ、そういう関係。特に俺も瑠璃も、そういうの結構難しいんだよね、わりとみんな引くし、愛美はさ~あいつに時代の流れは関係ないし、相手が何者かも関係ない。あいつにあるのは自分がどうしたいかだけなんだよね。あいつはいいよ。しゃべり方マダムで、顔は清純なお嬢様。ちょっと変なバランスだけどあいつは人を元気にする力があるよ」


「うん、そう思う」

「ごめん、話、ずれた、ナナにも本音で接して欲しい、ゲイとかレズってやっぱ友達として無理?」


「…うん、ゲイやレズ…うん、よくわからない…でも、嫌ではない、友達出来て嬉しかった、私…ちゃんとした友達出来た事ないの…だから、どう接したらいいかよくわからないというか、でもみんなと仲良くしたいと思ってる」


「うん、そうか、わかった、これまで通りよろしく」

凌馬くんはそう言ってニコッとした。

「それだけ?」

「何で?」

「すごい勇気を出したつもりで話たのに、なんか…物足りない」

「それだよ、そういうことをどんどん言って欲しいの。ちゃんと言えるんだね、よかったよ」

「そっか、ちゃんと言えるんだ」凌馬くんや瑠璃ちゃんが気にかけてくれていたのが嬉しかった。凌馬くんのこれまで通りよろしくという言葉が本当にジーンときた。大事にしようと思った。本音、ちゃんと言えるかな?とかいろんな事考えたり、胸の辺りがポワンと暖かくなったり、今までにない感覚だった。

ずっと、自分の本当の気持ちは隠してきた。本当の事を言えるくらい信用出来る人に会えなかった。

信用してみよう。


「だからそういうことなの! 凌馬くんに関係ない!」

いつもわりと冷静な瑠璃ちゃんがむきになって凌馬くんと話している。

「関係なくもないよ、瑠璃の発想はだいたいわかる」

冷静な凌馬くんの言葉。

「だったら?気まずくなりたくないの、わかるよね!」

「わかるよ、でもそのやり方で、瑠璃はいいの?」

「だって…レズなんて告白したら、優香ちゃんに軽蔑される、友達なら…」

どうも瑠璃ちゃんに好きな人ができたらしい。でも、その人には、嫌われるのが怖くて、レズということも、好きだということも、隠してるらしい。私は、瑠璃ちゃんの言ってる事はすごくわかる。嫌われるのは怖い。凌馬くんが何を納得できないのかがわからない。


「好きって事は、言っても言わなくても瑠璃のすきにしていいよ。俺はゲイの瑠璃の友達だよ、自分のレズを隠して、その子と一緒にいて本当の瑠璃でいられるの?悲しくならない?そんなの楽しくないと思うんだよね。本当にそれでいいの?」

瑠璃ちゃんは下を向いたまま、なかなか答えられずにいた。


「凌馬、瑠璃が良いって言ってますわ。瑠璃をいじめてるみたいだわ」

何も言えない瑠璃ちゃんのかわりみたいに、愛美ちゃんが言う。

「いじめてない、むしろ逆」

凌馬くんに速攻返され、愛美ちゃん一言。

「難しいわ」


「俺はね、瑠璃に自分を殺す生き方をしてほしくないんだ。俺も瑠璃も世間の風当たり強いよ、でも、大切にしたい人にはなおさら自分のレズを隠さないでほしい。自分を否定してほしくない。俺は否定したくないんだよ、自分の事も瑠璃の事も。間違ってる?」


「難しいわ、レズを隠すことと、自分を殺すことは関係あるのかしら?」

また愛美ちゃんが凌馬くんと瑠璃ちゃんの話に入ってきた。

「愛美、ややこしくなるから、黙っててくれるかな?」

凌馬くんがちょっと困った顔で愛美ちゃんに言う。

「私は、シンプルがすきなの、なんでこんなにこじれてるのかしら?わからないわ」悪気なく愛美ちゃんが言う。


深刻な空気も愛美ちゃんの言葉で何故か、かなり和んでいる。不思議だなあと思って眺めていた。凌馬くんと愛美ちゃんのやりとりがツボに入ったみたいで、瑠璃ちゃんがクスクス笑いだす。それを見て私も笑ってしまい、凌馬くんも笑いだし、愛美ちゃんまで笑いだした。笑いは伝染する。

しばらくみんなで笑った後瑠璃ちゃんが

「凌馬、ありがとう。本当は凌馬の言うことわかってる。レズの事話してみる…。勇気だすよ!」

「うん、俺、瑠璃の味方、多分、愛美もナナも」

私も愛美ちゃんも頷く。

「ありがとう。あっ、でも好きなことは、秘密にしておく。だって恋愛は駆け引きでしょ」

瑠璃ちゃんはそう言うとニヤッといたずらっ子のように笑った。

「おすきなように」

凌馬も笑いながらそう返した。


「私、この時間が一番気に入ってるわ」

私達の通ってる定時制高校は給食もある。1時間目の授業の後が給食だ。メニューも日替わりでいろいろある。今日の献立はチキンカツバーガー、ミネストローネ、オレンジに牛乳だ。愛美ちゃんは給食好きみたいだ。もちろん、私も給食好きだ。

「愛美、チキンカツのソース顔についてるよ」

笑いながら凌馬くんが言う。

「よくってよ、こうやってソースなど気にせずムシャムシ食べるのが美味しいのよ。上品に食べたら美味しくないわ。口の回りベタベタにして私は食べたいのよ」

愛美ちゃんは口の回りについたソースの事を言われてから、余計に大胆にチキンカツバーガーにかぶりついている。なんか、チキンカツバーガーを噛み砕き、チキンカツバーガーのエネルギーを全部自分に取り入れるように、まるでチキンカツバーガーと1対1の勝負をしているみたいだ。これはある意味、生存競争だ。愛美ちゃんは、チキンカツバーガーに勝ったのだ。そんな訳のわからないことを思ったりした。


「私…。うん、報告。駄目だった。優香ちゃんにレズって話した。優香ちゃん、普通の友達がいいんだって。当たり前だよね。好きの告白の前に、人として駄目って言われた感じ。あっでも大丈夫。隠して友達やるのもきついし。早く駄目がわかったからよかった、ちょっと辛いけどね」

瑠璃ちゃんは優香ちゃんに受け入れてもらえなかった。そういう事ってある。うまく言えないけど私も知ってる。だから、そうならないように気を付けたりする。

でも、それって、逆かもしれない。そんな気がした。駄目なら駄目でいいんだ。


「瑠璃、頑張ったな。勇気出したね。ほら、おいで、泣きたいでしょ、俺の胸貸してあげる」

凌馬くんがふざけてるとも真面目ともとれるような言い方を瑠璃ちゃんにする。

「凌馬の胸はいらない。もし間違ってときめいたらややこしいでしょ! 凌馬にはときめかないけどね」

「ひどいな~人の善意は受け取るものだよ、でも、ゲイとレズ、ときめかない、うん、人間愛だね」

思わず私は言ってしまった。

「人間愛。なんかいい」

「ナナには、胸は貸せないよ。ナナがときめいたら、ナナ困るからね、俺、ゲイだから」

「瑠璃、このチキンカツバーガーすごく美味しいわよ。これ食べたらだいたいの事は大丈夫よ、食べなさい。足りなければ凌馬のもあげるから」

愛美ちゃんなりの励ましである。

「なんで俺のチキンカツバーガーなの?」

「だって、私はすでにムシャムシ食べてチキンカツバーガーないのよ。それくらい瑠璃にあげなさいよ」

「愛美は、チキンカツバーガー残ってたら瑠璃にあげれるの?」

凌馬くんの問いに愛美ちゃん少し考えてる、そして

「駄目よ、だって私、今日チキンカツバーガー楽しみに学校来たのよ、瑠璃の事は大好きだけどチキンカツバーガーはあげれないわ」


「私、チキンカツバーガー自分のあれば、大丈夫ですから、なんか、優香ちゃんどうでもよくなってきた」


「チキンカツバーガー効果よ」

愛美ちゃんがそう言うと、

「違う! いや、ある意味そうかもしれない」

凌馬くんがそう言って、ニヤリとした。

みんな、愛美ちゃん以外同じ事を感じている。それを愛美ちゃんが気づいてるかはわからないが、和やかな空気が流れていた。


「明日の給食は牛丼とけんちん汁と牛乳よ。生卵出ないわね、持ってこようかしら?どうやって持ってこようかしら?1個だけの生卵パック100均売ってないかしら?困ったわ」

愛美ちゃんは給食のメニュー把握してるらしい。愛美ちゃんの給食愛は人を幸せにするかもしれない?なんて思ったりした。


「そういえば愛美ってたくさん食べるのに痩せてるよね?」

瑠璃ちゃんが言う。

「私、毎日トレーニングしてるのよ、家の若い衆と一緒にトレーニングマシーンで鍛えてるの、よちよち歩き始めた頃からずっとやってるのよ」

「ふ~ん」

「瑠璃はやってないの?」

「うん、やらない、興味ない」

「そう」

愛美ちゃんと瑠璃ちゃんの会話はあっさりしてる。余計な単語が入ってない。ちょっといいなあなんて聞いてて思った。会話のリズムも気持ちいい。
























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