紫参と 帰路と

鈴木 千明

第一章 その目には

 新月の夜。

目標は齢14の男。3年前に依頼主を脅かし、戦死した男がいた。その息子だ。武術に長け、聡明。妖術を使うという噂もある。謎多き人物。暗殺は難しい。だからこそ私が呼ばれたのだ。音もなく、気配もなく、誰の知るところもなく、支配する。闇夜に満ちる霧。それが我々の継いできた名だ。


 目標を視界に捉えた。護衛が側に2人。少し離れたところに4人。異変に気付くのはその辺りまでか。他の者に構う必要はない。

短刀を構え、動き出そうと足に力を込めた。

心臓が、波打つ。

森の獣たちが、慌ただしく身を潜める。自身も影に溶け込み、呼吸を整える。

なんだ、今のは?わからない。動いてはいけない気がした。本能、とでもいうのだろうか。

もう一度、目標と護衛を確かめる。特に変わった様子はない。目標は縁側に腰掛け、薄雲に覆われた弱い光の月に向かい、目を瞑っている。

最良の動きを頭の中で確認し、今度こそ動く。周りの人間が私の影を認識するが、遅すぎる。既に短刀は、目標の首元まで4寸と迫っていた。

目が、合った。

その目には、焦りも恐怖の色もなく。紫の目は、ただ静かに、私を映していた。

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