水は流れて時は止まった

 ヒメカの発動。

 C-02-L『海帰』

 戦闘エリアを大海原に変更する。


 だだっ広い海の中にヒメカとシャルルの2人が落ちる。周囲に陸はなく、水中では当然動きも呼吸も制限される。シャルルは当然上を目指して泳ぎ始めたが、ヒメカはそれを封じにかかる。


 ヒメカの発動。

 A-29-O『トーチャー』

 対戦相手の身体の部位2つを指定し、15秒後にどちらかを破壊する。


 指定したのはシャルルの両足。これで15秒後にはシャルルはどちらかの脚を破壊され、更に動きに制限がかかる。


 ヒメカの発動。

 H-05-V『グラヴィジョン』

 視界に捉えた生物や物の重さを倍にする。


 水中では体重増加の影響が減るとはいえ、『トーチャー』も合わせてあと1度『グラヴィジョン』を発動させれば、シャルルはほとんど身動きが取れずに沈む事になる。能力のインターバルの間、ヒメカはひたすらシャルルから離れていればいい。『海帰』なら逃げる場所には困らない。


 相手に全く触れる事無く、一方的にこちらの能力を押し付けて勝つ。自分のメンターらしい、とヒメカは思った。


 しかし誤算が起きた。シャルルの動きが妙に早い。既に体重は2倍になっているにも関わらず、逃げる自分の速度よりも僅かに、いや、遥かに速い速度で泳いできている。


 戦闘開始からずっと、シャルルはヒメカの視界の中にいた。よって、その間に発動した能力は全てヒメカは把握しているはずだった。例えばそれが、止まった時間の中でなければ。


 シャルルの発動。

 H-08-W『時間停止』

 2秒間、自身以外の時間を止める。その後、自身の全ての能力を封印する。


 シャルルはヒメカの『海帰』より早くこの能力を発動させていた。止まった時間の中では、どんな能力を発動してようとそれを相手に悟られる事はない。


 シャルルの発動。

 A-25-I『キーメーカー』

 能力を封印する鍵を召喚する。


 召喚したのはHEAD用のキー。更に、


 シャルルの発動。

 C-10-B『限定強化』

 これ以外の能力が封印状態の時のみ、身体能力を強化する。


 『時間停止』が発動して1秒の間に首筋に鍵をさし、自身の肉体も強化した。開始地点から1歩も動いておらず、ヒメカには『海帰』によって先手を取ったのは自分だという認識があった。しかしその実、能力を隠すという形で先手を取っていたのはシャルルの方だった。


 『時間停止』『キーメーカー』2つの能力が封印された事により、『限定強化』は2段階シャルルの肉体を強化している。重さは感じるが、『トーチャー』が効果を発揮するまではまだ10秒ある。その間に2人は海上に顔を出し、距離は残り3メートルという所まで縮まっていた。


 ヒメカは混乱していた。肉体は同じ。相手が能力を使っていない以上、追いつかれるはずはない。だが、相手の常人離れした動きは明らかに何かの能力の影響だった。何とか逃げ切らなければと水をかくが、シャルルは冷静にヒメカを追い詰めていく。


 そして追いつくと同時にヒメカの『トーチャー』が発動する。右脚が破裂したかのように破壊され、シャルルは苦痛に顔を歪める。だが既にヒメカの腕は掴んでおり、『限定強化』された肉体で引き寄せる事には成功した。


 もがきながら2人は組み合う。ヒメカは既に2度めの『トーチャー』を発動しており、次の対象は腕だ。片腕を破壊出来れば、例え相手が『限定強化』された肉体だろうと振りほどいて離れる事が出来る。そして1度離れれば脚を負傷し、更に重くなった身体では追いつかれないはず。


 追いつかれてから15秒の間、ヒメカは防御を固めてシャルルの攻撃を受けきった。あと1秒で2度めの『トーチャー』が発動するというその瞬間、シャルルが自身の首に刺した鍵を逆方向に捻った。

 これにより、1秒で中断していた『時間停止』の効果が再開する。僅か1秒ではあるが、それはシャルルだけの時間。その間にシャルルは2度めの『キーメーカー』を発動する。今度のキーはCORE。


 時間の流れが戻ってくる。一瞬、何が起きたのか理解出来なかったヒメカは、両手で首を締められているのに気づき全ての流れを理解する。『時間停止』『キーメーカー』そして何らかのC-B系能力。これらの組み合わせによって巧みに隠蔽されたシャルルの計画。


 だが、『時間停止』の効果により、シャルルの『限定強化』は封印されている。そこでシャルルは止まった時間の中で手に入れたCOREキーを自分に差し込み、逆方向に捻る。


 『キーメーカー』は、能力を封印する一方で逆に回せば封印された能力を解除する事も出来る。これにより、再び発動する『限定強化』。ヒメカの『トーチャー』によって片腕は破壊されたが、既にシャルルは止まった時間の中でヒメカの喉を押さえている。


 破壊された片手片足と重くなった身体を、2段階の『限定強化』と海という立地によってクリアし、抵抗する相手を2度目の『時間停止』で無力化した。能力を隠し続けたシャルルが、最後の最後は自身の持つ最大の力でただ相手の首を締めにかかる。


 こうなっては、『グラヴィジョン』で重くした所で意味がない。次の『トーチャー』までの15秒は持ちそうにない。


 決着。

 シャルルの勝利。


 参加メンター

 ヒメカ側 百足陣三郎様

 シャルル側 鷹宮センジ様



 感想

 今回はシャルル側のコンセプトとして、「能力を隠して騙す」というのがあったので、最大限意図に沿うように頑張ってみましたが、「隠す」のはまだしも「騙す」というのはなかなか難しいな、という事に気づきました。

 というのは、PVDOにおいては基本的に対戦者の両方が全ての能力を把握している前提ですので、能力が発動した瞬間を目視している場合はそれが何の能力かを瞬時に理解するという形を取っています。ですので、本当の能力を別の能力として誤解させるというムーブが理屈的に無理がある。それでも、今回の『時間停止』や『フォグ』『ブラックアウト』等で能力が発動している事自体を隠すというのは面白いアイデアですし駆け引きとしてもアリですね。

 この辺ちょっと、「少女はどのようにして相手の能力を把握するか」という点についてルールにきちんと定義しておいた方が良いかもしれません。

 今回試合への感想というかシステム周りの事ばっかり言ってしまいましたが、メンターのアイデアを信頼した上で貫く2人の対決という部分は良い感じだったかなと想います。

 ご参加ありがとうございました。またよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る