華歌
高岡 望
第0話・プロローグ
世の中には趣味を仕事にして、それで充分に生活していけるくらいの金を稼いでいる人間がいる。
例えばそれは漫画家だったり歌手だったり、職種は様々だろう。
でもそういった人間はごく僅かで殆どの人間は趣味の範疇を超えることはない。
「趣味」はあくまで「趣味」で、生きていく為にはそれとは別の「仕事」をしなければならない。
でもそれが分かっていても「趣味」を「仕事」にしたいと、足掻く人間はいる。
傍から見れば愚かに見えるだろうが、それでも諦めずに他の全てを犠牲にしてでも夢を追いかけたいと藻掻き続ける。そしていつか必ず夢を叶え、栄光を手に入れる日がやってくる。そんなふうにいつまでも希望的観測を続け、小さな可能性に依存して生きていく。
そんな下らない生き方を選んだ奴等をこの俺―岸山朱雀は見下していた。
だってそうだろう、どう考えてもそれは殆ど勝ち目のない賭けみたいなもので、その賭けに負ければ人生終了みたいなものじゃないか。
全くもって愚かで、無様で、まるで罠にかかったゴキブリのようじゃないか。
俺はそうはならない。
小さい頃から英才教育を受けてきた俺は将来エリートコース確実だ。
頭も切れるし、運動神経も抜群、テストでは常に上位を取っている。
全てが上手くいく、何もかも安泰だ。
小さな悩みこそあれど、人並みの、いや人並み以上の幸せを感じながら生を全うする。
それが俺の人生の在り方だった。
……そのはずだったんだ、なのに、どうして……俺は今「売れないロックバンド」なんていう小さな希望に依存しているんだ!?
これはどこかで人生を踏み外した馬鹿な少年と、そんな少年を想い続けた二人の少女の果てしなく純粋でどこまでも歪んだ恋の物語である――
華歌 高岡 望 @archemikillsm
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