黒猫は見た!

池田蕉陽

第1話 黒猫は見た!

ああ、見てしまったにゃ。

二丁目の竹田さんの家に、泥棒が入ってもうたにゃ。


黒猫のポン太は石壁の上からその様子を眺めていた。


竹田家の熟年夫婦は奮発して、三日前からハワイ旅行に出かけている。

出かける間際、おばさんがポン太に自分に会えないのが寂しいのか、泣きながらさようならと言ったのを覚えている。


それを知ってのことか、あの泥棒は竹田家を狙ったのだ。


竹田のおばさんは、野良猫のポン太にいつも残晩飯やにぼしなどで餌付けしている。

このポン太という名前も竹田さんが付けてくれだのだ。


ついに恩返しをする時がきたにゃん。


ポン太は身軽に石壁から飛びおり、竹田さんの庭に入った。

泥棒は既に竹田家に侵入している。


まいったにゃ、どうやって入ればいいにゃ


正面の扉は猫であるポン太には到底開けることはできず、ほかの入口を探す他なかった。


庭の広さは、車1台止めれるスペースくらいある。

沢山の雑草が生い茂り、少し歩きづらい。


この窓から侵入するしかないにゃ。


庭に続く石の段差を一段登ったところに、大きな窓がある。

ポン太は助走をつけ、石段の上を飛び越え窓に直撃した。


青タン間違いないにゃ...


鈍い痛みが頬に走るのを感じながら、ポン太は茂みに隠れた。


やがて、窓の内側のカーテンが開き、男の姿が現れた。

目出し帽を被り、黒いパーカー、誰がどう見ても泥棒だ。

外の道路からは、石壁によって竹田家の庭は見えない。


泥棒はそのまま、様子を見るため窓の扉を開けた。


まんまとひっかかりやがったにゃ


ポン太は自慢の特技ステルスを使い、窓に近寄った。


泥棒の身長は180cm以上もあり、ポン太の姿は死角だ。

泥棒が首を傾げている隙に、匠のように股をくぐり抜けた。


伊達に野良猫やってないにゃ。


人間でいうホームレス、いくつもの修羅場を潜ってきたポン太にとってそれは容易かった。


家の中は既に散らかっており、紙やら物が地面に落ちている。

ポン太はとりあえず、ソファの物陰に潜め、泥棒の様子を伺っていると、再び部屋を物色し始めた。


部屋に入ったのはいいとして、どうやってあの男を追い出せばいいにゃ。

んーーわからないにゃ、とりあえず人間が一番大事にしている通帳と印鑑を先に頂いて秘密基地に隠すにゃ。

確か、竹田さんのそれらは2階の寝室のタンスに閉まってあったにゃ、以前遊びに来た時に偶然見つけてしまったのにゃ。


階段がある先を目指そうと、足を踏み出すと白い紙を踏んでしまった。


にゃんだ?


「末期癌 ステージ4」


紙にはそれと小さな説明がいっぱい書かれていたが、ポン太にはなんのことか分からなかった。


まあいいにゃ、とりあえず2階へレッツゴーにゃ。


ステルスを使い、2階の寝室に行くとさっそく一番下のたんすの引き出しを上手いこと開けた。


にゃ?印鑑しかにゃいにゃ、前あったのに、もう場所変えたにゃ?


そこには日記と印鑑があるだけだった。


もしかしてこの中に挟んでるにゃ?


ポン太は肉球を駆使して日記をタンスから取り出すと、ページを開いた。


にゃ!やっぱり挟んであったにゃ!


1ページに通帳は挟んでおり、ポン太は取ると、日記になにか書かれているのが分かった。


「遺書 私と夫はもう生きるのを諦めました。どうせ死ぬなら、ハワイを満喫したあと綺麗な海で人生を終わりにしたいと思います。この通帳は好きにしてください。「4719」

さようなら」


んーやっぱりなにが書かれてるかわかんないにゃ。とりあえずこれも持っていくにゃ!


ポン太はすぐ隣に置いてあった小さな手提げバッグにそれら3つを入れると、持ち手をくわえた。


もうこの3つさえあれば、竹田さんもにゃんとかにゃるでしょ!

さあ、次はどこから出るかが問題にゃ


寝室の窓を見つけた。


ポン太がダメ元で横に押していくと、あっけなく開いた。


にゃ!開いたにゃ!ラッキーだけど竹田さんもっと用心深くした方がいいにゃ!


ポン太は2階の窓から弧を描くようにジャンプした。

そのまま、上手いこと家の前の石壁の上に着地して、さらに飛び降り地面にたつ。


ふぅ〜、これで恩は返せたかにゃ?

竹田さん喜ぶかにゃ?またにぼし貰えるかにゃ?


ポン太はバッグを咥えたまま、爛々と秘密基地に戻っていくのであった。


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黒猫は見た! 池田蕉陽 @haruya5370

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