第二十七話:連携

一際被害が大きそうな場所に向かう。


屋根から屋根へと飛び移る…なんてファンタジーのような芸当は出来ないから、巨大なモンスターが通ったであろう跡を地道に追いかける。


足跡も巨大だが、ノラ街というろくな整備もされていない街では、モンスターがそもそも攻めてくることなど想定されていない。


ボアの急襲によって、街の景観は変貌した。


昨日まで普通に暮らしていた街がモンスターによって破壊される。


壊れるものは壊れるし、廃れるものは廃れる。


それはそういった運命なのだと、第三者の立場でいれば高を括っていたかもしれないが、いざ当事者になれば話はまるで変わってくる。


大した力も持たない俺でさえ、怒りが込み上げてくる。


行きつけの酒場に被害が無いことを祈る…。


「た、助けてくれ…」


壁を背に逃げ惑う住民をボアは今にも正面から吹きとばそうとしている。


ちっ、糞野郎が!


目の前の1、2m級のボアを2体立て続けに叩っ斬る。


住民は言葉を失い、失禁した。


「馬鹿野郎!!さっさと逃げろ!!!」


あ、ああ、あわ、あ…。


視点が定まらない目でふらふらになりながら、その場から離れていく。


ちっ。


俺は再び巨大な塊を追って駆け出す。


力の無い人間は、力を有する者によって自分の命を握られ、常に頭を下げながら生きていくしかない。


誰かに握られた人生、誰かのレールに乗った人生なんてもうこりごりだ。


これは記憶が無い人間の戯れ言。


だが、妙にしっくり来た。


ボンッ!


爆発音がする。


音の鳴る方へ自然と足が向かう。


剣と何かがぶつかる衝撃音。


魔法の詠唱。


モンスターの鳴き声。


血生ぐさい臭い。


皆、戦っている。


ジェイのパーティーだ。


「オリャャアァー!」


黒い塊に対してジェイは剣を振るう。


巨大なボアは器用に角と牙を使い応戦している。


迫力だけではない、猛者を思わせる戦いぶりだ。


俺もあのようなボアとそうそう対したことは無い。


パーティーには魔法を使える者もいるようだが、効果があるのは雑魚にだけだ。


あれではジェイの攻撃が当たらない。


かつて俺は単体の冒険者でボア狩のラトと嘲笑されたこともあった。


誰かとパーティーを組んで戦うなど色々と面倒で御免だと避けていた。


だが、ボロと出会い、ギルドで誰かと一緒に戦い、ミラと行動を共にする中で俺自身の何かが変わったと思いたい。


今は目の前の脅威に対して向き合いたい。


誰かが止めなければ、俺だって死ぬことも考えられる。


そうだ、自分のためだ。


錆びた剣を抜いた。


ミラと俺は走り出す。


「ラトかっ!? 」


ジェイが振り返る。


俺らの助太刀が大した戦力になるとは思えない。


だが、ジェイは確かに笑った。


フッ。


「おらァー!!」


グオオォォー!!


ボアが苦痛の表情を浮かべる。


ジェイの一斬りが奴の横腹に決まった。


「おせーぞ!ボア狩!」


肩を並べる。


意外にこいつもボロボロだ。


この黒い塊と相対するまでに、一体何体のボアを斬ったんだ。


「やるぞ」


錆びた剣を構える。手の震えは無い。


グオオオォォォー!


ボアが哮る。


このクソッタレが…。


なんだってこんなことに。


ミラも殺る気である。

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