作戦会議と今日のご飯 1
いやはや、ほんの興味で鍛冶屋に着いて行ったら、なんか貴重っぽい武具までもらった上に、明日には冒険者として初仕事もゲットできそうで良いこと尽くめだな。
これもすべて、俺の普段の行いの為せる業か……。
清く正しく美しく、品行方正に生きてきてホント良かった!
「良かないわよっ!」
「おぅっふ」
意気揚々と歩いていたら、背後からカンナに膝の裏をカックンされてみっともなくコケてしまった。
「何すんだよ!」
「それはこっちのセリフ!」
俺が文句を言えば、カンナの方も何やらご立腹だった。何故だ。
「おいおい、なんだよ。せっかく定期的に仕事が入る算段を付けたってのに、何を怒ってんだ?」
「何を怒ってる? はぁ!? 私がっ! なんでっ! 怒っているかっ! 本気でわからないとおっしゃりやがる!?」
ふえぇ~……カンナさんがガチギレしてるよぉ。
こりゃ迂闊なこと言ったらマジで血の海を見ることになるな……。
「もしかして、俺がアンバーと話を付けたことを怒ってんの?」
「ったりまえでしょっ! いくらアンバーさんから仕事を回してもらっても、私の借金は減らないじゃん! それどころか増えてくばっかりになったじゃないの!」
「いやいや、そうじゃないんだって。大丈夫、俺を信じろ」
「その信じる根拠を示しなさい」
「えーっ。こういうのって、秘密にしとくからいいんじゃねぇの?」
「あのね、アルさん。古今東西、『おまえは知らなくていい』とか『おまえが知るにはまだ早い』ってセリフは、事態をより悪化させるだけなの。どれもこれも『先にそれ言っとけよ!』ってヤツばっかり! いい? 共同作業の基本はホウ・レン・ソウ! 報告! 連絡! 相談! 情報共有が一番大事!」
むむむ……。
言われてみれば、確かにそうかもしれない。
まぁ、元からカンナとは相談するつもりだったし、別に隠し立てするつもりもなかったし、何より
でも、その前に。
「打ち合わせをするなら、美味い飯でも食いながらにしようぜ」
「あぁん? この状況で何を食ったら美味いってぇの!?」
怖い怖い! 目つきがマジ怖い!
「いっ、いやほら! 今日って森から戻ってきてから何も食ってないじゃん? 腹が減ってると怒りっぽくなるって言うし! まずは美味しいご飯を食べて落ち着こうぜ」
「……チッ」
なんか憎々しげに舌打ちされたけど、それでも俺の提案をカンナは受け入れてくれたらしい。しこたま不機嫌そうに「付いてきて」と言って、町の中を進み始めた。
右へ、左へ。
慣れた足取りで町の中を進む……の、だが、なんだか人通りが徐々に少なくなっていってるような気がする。まったくないわけではないのだが、様々な店が建ち並ぶ商店街ではなく、住居棟へと進んでいるようだ。
こんなとこにも飯屋ってあるもんなのかね?
そう思ってたら、カンナに連れ込まれたのは飯屋どころか普通の小さな個人宅だった。
目を見張るほどの大豪邸ってわけじゃない。
それでも個人用の台所に風呂、トイレ、そして約二十平米ほどの居間がある集合住宅の一室だ。人族の社会だと、これが普通の住居なのかね?
「ここ、もしかして……?」
「そ、私の家。と言っても借家だけどね」
ほうほう、ここが……意外と小綺麗に片付いてるな。
居間には寝室も兼ねているのかベッドにテーブルに衣装棚、それと窓際に杖とか弓とか水晶玉とかが置いてある作業机があった。
「あれ? もしかしておまえも武器とか作ってんの?」
「ううん。どっちかっていうと元からあるものを改造してるの」
「改造?」
「言ってなかったかしら? 私、職種は〝技工士〟なの」
なんでもカンナは、世界図鑑からの知識を頼りに既存の武器や道具を改造したり、まったく新しい道具を開発したりすることを生業にしているらしい。
ただ、知識はあっても技術が追いつかず、もっぱらアイデアを出してアンバーに実現させてもらっているようだ。
それでもアイデア料だけで食っていくのは難しく(画期的なアイデアでも実現できずに売れないとかあるらしい)、作り出したり改造した武器で怪獣を狩る冒険者もやっているとのことだ。
苦労してますなぁ。
「って、飯は?」
「借金抱えてるのに外食なんてできますか!」
「だから大丈夫だって──」
「話を聞くまで信用できません」
おぅ……。
「アルさんは自信満々みたいですけど、話を聞いて私が納得できなければ、今晩はガチガチに固まったパンを水でふやかしたものが夕飯になります。言っときますが、味もなく単にお腹を膨らませるためだけの貧乏飯ですからね。逆に、納得できればちゃんとしたご飯を作ってあげます」
なん、だと……? それじゃまるで、夕飯を人質に取られてるみたいじゃないか!
うえー……そうなってくると、自分の考えが本当に最善なのか迷ってくるんだけど。
「なんだか説明するのが怖くなってきたんだけど……?」
「いいから、とっとと吐け」
今日のカンナさん、マジ怖ぇっス。
「別にそんな複雑なことしようってわけじゃないんだよ。ただ、明日はグランドタートルを狩りに行くってだけの話」
「え?」
「だって、あれだろ? グランドタートルの甲羅一つで、おまえの借金は完済できるんだろ? だったら明日は、それを狩ればいいだけじゃないか」
「いやでも、アンバーさんが依頼するのはクラブエッジの甲殻ですよ?」
「もちろんそれも狩る。けど、受けた依頼の怪獣しか狩っちゃうけない決まりはないよな?」
「……ああっ!」
俺の指摘に、カンナは大きく目を見開いて膝を打った。
「え、でも、じゃあなんでアンバーさんにクラブエッジの甲殻採取の依頼をお願いしたんです?」
「別にクラブエッジの甲殻採取の依頼じゃなくてもよかったんだよ。ただ、冒険者ギルド経由で仕事が受けられれば」
早い話、今のところ俺らの目的は大きく分けて二つある。
一つは、カンナの借金を完済すること。
もう一つは、冒険者ギルドのランクを上げることだ。
そのためにはグランドタートルの甲羅を手に入れなきゃいけないし、ギルドの依頼を定期的にかつ確実に受けなくちゃいけない。
「確かに、アンバーが無理に冒険者ギルドに依頼を出さなくてもいいんだけどさ。けど、おまえ言ってたじゃん? ギルドの依頼は早い者勝ちだって。俺らで受けられる仕事が確実に〝ある〟ってわかってた方が無難だろ?」
「おおっ、なるほど!」
ふっふっふ。計画ってのは、杜撰すぎてもアレだけど、緻密すぎてもダメなのだよ。
ある程度融の通を持たせて、最終的に目的が達成できるようになっていればいいのだ!
「それで、だ。俺の計画としては、明日はクラブエッジの甲殻とグランドタートルの甲羅を手に入れる。ただ、甲羅の方はすぐに換金しないでランクアップできそうなくらい、アンバーから仕事を回してもらうつもりなんだよ」
その間、五十ゼナーずつカンナの借金は増えちまうけど、なぁに、それ以上の収入になるように怪獣を狩ればいいだけの話だ。
「そのためにも……カンナ。おまえの世界図鑑で、グランドタートルとクラブエッジの両方が生息してる場所って調べられないか?」
俺がアンバーに「むしろ、それじゃないと困る」と言ったのは、グランドタートルもクラブエッジも、両方とも水生怪獣だと知っていたからだ。
もしアンバーからの依頼が陸生怪獣の素材だったら、移動だけでどんだけ時間が掛かっていたかもわからない。
「なるほど……ちょっと待ってください」
俺の質問に頷いて、カンナは虚空に視線を走らせた。
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