第63話 交錯する思い 3
間は暮斗を毒づいた。
しかし、あまねにはあの時の暮斗の態度が嘘だったとも思えない。
「……あたしはあの時、怪人連盟にいることより、あたしを思ってくれる友達と一緒にいる道を選びました。だから前の抗争の時、あたしは…………」
それが事の顛末だった。
「はぁん。情にほだされたということか。まったく、お前らしい」
「でも……」
「でも、道を選んだとはいえ、これまでずっと憎んでた相手が信頼する奴だったから動転して逃げ出した、か」
「……はい」
今、自分がどうすればいいのかわからなかった。
信頼していた暮斗のもとへは戻れず、かといって今更間に縋るのも都合が良すぎる。
あまねは今宙ぶらりんなのだ。
だが、そんなあまねに対して間が言ったのは意外なことだった。
「……まぁ、あんまりこういうのは好きじゃないんだがな。命令だあまね。怪人連盟に戻ってこい」
「命令? でもあたしは……」
「なんか勘違いしてるかもしれんが、お前はまだ除籍されてない。というより、恐らく上の連中はお前を除籍する気なんかこれっぽっちもない」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。……それと同時に、お前の処刑命令が出てる」
「………………え?」
処刑命令?
その言葉の意味が理解できず、あまねは真っ白になった頭でなんとかその言葉を咀嚼しようとした。
処刑命令というものは本来捕獲したヒーローや、高位の怪人が裏切った時のみに適応される命令だった。場合によってはインターネット配信なども行われるほど大規模で、怪人連盟内ではかなり重い罰である。
だがそれが、たかだか下っ端の自分に適応されるという点がわからなかったのだ。
使えない部下を殺すことなど怪人連盟でよくある。それと同じように銃で頭を撃ち抜いてしまえば終わりなのだ。
だというのに、何故?
「ど、どういうことですか? なんであたしが」
「知るかよ。ともかく上はお前を処刑したくてたまらないんだよ。そのためにずっと籍を残してんだ」
「そんな……あたしが……処刑?」
「フラフラしてるお前のことを以前からマークされてたようだが、裏切りが明確になったこの前の抗争からずっと影で追い回してる。ったく、さりげなくお前を守ってたせいでここ最近は仕事にならなかったんだよ」
「あたしを……?」
「……だから功績を残して上に媚び売れっつってたんだよ。もう遅いけどな。……お前を死なせるわけにはいかないからな。あやねとの約束だ。私自身もお前には死んでほしくない。だから……!」
――そのとき、間はあまねをもう一度強く抱きしめた。
「……処刑命令を撤回させるほどの仕事をしてくれ。例えば、悪は絶対許さないマンを倒すとか」
「暮斗を……倒す?」
「そうだ。幸い悪は絶対許さないマンはお前に心を開いているように見える。その隙を突いて殺すんだ。上にその作戦を進言してやる。成功したらお前の処刑を撤回してくれとな。頼む、命令を聞いてくれ……。お前自身のためにも、私のためにも」
「で、でもあたしは……」
「……あいつはあやねの仇だ……! お前の姉と、私の親友の……! だから頼む……。もう私になにも失わせないでくれ……!」
間声は、消え入りそうなくらい小さなものだったが、鬼気迫っていた。
詳しい事情は知らなかったが、その様子だけでも尋常じゃないくらい、取り返しのつかないことになっているのがわかった。
――殺さないと、自分が殺される。
直感的に分かった。
だが、気持ちの方は?
いくら慕っていた姉を殺したのが暮斗だったとしても、彼のことを信頼していた自分の気持ちはまぎれもなく本物なのだ。
更にここで選択を強いられる。
選んだ道を放棄するか、それとも選択を変えないのか。
前者を選べば自分の命は助かる。だが同時に恩人と親友、そして安寧の道を失う。
後者を選べば間違いなく自分は殺される。余地はない。
「あ……たし……は…………」
それは重すぎる、究極の選択だった。
胸の中には自身を思う人。
そして殺す対象も自身を思ってくれた人。
――こんなの、どうすればいいのかわかんないよ。
どうすればいいの? お姉ちゃん。
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