それはまるで嵐のように

カゲトモ

1ページ

 やっと雨が止んでくれた。


家を出る時、小雨はすぐに止むと思って傘を持たずに出て来たから、もっとひどくなったらどうしようかと思ったけど早めに止んでくれて良かった。上着と髪が少し濡れただけで済んだし。


今朝は午後から晴れると天気予報で言っていたのに。ちらほら同じように傘を持たずに歩いている人もいたくらいだし。天気予報士さん、もうちょっと詳しい情報教えてくれよ、なんてね。


ぼぅ、と人通りの多い交差点で信号を待っていると、向かいの道で一組の男女が話しているのが見えた。向こうまではそんなに遠くないけれど、車も良く通るから何を言っているのかまでは分からない。


ま、痴話喧嘩だろうけど。


ってカップルが言い合っている=痴話喧嘩っていうのも安直すぎるかもしれないけれど。だいたいがそんなもんだろ。男の方が女性に向かって手を合わせて何かを言っているみたいだし、浮気がばれたとか? それにしては女性の方が怒っている感じがしない・・・すでに呆れている? まさか。


なんていつも通り人間観察をして勝手に想像を膨らませてみる。実際どうなのか知らないけれど。


 信号機から信号が青になったアナウンスが聞こえて一斉に白線を越える。もちろん前を見て歩いているからその二人が視界に入る訳で。別に見たくて見ているんじゃないのよ。


「・・・ます」


 ふと、女性の声が耳に入った。その二人組は信号が変わったと言うのにその場から動いていなかった。


 何かおかしい、そう思いつつも速度を変えずに歩く。


「はなして」


 あぁこれはカップルじゃないな、と思ったと同時に俺は人混みに紛れながらその二人の間をさも偶然かのように通り過ぎた。


 その後には背中から驚いたような男の声だけが聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る