第70話 重ねパンケーキと夏の外コーヒー

「ああ、そうでした。メニュー作りの前に、まかないをお願いしてもよろしいですか」


 夏至祭りの準備に忙しいオリオンさんから、メニューの一品のみならずまかないまで任されて、うれしいような困ったような気分になった。


「はい。食材は、あるものを使っていいですか」

「どうぞ」


 夏至祭のメニューの食材は、改めて用意するから好きなものを使っていいと言われた。

 夏至祭りへ気持ちを上げていくのには、和食や中華料理やエスニック料理は違うような気がする。

 私は、北欧が舞台の映画や、小説を思い浮かべる。

 みんな、何を食べていたかな。


 コーヒーは北欧の児童文学によく出てくる。

 ムーミンにも、ピッピにも、スプーンおばさんにも。

 コーヒーの香りは、物語に憩いのひと時を演出する。


 庭でのコーヒーとスイーツの集いや、海辺でのピクニックコーヒーなど、野外でコーヒーとおしゃべりを楽しむ場面も物語ではよく目にする。


 火をおこして、鍋でわかしたコーヒーに、森で摘んだ色とりどりのベリー。

 きつね色に焼いたパンケーキを重ねていくのも楽しく、ベリーとたっぷりのクリームが添えられると、ほほえみがテーブルにこぼれる。


 北欧の長く厳しい冬の間、陽光の降り注ぐ夏のコーヒータイムの思い出は、人々にぬくもりを感じさせてくれることだろう。


 そんな光景に思いを馳せてから、まかないの一皿へと思考を移す。

 コーヒーとパンケーキ、オープンサンド、このセットはオーソドックスだ。

 パンケーキは夏至祭のメニューにするからはずすとして、オープンサンドだと軽すぎるかも。

 これから準備で忙しくなるわけだから、力のみなぎる要素も欲しい。


「準備の合間に、食べやすくて、おなかを満たして、美味しいって思える、胃にしみいるようなごはん……」


 コーヒーとパン類やスイーツは、ちょっと違うかな。

 となると、一皿で満足感がある、スープ、鍋料理。そういえば、最近、夏でもおでんって見たことある、冷たいおでん。北欧風クールおでんもいいかもしれない。


 シンプルな思考回路は、こういう時便利だ。

 人との関わりには、複雑怪奇にめぐりめぐってこんがらがってしまう私の思考回路。

 それにはほとほと手を焼いている。

 けれど、なぜかおいしいものについて考える時は、まとに向かって風をきって一直線に矢が飛んでいく。


「食材と、香辛料と、何があったかな」


 私はカウンターの脇からキッチンに入ると、きちんと整理された収納庫と、こじんまりとしてはいるが性能のいい冷蔵庫の中身を確めた。



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