夏至祭りの焚火の集い
第68話 夏至祭りへのご招待
最初に気がついたのは、フルモリ青年。
「大変です、火が出てますよ」
あまり大変な様子ではなかったので、最初は、フランベか何かでフライパンに火が移ったのかと思っていた。
「ネズさん、早く、水を、飲んでいるものでいいので、早く」
言葉の調子とはうらはらに、せかす言葉の勢いに、私は初めて事の重大さに気がついた。
「パティオがぼや!? 」
思わず立ち上がった拍子に、椅子を後ろに倒してしまった。
「がらがらどっしゃん、椅子が転がり、ブレーメン」
「どんがらがっしゃん、椅子がすっ飛び、ブレーメン」
フェザリオンとティアリオンが、大げさにあたふた走り回っている。
こういう時に限って、オリオンさんは、買い出し中。
「と、とにかく、消さないと」
私は飲みかけのアイスハイビスカスミントティーを、グラスピッチャーごと抱えるとパティオへ飛び出した。
フルモリ青年がブリキのバケツに水道から水をいれている音が聞こえる。
フェザリオンとティアリオンは、オリオンさんを呼び戻そうと、昔ながらの電話のダイヤルを回している。
「火が出てるのは、どこ」
私はグラスピッチャーを抱えたままパティオをうろうろ。
「こちらです、ベンチの陰です」
バケツを手にしたフルモリ青年の声に見やると、小枝を組んだ小さな焚火。
小枝からはちろちろと炎があがっていた。
「火って、これ」
ずいぶんかわいらしい焚火だった。
子どものいたずらとも言えないような、こじんまりとした焚火。
それでも、植物の多いパティオだ。
風に揺られてつる植物が火に触れれば、あっという間に燃え移ってしまうだろう。
「水をかけなくても、踏んで消せそう」
私は、アイスハイビスカスミントティーをかけてしまうのが惜しくなって、つぶやいた。
「火は、くすぶっているだけでも危ない」
フルモリ青年は、バケツの水をかけようとした。
「踏んではだめです、ネズさん」
「水をかけてはだめです、フルモリさん」
呼び止められて、私とフルモリ青年は顔を見合わせた。
「ほら、ここに、ごあいさつのかごが置いてあります」
「ほら、ここに、夏至祭りの招待状が置いてあります」
私とフルモリ青年は、二人から手渡された白樺の皮で編んだかごをのぞき込んだ。
「ずいぶん大きなブルーベリー。甘酸っぱい香りの、これは、ラズベリー。それから、クランベリーにリンゴンベリー、真っ赤で小さくてかわいい」
「招待状、これは、手漉きの紙ですね。小枝や葉っぱが漉き込んである」
夏至祭りのお知らせ。
焚火の夕べ。
スープは甘く、ケーキは甘からず。
今宵お会いできることを……
招待状の最後の行の終わりの部分は、にじんだようになっていて読めなかった。
「いったい誰が、こんなことを。誰も出入りしてなかったはず」
「夏至祭りへの招待。詩情に触れる夜」
不審げな私の隣りで、フルモリ青年は思い浮かぶ言葉を綴り出した。
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