第57話 口直しのソルベは会話のある食卓

「ハンバーグの出身地をご存知かね」


 いつだったかスエナガさんがおもむろにたずねてきたことがあった。


「ハンブルグ風のステーキからきてるとすれば、ドイツですか」

「ふむ、まっとうな答えだ」


 スエナガさんの口ぶりは、まっとうではつまらんとい言いたげだ。


「ポルペッテ、15世紀の料理書に載っているイタリアのミートボールからという話もあるわ」


 ネコヤヤさんが言った。


「ハンバーガーのパテとしては、アメリカン? 」

「お子さまランチのごちそうおかずとしては、ジャパン? 」


 カウンターからさっと現れたフェザリオンとティアリオンは、おどけた口調だ。


「草原を駆け抜ける騎馬民族のタルタルステーキからだときいたことがあります」


 フルモリ青年が目を閉じて、草原の風を感じている。


「昔は、家庭でハンバーグを作る時は、肉を挽くところからやっていたものだ」


 スエナガさんが、挽き肉器を挽く手真似をしながら言った。


「挽きたては、珈琲豆も、肉も、新鮮でよいものだよ」


「フレッシュビーン」

「フレッシュミート」


 フェザリオンとティアリオンは、手で豆や肉を挽く仕草をしながら、スエナガさんの周りをスキップしながら声をあげた。


「これ、はしゃぐでない。ほこりがたつだろう。せっかくの料理がだいなしだ」


 スエナガさんはそう言うと、二人の上着の襟をひょいとつまんで、持ち上げてから、すとん、と椅子に座らせた。


 二人は、くすくす笑って顔を見合わせてから、するりと椅子を抜け出してカウンターへと戻っていった。


 すぐに美味しそうな肉汁の沸き立つ音と、こんがり焼けた肉のにおいと、マスタードの効いたクリームソースの香りが漂ってきた。


「おさわがせしました。おわびに、どうぞ。ドイツ風ハンバーグ、フリカデレです」


 焼き目のついたお肉のブラウンに、ソースのホワイトクリームがなめらかにコントラストを描いている。


 熱々のひと切れを口に入れると、粗挽きのお肉の歯応えに旨味がにじみ出て、肉汁とマスタードクリームソースが絡まり合った。

 マスタード風味のクリームソースは、肉味のぎゅっとしたハンバーグに、ぴったりだった。


「なんだか、元気が湧いてくる」

「うむ、創作にはエネルギーが必要だからな。存分に味わわせていただこう」

「新鮮な肉の闊達さを、調理の火が封じ込めている……」

「マスタードが粒入りでないので、その分ソースはまろやかね」


 それぞれ感想を述べ合いながら、食卓で会話をしながら、美味しくいただたく、それが、カフェ・ハーバルスターの日常。

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