第27話 another dish 5 マリーゴールドテリーヌとセインテッドゼラニウムクッキ―
――セインテッドゼラニウム、カーネーションのようなクローヴ・ピンク、マリーゴールド、レモンバーム、キッチンハーブの花束ですね。ああ、daysさんのですね。だったら、今度、花束を使って何かご馳走しましょう――
オリオンさんはその約束の通り、次に訪れた時に、フレッシュハーブの一皿をサービスしてくれた。
その日はランチタイム営業だけの日だったので、私はランチをいただいてそのままカフェに残っていた。
ただ残るのでは申しわけないので、何かお手伝いはありませんかとオリオンさんにたずねた。
「どうぞ、お気になさらずに」
と、オリオンさんは言ってくれたが、お客の中で自分だけ特別扱いされるのはなんとなく気分が落ち着かなかった。
「だったら、読書を手伝ってください」
「だったら、手紙を手伝ってください」
フェザリオンが、大きな重そうな絵本を抱えて持ってきた。
ティアリオンは、束ねた分厚い紙とペンを抱えて持ってきた。
私が、どうしたものかと思っていると、オリオンさんが
「では、二人のお相手をお願いします。していただけると助かります」
と言った。
「あ、はい、私でよければ、本を読むお手伝いと、手紙を書くお手伝い、かな」
私は答えると、二人と一緒に中庭側の窓辺の席に腰かけ、二人のリクエストのお手伝いを始めた。
そうしているうちに、カウンターの向こうではオリオンさんが、いつもの手際の良さで料理を仕上げて、シルバーのトレイに載せてこちらにやってきた。
「お待たせしました」
オリオンさんは、テーブルにトレイを置いた。
トレイには、三つのお皿が、それぞれに花開いていた。
手のひらを広げたようなセインテッドゼラニウムの葉がそのままの形で焼き込まれているクッキーは、火を通してあるのに葉にはほんのりレモンの香りが残っている。
薄くスライスしたバゲットにのっているのは、マリーゴールドの花びらを混ぜ込んだヒラメのすり身のテリーヌ、花びらのほのかな苦みがワインに合いそうだ。
白ワインゼリーのクラッシュ入りアイスレモンバームティーには、砂糖衣のクローヴ・ピンクが、ちょこんと飾られている。
「きれい……ハーブって、火を通してもけっこう香るんですね」
今さらながら、フレッシュハーブの香りの力強さに、私は感動した。
「マリーゴールドって、食べられるの、知らなかった」
「ハーブのマリーゴールドは、ポットマリーゴールドやカレンデュラと言います。マリーゴールドとだけ言う時は、園芸用品種です」
オリオンさんの説明に、なるほど、とうなずきながら、私は味わっていく。
「ただ甘い、ただ苦い、だけじゃなくて、ハーブが加わると、食材の持つ微妙な成分が引き出されるような気がする。なんだろう、美味しさって理屈じゃないって思ってたけど、こうして食べてみると、食材の相性とか、成分の配合とか、知りたくなってくる」
「美味しいと思っていただいたのならば、なによりです」
オリオンさんは、そう言うと、ランチの後片づけがあるのでとカウンターへもどっていった。
集いの日は、ようやく明日。
こうして、ゆったりと、ここで過ごす心地よさもひと区切り。
平らげた後の空っぽのお皿に、なんとなく感じていた淋しさも消えていく。
早く明日がくるといいな、と、私は思った。
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