another dish メニュー紹介の小さな話
第23話 another dish 1 サルサ・オン・サニーサイドアップ
『不思議のカフェのハーバルスター』「another dish」のシリーズは、各話の中で語られていないけれど、「私」がいただいたメニューをご紹介する話です。
今回は、第18話「ハチミツディッシュとピクニックブランケット」で二週間後の「スエナガさんの個展の話し合いの集い」に至るまでの間に、「私」がカフェ・ハーバルスターでいただいたメニューを紹介します。
ご一緒に、美味しい時間を、ぜひ!
・・・・・・
それから、次のスエナガさんの個展の話し合いの集いまでに、少し休憩を入れることになった。
誰ともなく、言い出したことだった。
次の集いまでの間にも、カフェへは顔を出していた。
一人でとる食事も、ここへ来れば、食べている間は心晴れるから。
「お日さまの笑顔をイメージしました」
「お皿とにらめっこしてから食べてください」
フェザリオンとティアリオンが運んできたのは、サニーサイドアップ――目玉焼きだった。
もちろん、ただの目玉焼きではない。
うっすらと焦げ目をつけた香ばしい匂いのトルティーヤが、お皿の上にひらりと置かれている。
その上にのせられた目玉焼きは、縁まで白くやわらかに火の通っている白身のまん中に、フォークで軽く触れただけでもとろりと溢れそうな黄身がぷるんと澄ましている。
黄身の周りを、トマトレッド、オニオンパープル、ハラペーニョグリーンのサルサソースのゼリー寄せクラッシュが彩っている。
添えられたコリアンダーとライムのグリーンのグラデーションもきれいだ。
ガラスの小鉢にはタコのセビーチェ、別皿に重ねたトルティーヤのお代わり、そして素焼きの器にお豆たっぷりのチリ。
ドリンクは、パッションフルーツジュースをソーダ水で割ったフレッシュフルーツスカッシュ。
「なんだか、とっても、さわやか。このまましばらく眺めていたいな」
私は言われた通り、しばしお皿の目玉焼きのとろけそうな黄身とにらめっこしてから、いただきます、と小声でつぶやくとスプーンで黄身を崩した。
とろとろの黄身が、ゼリー寄せクラッシュを溶かしながら白身を覆っていくのを見届けてから、私は、トルティーヤの端にフォークを添えると、スプーンとフォークを使って、くるくるっと目玉焼きごと巻いていった。
「お上手ですね」
「トルティーヤを破らずに巻き上げるとは、プロですね」
フェザリオンとティアリオンからの本当に驚いている賞賛の声に、気恥ずかしく思いながら、私は今度はスプーンをナイフに持ちかえて、ロールトルティーヤの端からひと口大に切りとった。
「いただきます」
今度は、周りに聞こえるように言った。
それから、一口大のロールトルティーヤを口に入れた。
目玉焼きは、おしょうゆ、たまにウスターソースでしか食べたことがなかった。
それで、十分美味しかった。
けれど、これは、この味の新しいさわやかさは、太陽を浴びたように、のびやかに広がっていく。
散らしたコリアンダーのくせのあるにおいと、ライムの酸味が、卵の白身、黄身、サルサをまとめている。
「美味しい。曇り空の日も、ここではお日さまが照っているのね」
私の言葉に、二人は、にこにこしながらいつものように軽やかに爪先だってお辞儀をした。
お代わりのトルティーヤを結局全部食べてしまい、胃袋は満たされた。
けれど、平らげた後の空っぽのお皿に、なんとなく淋しさを感じた。
カフェメニューの美味しさに変わりはなかったけれど、料理を全て食べ終わった時や、コーヒーカップの底が見えた時などに、すっと忍び込む空っぽの気配が、もの寂しかった。
早く、集いの日がくるといいな、と、私は思った。
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