第五章 風間は何処に?

第26話 風間響太郎 その1

 以前からくらべると二年一組の雰囲気はかなりにぎやかになっていた。

 そう、ムッチーこと遠藤睦美えんどうむつみとアッキーこと黒田明子くろだあきこが復学したのだ。

 危ない単位は補習と課題をクリアすることで何とかなるそうだ。

 現在、二人はしば先生と一緒に住んでいる。

 

 ムッチーに秘かに想いを寄せている親友の相馬そうまの喜びようといったらそれはもう、周りが眉をひそめるくらいだった。

 しかし、僕としてはこの片思いを応援してやりたい。


 柴先生の所属する組織『じゃ』はこの国を影で支え守ってきた存在なので、いろんな無理が利く。

 警察、公安、自衛隊、各種教育機関、医療機関、大手マスコミ、その他諸々の組織に『蛇の目』の息がかかっていると言うから凄まじい。


 しかしいくら『蛇の目』が血眼になって捜索しても風間響太郎かざまきょうたろうの行方は杳としてつかめないままだった。


「では今から第一回ケルベロス会議を行う。今日は特別に神の御業みわざ・別働隊ジャッカルの元メンバーだった二人に参加してもらった」

 店内に柴先生のアニメ声が響いた。


 ここは居酒屋。ただしマスターは蛇の目の一員。前回の反省も踏まえて貸し切りになっている。今回は無事に終わるといいのだが。

 参加者は次の通り。

 1.シバの女王こと柴美和子しばみわこ。蛇の目所属。守護霊が大蛇。美しき女教師。


 2・人間発電所ことブルーノ・サンマルチノ。ホワイトブラザーフッド白色同胞団所属。電気人間。プロレスラーのようなガタイ。


 3.いにしえの剣豪・疋田豊後ひきたぶんごこと引田文悟ひきたぶんご。たましずめ組所属。井上エクスカリバーが愛刀。いつでもどこでも全裸になれる覚悟を持つ男。それが僕だ。


 以上の三人で『無境界ボーダーレス退魔結社ケルベロス』なんて集まりを作った。

 目的は邪神復活の阻止。


 そして、会議に新たに参加するメンバーが二人。

 4.ムッチーこと遠藤睦美。退魔組織・神の御業別働隊ジャッカルの元メンバー。ムチ使い。空手弐段。ボクっ娘。


 5.アッキーこと黒田明子。ムッチーと同じくジャッカルから逃げ出してきた。戦略家で戦術家。女軍師。腹黒い。


 この五人はいずれも裏の顔を持ち、邪神事件と関わりがあった。


「ぷっ、ククク。ケルベロスだのジャッカルだの……。言ってて恥ずかしくないんですか?」

 馬鹿馬鹿しさに耐えられず僕は言った。

「黙れ、しゃべるな。それを言うならお前のとこのたましずめ組だっておかしい名称だ。先生は初めて聞いた時、風呂か海に沈められるかと思ったぞ」

 柴先生に見事に一本取られた。

 確かに、テリー組長の相貌や出で立ちからそう思われても仕方ないので何にも言い返せなかった。


「では、気を取り直して。風間響太郎の居場所がわからん。警察や公安も追跡しているが捕まらない。仕掛けた網にも引っかからん。この際、どんな些細な情報でも構わん。彼に関することは出し惜しみせずに出して欲しい」

 柴先生は真剣に訴えていた。


「二つ名が封魔ふうま凶太郎きょうたろうだと、モグッ、聞いたことがあります。それに神の御業の幹部候補生だったとか」

 コーンバターを食べながら僕は言った。

「ボクが聞いた二つ名は、ガブッ、幻惑の凶太郎だったぞ」

 唐揚げを食べながらムッチーが言った。

「私が聞いたのは、ムシャッ、傀儡師・凶太郎ね」

 イカの姿焼きを口に入れながらアッキーが言った。

「ワタシハ、カザマの邪眼を見るなト、ングッ、組織から注意を受けてマス」

 ピザトーストを頬張りながらブルーノが言った。


「オイ、皆に忠告するが話す時は口にものを入れるなよ」

 見るに見かねて柴先生が注意をした。


「まあ、いいじゃないですか。食べながらの方がリラックスできて。それよりマスター、生一つ! 大ジョッキで!」

「馬鹿モンッ!」

 ゴツン!

 調子に乗ってビールを注文したら柴先生から拳骨を頭に頂戴した。


「いいか、万が一でも風間を見つけたら決して捕まえようとするな。速やかに先生に連絡すること。わかったな」

「でも、その後はどうなるんですか? ムグムグ、風間は蛇の目によって拷問されたり洗脳されたり亡き者にされたりするんですよねやっぱり」

 僕は柴先生に聞いた。カツオの刺身を食いながら。


「人聞きの悪い事を、と言いたいがこればかりはどうなるかわからん」

 柴先生の言葉に、

「もし、そんな事を風間先生にやるんだったら協力なんて、ガブッ、しないぞ。ここでサヨナラだ」

 ムッチーが怒って言った。焼きししゃもを食べながら。


「待て、ムッチー。早まるな。風間先生を見つけるのにコイツらを、ムシャッ、利用するんだ。とことんまで」

 アッキーはムッチーを諌めた。フライドポテトを口に入れながら。


「ナラ、カザマはホワイトブラザーフッドに任せて下さイ。カレは、ングッ、責任をモッテ適切に処理シマス」

 ブルーノが胸を叩いて言った。焼き鳥を頬張りながら。


「大体、邪神がそんなに危険なんですか? 僕には世界を破壊できるだけの力を持っているとは思えない。危ないことは公安や警察に任せて、僕は学生生活を、バリッ、楽しみたいんですが」

 僕は常々思っている疑問を口にした。エビフライを食べながら。


「ブンゴも目の当たりにしたはずだ。邪神が邪な願いを簡単に叶えるのを。人の死を望めばそれが実現する。先生の大事な人も邪神の呪いで殺された。ブンゴの彼女が同じ目にあったとしたら、それはブンゴの世界が破壊されたのと変わらないはず。よく考えてくれ」

 柴先生の言葉は僕の胸を強く打った。


 ミコミコが邪神の呪いで死ぬ可能性はゼロじゃない。あの時だって黒い影がミコミコに憑いていたじゃないか。


 大事な人を失うかもしれない不安に僕は震えた。

 突如として猛烈な吐き気に襲われ、店のトイレでゲーゲーと吐いた。

 居酒屋の料理はどれも美味しかったのに。


 トイレから戻ると、皆が真剣に話し合っていた。

 なんでも、この五人一組のユニットの名称を新たに決めるらしい。

 ペンタゴンやクインテットが候補に出ていた。


タイマ退魔ーファイブはどうだ、もしくは五目飯」

 いつものように、僕の提案が見向きもされなかったのは言うまでもない。

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