第3節 ③

「穂村さんに、何があったの」


 沙月は、少女の目を見つめて、話しかける。


「あ、あ……」


「落ち着いて、話して。何があったの」


 少女は、沙月の瞳に恐怖を越えた何かを感じた。

 まるで、人間を超えた存在に見入られているかのような。

 だから、支離滅裂でも必死に話した。



「今日、ゆかちゃんたちと遊びに行って、最初は、カラオケだったんだけど、終わってから、いつもの場所いって、スッとする注射しようって話になって」


「私は何回か来てたけど、ゆかちゃんは、始めて来たから、様子見してたんだけど、」


「きょ、今日は新しいクスリがあるからって、ゆかちゃんにいいとこ見せようと、度胸だめしで、リーダーの人が試して……」


「そしたら、そしたら……!」


「注射打ったリーダーが、急に暴れだしてッ……! しかも、注射打ったところから、どんどん、化物みたいな形になっていって!」


「そこから、アレがヤバイ暴れ方し始めて、ひとを、ころしてって」


「だからアタシは、必死に逃げだして――ゆか、ゆゆかちゃんは……」


「だから、あたしのせいじゃない! あたしはわるくない!」



「……そう」


 茶髪の女子の話を聞いた沙月は、冷静だった。

 そして、この子の話を聞いてももう無駄だと判断すると、背を向けて立ち去ろうとする。


「ま、待って! どこ行くの、あたし、一人にしな、しないで……」


 女子が、自分にすがりつこうとするのを振り払う。

 今は、こんなのに構ってる暇なんてない。


「……安心して。あなたを助ける人はちゃんと呼ぶから」


 だけど、一応。センセイの仕事の手伝いをしているのだから――義務は果たさないといけない。

 沙月は、携帯電話でセンセイに電話をかける。

 数コール後、電話が繋がる。


『ハイもっしもーし。さっちゃんどうし』


「センセイ。急いでるから、このまま聞いてください。

 薬物のせいで野良の変異血種になったと思わしき人が出ました。それを見て逃げてきた被害者が、××公園に一人います。保護してあげてください。…‥あと、買ってきたプリンとかも一緒に置いておきます。

 それと――私の友達が、巻き込まれたかもしれないから、確認しに行きます。勝手なことして、ごめんなさい」


『え、ちょ、さっちゃーん? わかったけど説明が足り』


 要件を伝え終えると、沙月はすぐに電話を切った。

 そして、茶髪の女子に薬物を注射していた現場を聞き出すと、そこへ向かって走り出した。


 お願いだから、無事でいてと願いながら。

 もう遅いかもしれないけれど、生きていて。

 どうか。どうか間に合って――。

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