ⅩⅣ 澄のディソナンス
「焔、さすがにあれはやりすぎだったんじゃない?」
珀が眉間に皺を寄せながら、呆れた様子で俺に話しかけてきた。
「いや、まさか澄が本当にエゴサーチするとは思わなかったんだ……。」
俺は下を向き、大きなため息をついた。珀が腕を組み、俺を見つめてくる。
「どうするの?澄と彗の関係が悪くなったら。」
「いや、そんなことはないだろ。」
俺は、すぐ横にある窓から外を眺め始める。珀はそれを見て、大きなため息をついてからどこかへ行ってしまった。
ウチは机いっぱいに本を並べて、大きなため息をついた。大学の図書館で探しても、地元の公共図書館で探しても、何も出てこない……。ウチは、思わず机に突っ伏した。あとで、新聞のデータベースでも漁ってみる?そんなことを考えていると、近くにある窓からさわさわと優しい風が吹いてくる。そして、パラパラと辞書の紙がめくれていく音が聞こえた。ウチはパッと起き上がる。すると、イタリア語の辞書がパラパラと風でめくられてしまっていたことに気づいた。ウチは、少し遠くに置いていたその辞書を自分の目の前に引き寄せる。そんなことをしていると、辞書の中に書かれていたこんな単語が目に入った。
cuore[英 heart] 心臓, 胸, 心
「心?」
ウチは目を閉じて、胸に手を当てる。すると、ドキドキと自分の鼓動を感じた。いつしか忘れてしまった、自分の心。
「クオーレか……。」
ウチはこう呟いて、イタリア語の辞書を閉じた。
「彗、また一緒にご飯食べない?」
授業終わり、わたしは彗に話しかけてみた。彗が机を片付けていた手を止める。
「うん、いいよ!」
彗が満面の笑みとともに返してきた。
彗と一緒に、この前食べた時と同じ教室に入る。けど、前回と違ってあまり会話が弾まない……。わたしと彗は、黙って向かい合うようにして席に座った。彗の顔を見ると、どうしてもこの前見つけた雑誌の記事を思い出しちゃう……。
「澄、どうかした?」
彗がわたしのことを見つめながら、話しかけてくる。やばい、やっぱり抑えられない。わたしは、机に箸を置いた。
「彗、あの……」
わたしは膝の上に置いた拳に力を入れる。そして、彗に気付かれないように気をつけながら、小さく深呼吸した。
「彗、もしなにか困ってることがあったら言ってほしい。今じゃなくてもいいから。」
「え?」
彗がわたしのことを見つめながらポカーンとしてしまった。やっぱり変なこと言っちゃったかな……?わたしは、その場を紛らわそうと箸を手に取る。
「わ、分かった。」
お弁当を手に取った時、彗のそんな声が聞こえてきた。
「なんか、よくわかんないけど、何かあったら話すね。」
彗が、にっこりと笑ってくれる。けど、その奥になにか隠してるような、そんな気がした。
今日の授業が終わって、わたしは1人で学校を出た。どうしても気分が乗らない。わたしは下を向いて大きな溜息をつきながら歩いた。これから珀の家で練習があるのに……。
「なにあれー?」
「おっきな怪獣がいるー!」
ランドセルを持った小学生が、なにかを指さしながら話している。おっきな怪獣?わたしは小学生が指さす方向に目線を移した。すると、近くに通っている電車の線路の向こう側に、ディソナンスの姿が見える。一気に緊張感が増してきた。わたしは、みんなにディソナンスが現れたことをLINEで報告して、自分も現れた方向に向かっていった。
駅の中を急いでくぐり抜けると、既にみんなが息を切らしながら集まっていた。一旦深呼吸をして息を整えて、呪文を唱える。
「「「「「「「グラマー 」」」」」」」
オー!ルーメン!フー!トネール!
アイレ!トーン・スピア!エスパシオ!
「きらめく
「きらめく
「きらめく
「きらめく
「きらめく
「きらめく
「きらめく
「「「「「「「きらめく音はみんなの力!伝われ、Ensemble!」」」」」」」
わたしたちが変身すると、目の前にフロッシブが現れた。
「現れましたね。」
フロッシブがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。わたしと霞が、これに構わずディソナンスに向かっていく。
「そう簡単にはディソナンスに近付けませんよ。」
そう言って、フロッシブがわたしたち2人に手のひらを向けてくる。わたしは前から来るかもしれない強風に、剣を握りしめて構えた。フッというフロッシブのニヤついた表情が見える。と思うと、目の前からフロッシブが消えた。何が起こったのかと、わたしはキョロキョロと辺りを見回す。すると、わたしの左側にフロッシブの姿が見えた。並んで走ってる霞の右側にも。もしかして、フロッシブが分身した!?そんなことを考えていると、左右から猛烈な風が吹いてくる。まさか横から吹いてくると思ってなかったから、わたしは霞の方に飛ばされて横から衝突した。右肩に強い痛みが走る。わたしと霞は、その場に倒れ込んだ。
「霞!澄!」
後ろからわたしたちを呼んでる声が聞こえてくる。わたしは立ち上がろうとするけれど、上手く力が入らない。隣に倒れている霞も同じような状態だった。
「グラマー ハーバード!」
楽が薙刀を手にして、ディソナンスに向かっていくのがわかる。それを阻むように、フロッシブが楽の前に立ちはだかった。互いに睨み合い、2人の息遣いが聞こえてくる。楽が意を決して、フロッシブに向かって薙刀を振り回したり突いたりしていった。楽がチラッと後ろを向いて、誰かにアイコンタクトをする。すると、焔と珀が一組になってディソナンスに向かっていった。焔の拳銃から発砲音が鳴り響く。ディソナンスが焔に攻撃しようとしていくところに、珀が鞭で叩いていった。わたしが夢中になって2人のことを見ていると、ディソナンスと突然目が合う。そして、動けなくなっているわたしと霞を叩こうとしてきた。
「ハピネス アイレ!」
凪の声とともに、強く地面を蹴る音が聞こえてくる。
「響け!安らぎのハーモニー!
凪がわたしたち2人の前に立ちはだかった。
「ハピネス!デスカンソ・アイレ!」
凪の呪文で、目の前にシールドを張られる。そして、ディソナンスの拳を受け止めた。
「2人とも大丈夫?」
凪の優しい声が聞こえてきた。その声を聞いて、わたしはホッとする。その後、ヒュンという音とともに、ディソナンスの腕に明の矢が突き刺さった。それとともに明が呪文を唱えているのが聞こえてくる。
「ハピネス ルーメン!」
明がディソナンスを睨みつけて、タクトを構えたのが見えた。
「響け!希望のハーモニー!
明がディソナンスに向かって走り始める。すると、次第に明の体が光に包まれていった。
「ハピネス!エスポワール・ルーメン!」
呪文とともに明が飛び上がり、ディソナンスに突っ込んでいった。明が通り抜けて後ろに着地すると、ディソナンスが悲鳴をあげる。
「私たちも黙ってちゃいられないね。」
隣で霞がゆっくりと立ち上がる。そんな霞に、わたしは笑顔を向けた。
「そうだね。みんながフォローしてくれてるもん。」
わたしがそう言って立ち上がり、霞と一緒に呪文を唱える。
「「ハピネス 」」
オー!エスパシオ!
2人の前にそれぞれとタクトが現れる。それをわたしたちはしっかりと握りしめた。
「もしかして、2人で連携攻撃をしようとしているのかい?」
フロッシブがバカにしたような表情で、わたしたちを見つめてくる。
「バカですねぇ。その2人が連携しても、不協和音になってしまうのに……。」
「そうだね。このままだと私と澄は半音の関係になるから、不協和音になってしまう。けど、バカなのはどっちかな?」
霞がニヤリと笑う。え、霞は何を考えているの?すると、こそこそと隣から耳打ちしてくれた。そっか、こうすれば不協和音にならない!
「トランス・セミトーン!」
わたしが呪文を唱えると、目の前にミュートが現れた。わたしがそれを握りしめると、タクトがオーボエの姿に変わる。
「セミトーン・ミュートセット!
ミュートを捻ると、ガシャンという音がした後にオーボエがタクトの形に戻った。
「霞の
この言葉に、フロッシブの目が泳いで動揺が広がっていくのが分かる。わたしは霞と目を合わせた。
「「響け!平和と再生の
「「ハピネス!シャローム・リバース!」」
白い波がディソナンスに当たって、バランスを崩す。そして、地震のような揺れとともに地面に尻もちをついた。
「「「ハピネス 」」」
フー!トネール!トーン!
タクトを持ったみんなが、わたしたち2人のところに集まってくる。
「「「「「「トランス・セミトーン!」」」」」」
「「「「「「「響け!7人のハーモニー!」」」」」」」
「「「「「「「ハピネス!
フロッシブが姿を消し、攻撃がディソナンスに当たった。その後、悲鳴をあげながら消えていった。
「少し気になってたんだが……」
焔が消えていくディソナンスのことを見ながら、話し始めた。
「タクトって長3度のときしか上手くいかなかっただろ?もし霞と澄の連携が上手くいかなかったらどうする気だったんだ?」
それを聞いた霞が、顔を赤らめる。
「そ、そういえばそうだったね……。でも、上手くいかなかったらどうにかしてたと思うよ。」
霞の答えに、わたしは大きなため息をついた。
「なんか余計なこと言っちゃったかなー?」
その後、わたしは珀の家にみんなと集まって、アンサンブルの練習していた。休憩中にわたしはそんなことを呟く。
「余計なことって?」
霞が首をかしげながら、わたしに聞いてくる。わたしは、昼休みに彗とご飯を食べたときのことをみんなに話した。みんなが「うーん」と言って首を傾げる。
「別に、僕はいいんじゃないかと思うけどな。むしろ、言わずに我慢してた方が悪い方向に進んでたんじゃないかって。」
珀の言葉に、わたしは目を丸くした。
「我慢してると、多分澄だと態度に現れてしまうと思うんだ。一緒にいると、なんかギクシャクしちゃう。けど、澄がここで吐き出したことによって、気持ちが少し楽になったんじゃない?」
珀からの問いかけに、わたしは首を縦に振った。
「だから、これから今までと同じように接することができれば、僕はそれでいいと思うし、余計なことはしてないと思うよ。」
珀の言葉を聞いて、少し心が晴れた気がした。わたしは胸に手を当てて、ふーっと息を吐く。
「それこそ、彗への思いを音にして届けてあげたらどうかな?」
「そうですね。〝きらめく
霞と楽の提案で、胸に温かなものが広がっていく。
「思いの音か……。そうだね、なんかみんなのおかげで元気出てきた。ありがとう!」
わたしは立ち上がって、アンサンブルの練習を再開した。
~Seguito~
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