第7話 引きこもり妹+1
五時限目、六時限目、特筆することなし。
放課後。どこに寄り道するでもなく真っ直ぐ帰宅した俺。
「ただいまー……っと」
「……もう帰ってきた」
そんな俺を迎えたのはリビングでくつろぐパジャマ姿の半眼の少女。長い青色の髪に青色の瞳。病的なまでの白い肌に、枝のような細い身体。現実離れした儚い美貌は、触れれば壊れてしまいそうな幻想的な美しさ。まるで森の奥に人知れず住まう妖精の様だ。
彼女の名前は
何を隠そう俺には妹は二人いる。双子の妹がいる。
ではもう一人は、と問われれば学校である。
妹たちは中学二年生。俺とは二つ違いだ。
もう一人の妹は、まだ中学校から帰ってきていない。今頃は部活に励んでいるころだろう。
というか、瑠亜が家にいる事こそが問題なのだ。
「えっと、瑠亜? 学校は?」
「……自主休校。自宅警備を積極的に買って出た」
聞くと無表情なままだが、ドヤ顔で答える瑠亜。瑠亜は表情筋が年中無休休暇中のためも表情の変化が乏しい。瑠亜の感情の変化が分かるのは長い付き合いの俺を含めた数人だけだ。
瑠亜はいわゆる引きこもりというやつだ。
学校どころか家からも出ない。
曰く、長い髪は切りに行くのが面倒だから。
曰く、白い肌は外に出て太陽に晒されることがないから。
「……ところでお兄ちゃんはどうしたの。こんなに早く帰って来て」
「え? そんなに早く帰ってきたか、俺?」
「……うん。平均よりも十分と三十二秒早い」
「あー、そーかそーか。まあ、一人で帰ってきたからか……てか、え? 今、平均とか言った?」
「……あのお邪魔虫ども、じゃなくて幼馴染の二人は?」
俺のツッコミをガン無視する瑠亜は淡々と続ける。
「ああ、実は二人が付き合い始めてな。それでちょっと距離置いてるわけだ。あ
と、お邪魔虫って、お前。てか、平均の件」
「……っ。それは朗報。幼馴染カップリング決定。ルート変更なし。結婚直行。お兄ちゃん、ソロ。未だヒロインなし♪」
笑顔になる瑠亜。もちろん、見た目に変化なし。
「俺のボッチ化がそんなに嬉しいか、この野郎」
「……あぅ~」
そんな瑠亜を捕まえてグリグリとする。もちろん、力などは込めていない。マッサージみたいな感覚だ。猫の喉もとゴロゴロする的な。
「……ハブられるお兄ちゃん。いじめらる。学校憂鬱。ウェルカムトゥー、引きこもりライフ?」
俺の膝の上に座った瑠亜は上目遣いでそう言う。
「歓迎するな、歓迎を」
そんな瑠亜にチョップを食らわせる。もちろん、軽くだ。
「……引きこもり、いいよ?」
「いやいや……流石にダメだろう、それは」
尚も引きこもりを勧める瑠亜に。
そりゃ、引きこもりは楽だろう。学校に行く必要もない。朝起きる必要もない。ずっと寝ていられるし、それにうちは両親が世界を飛び回る業種の人だからほとんど家にいない。俺はもちろん、もう一人の妹も邪険にしているわけではないし、精神衛生的にも大きな問題はない。それに両親はほとんど顔を見せないが、稼ぎこそは大きい。両親が定年までこの生活を続けるとして、二十代半ばくらいまで引きこもりライフを続けられるだろうが、しかし。それはダメだろう。
瑠亜が引きこもりになったのにはもちろん原因がある。
けれど、いつまでもこのままというわけにはいかない。いつかは、それを克服しなければいけない。もちろん、そのための協力を惜しむつもりはない。喜んで協力する。もう一人の妹だってそうだろう。
まあだからといって今すぐにというわけじゃないが、とりあえずは瑠亜は一人じゃない。一人で抱え込む必要はないって分かっててくれさえいればいい、と思う。
「……? どうしたの、お兄ちゃん」
キョトンと首を傾げる瑠亜。
うん、特には悩んではいなそうだな。
「いや、なんでもない。さて、それじゃ少し課題でもやるか。あ、そうだ、瑠亜も一緒にやるか? 高校生の勉強、挑戦するか?」
「……大丈夫。今日は昨日続きやる」
「昨日の続き?」
「……ホッジ予想を解く」
「数学の七大難題じゃねえか!」
歴史上の未解決問題に挑む、中学生引きこもりって何なのん、それ。
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