第五十三話 精神力


 お祭りの翌日。


 目の前に広がるのは古ぼけたレンガ作りの建物がちらほらとある、どこかおもむきのある風景だ。

 そう、今私たちは村ではなく、アォウル国の端の町へと来ていた。

 なんで仲がとても悪いアォウル国へ来ているかというと、今朝の朝食時にツバサさんからお願いされたからだ。


 今日の朝食は、目玉焼きと納豆という現代風和食を頂いていた時に、一足先に食べ終えていたツバサさんがお茶を片手に話しかけて来た。


「本日は、アォウル国へ農作物を売りに行きます」

「アォウル国へですか?」

「えぇ、村の収穫祭は二日間続きますが、二日目はいつもアォウル国へ数名で売りに行きます」

「えっと、アォウル国とは仲が悪いのでは」


 私はそう聞いていた。ツバサさんもセイゴさんも名前を出すだけでも鬼の形相をするほどに嫌そうだったのに、なぜわざわざ行くのだろうか。


「私たちが行くのはアォウル国ですが、その中でも端に位置している町です。そこは王都の者があまり来ず、監視外となっています。あの国は中心部だけ栄えていて、端の方にある町は多くが貧困の町です。自給自足の生活はもちろん、まったく裕福ではありません」

「あの王様になってからそれが酷くなってな、俺たちもたまに王都の人間の目を盗んで作物を売りに行ってるってわけだ」

「売りというか物々交換が主ですが、あの町には私たちが育てられない野菜がたくさんありますからね」


 納得した。

 ツバサさん、野菜には目がない人だから、ここでは作れないものとかが欲しくて仕方ないんだろう。

 どんだけ野菜が好きなんだよこの農家の人は!


「ですので綾様、本日はセイゴと共にそちらへ行ってください。もしかしたら綾様がいた世界に帰れる可能性もありますからね」


 そう、私が帰るには、私をこっちに呼んだ魔導士に会わなければならないのだ。

 なんだ、私の事も考えてくれていたのか、流石ツバサさん。

 じゃあ、今回は絶好の機会という訳だ。

 でも、ここでひとつ問題がある。


「あの、ツバサさんは?」

「私は村の警備です。セイゴがここに残っても、まともに仕事をするとは到底思えませんので」


 言葉に刺がある! でもセイゴさん、そんな事気にせずご飯食べ続けているよ! なんだこの精神力の強さは!


「セイゴだけではなく、ゼルギウスさんと他に数人の若者も連れて行きますから、ご安心ください。もしさぼったら、遠慮なくしかってやってくださいね」

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