第五十二話 仲良し


 どちらかが消えなければいけないという運命を持っていたなんて。

 衝撃が大きすぎて私は何も言えなくなってしまった。

 そう言えばスズメさんが「ちゃんとした理由がある」と言ってたが、この事だったのだろう。


「あいつも今は仲間だよ。大切な、仲間だからな」


 優しそうな目でそう言うセイゴさんを見て、私も心が温かくなった気がした。


「じゃあ俺は食いもん食ってくるから、綾は大人しくここにいろよ」

「ツバサさんに迷惑がかかりますよ、って名前!?」


 普通の会話をしていた最中、突然名前を呼ばれるものだからつい大きな声を出してしまった。

 まさかこのタイミングで名前呼びに変わるとは。

 なんか、懐かなかったペットがやっとすり寄ってきたって感じ?


「おう、やっぱ長いからこっちにするわ。あと敬語、前々から思ってたんだけどかたっくるしいからやめろ」

「いや、でも年上にそんな」

「たかだか二歳だろ」

「二歳でも年上でしょう?」


 私は、その辺の常識をわきまえているんです!

 年上は年上! 敬語は必須!

 一向に引かない私を見て、セイゴさんは私の頭をガシッと掴んで来た。

 そして、両手で髪をグシャグシャにしてきた。

 な、なんて事を! 髪の毛が!

 やめてくださいと必死に抵抗をしてみたが、セイゴさんがやめる気配が一向にない。


「敬語やめねぇのなら、この頭を鳥の巣にするまでやり続ける」


 楽しそう! なんか声がウキウキしてる! なんだこのやんちゃ坊主は!

 かたくなに拒む私対髪を鳥の巣にしようとするセイゴさん。

 ああ! もう絡まる! 髪と髪が絡まる!


「わかりました! わかったから! もうやめて!」


 勝者、セイゴさん。

 よし、といって頭から手を離すセイゴさんは、満面の笑みである。

 被害は、寝癖以上に凄くなってしまった私の髪の毛。これじゃあ本当に鳥の巣じゃないか!


「シュタインも、これなら住めるな」

「やめて、本当に住めそうだから」

「じゃ、俺は本格的に腹減ったから、なんか食いに行ってくる」

「こら! やり逃げすんな!」


 手を挙げて怒ると、セイゴさんは走って人ごみの中へと消えて行ってしまった。

 あの人なんなの! 私をからかっていっただけじゃないか!

 なんとか手ぐしで髪を整える。元には戻らないけど、見た目は変ではなくなった筈だ。

 でもここまでしてくるということは、仲が良くなった証拠なのかな。

 そう思えると、自然と笑みがこぼれた。


 今はもう目の前の和気藹々としている人々を見ても、悲しくもなんとも無かった。

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