第三十二話 収穫祭があるって


 照りつける日光がなかなか辛い。汗が吹き出て額に流れてくる。

 もう何を収穫しているのか分らなくなって来た。

 別々の場所で収穫作業をしている私たちは、すでに一時間以上は作業をしていると思う。

 五年間デスクワークをしていた人には、なかなか辛い。

 運動を全くやらなかった事が悔やまれる。中腰姿勢はもう無理です。太陽がこんなに憎く感じるなんて、今まで無かったかもしれない。

 学生時代が懐かしいよ。バレーボールは得意だったな。


「綾様、そちらは終わりましたか?」

「い、いえ! まだです!」


 遠くの方で作業をしているツバサさんの声を聞いて、体がビクリと反応した。

 急に聞こえて来たからという理由もあるが、先ほど私はツバサさんに初めて怒られたので正直まだびくびくしている。

 生まれて初めての農作業と言っても過言ではないこの仕事で、どれを収穫していいのかわかっていない私は、まだ実りきっていない果物を収穫しようとした。

 そのとき、果物を取ろうとした腕をガシッと掴まれ、ツバサさんに「これは、まだですよ?」と低い声で言われたのだ。

 あの目、本当に怖かった。まるで天敵に狙われた小動物にでもなったような気持ちだった。農作業をするとツバサさんは性格が変わるという事を、頭に刻んでおこう。

 次に収穫する時は、もうできればやりたくありませんが、勉強してからきます。すみません。


「明日は収穫祭がありますからね、今日やっておかなければ間に合いませんよ」

「収穫祭、ですか?」

「スパーロで半年に一度行われるお祭りです。町の中心部でやるこの祭りでは、村人たちが各々育てた野菜や果物を持ち寄って売買をします。小さなお祭りではありますが、露店もありますよ」


 おぉ、お祭り! なんかいいタイミングで、こちらにきたかもしれない! 日本以外のお祭りとかは、テレビでしか見た事が無いから見てみたい! ワクワクして来た!


「もちろん綾様にも今日収穫したものを持って行って参加していただきますので、ご安心くださいね」


 にっこり笑うツバサさん。ワクワクしていたのが顔に出ていたようだ。恥ずかしい。

 そうと決まったら、もっとたくさん収穫しなくちゃ。

 先ほどまでの嫌な気分はどこへ行ったのやら、私はやる気満々で収穫作業を再開した。

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