やけ酒したらイケメンに介抱されて異世界にいた

森 椋鳥

序章 全てはここから始まった


「えー、この会社は今日で倒産する事になりました」


 額から汗を流しながら、社内でも仲の良い専務から衝撃の言葉が出た。

 御手洗 綾みたらい あや、独身。

 趣味はお酒を飲む事と、寝る前に本を読む事です。ファンタジーな世界に憧れを持ちつつこの年になってしまった、世間的に痛い二十五歳。

 社会人になって約五年。

 当時今世紀最大と言われた就職氷河期時代をなんとか乗り越え、この小さな印刷会社に入り、慣れないスーツを着ながらも骨を埋めるつもりでがむしゃらに働いて来た。

 だがそんな会社の専務からの一言。

 私の周囲にいる先輩も後輩も、今の私のように空いた口が塞がらない状態となっている。

 なんの前触れもなかった訳じゃない。確かに最近仕事量が少なくなったような気がするな、とか思っていた。思っていた程度だった。けど、唐突にそれを言うのはどうなんだ、専務さん。

 唖然としている中、仲良くしてもらっている先輩が恐る恐る手を上げて言った。


「な、なんで突然そんなことになったのですか?」


 そうだ、私たちは理由が知りたい。

 専務は視線を合わせたくないのか、ずっと下ばかり見ている。


「……事務所の者に金銭の管理を任せていたのですが、実は、その」


 言いたくないのか、口がうまく動いていないように見える。

 そして、覚悟を決めたのか拳をぎゅっと握りしめて言った。


「私的に金銭を取られていまして……つまり横領をされていました。それも、数十年間していたらしく、気付いた時には相当な額になってしまっていたようで。事実上自己破産という形になります。なので、皆さんをもう雇うことができません! 本当に申し訳ない!」


 勢いよく頭を下げて謝る専務。

 なんてドラマみたいな展開だ。実際にそんなことがこんな間近で起こるのか、こんな時に表に出ない社長は何をしているのか、いろいろ考え過ぎて頭が痛くなってきた。


 お父さん、お母さん、私、新しい職探しのため明日からハローワーク通いします。

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