第3話

ここで物語を華やかに彩る女性陣について記す。


まずはニコラ。

身分は奴隷。

上手かつ効率的に家事をこなす姿からは、これまでの苦労が偲ばれる。


どのような経緯で彼女を招いたかは謎である。

タケルが転生した当初から彼女は身の回りの世話をし、彼の脳内には予備知識として奴隷である事が書き込まれていたのだ。

現代日本の感覚を維持するタケルは、彼女を自由の身分にしようと試みた。

いわゆる解放奴隷である。


だが、ニコラは固辞した。

なぜなら彼女は自身の手で掴み取りたいから。

己の自由を独力で手に入れる事に尽力しているから。

その手段は唯ひとつ。

主人を暗殺することだ。


このように書くと冷え切った関係のように感じられるが、この場合においては真逆なのだ。

彼女は主人を心から敬い、そして異性としての愛にまで目覚めている。

ではなぜ愛する人を手にかけようとするのか。

それを一言で表すなら性癖である。


彼女の悲願が達成されたとしたら、同時に愛する人も失ってしまう事になる。

それは耐え難い苦痛であり、永遠に苛まれる事は本人も理解している。

そして、そのような苦境に立たされる事が、とても甘美であるとも。


以上の事から、彼女は毒を盛る。

盛大に大盤振る舞いする日もある。

ただ、流石に頻繁には実行したりはしない。

せいぜいが3日に1度。

この家の住人たちはたまに死にかける事はあれど、家事の面で概ね楽ができているので良しとしている。



次にステラ。

金髪碧眼の美少女である。

彼女は口をつぐんでジッとしていれば、大変に美しい。

名工による氷の彫像のような、ファンタジーの世界から現れた妖精のような、空から舞い降りた慈愛の天使のような、尋常でないほどの美貌を誇る。

あともう10年も経てば、世界中の富豪や王族がこぞって求婚を申し込みそうな、そんな予感を抱かせる程に。


だがそんな美辞麗句を引っ提げた容姿も、ひと度スイッチが入ると全てが台無しとなる。


「クキャキャキャキャ! 臓物ぅ、臓物はどこだぁあ!」


彼女がなぜ血に飢えているかは謎だ。

タケルが転生した当初から彼女は残虐であり、彼の脳内には予備知識として手遅れである事が書き込まれていたのだ。

判っている事はただひとつ。


この血なまぐさい少女は『本当の朱』を求めているのである。

夢にまで見た朱を探し、彼女は今日も刺す。

無慈悲に、そして無邪気に刺す。

神の力を得たタケルで無ければ、とうの昔に絶命させられていただろう。

狂乱の少女と毎日過ごせるのもチート生物であるおかげなのである。



最後にダイア。


ブモー。

ブモ、ブモモ。


以上。



こんな女性たちに囲まれての暮らしは騒々しく、非常に刺激的である。

だがそれも最初のうちに限る。

3日も経てばすっかり慣れてしまい、全てが日常と判断されるようになる。

しかも不感症という副作用も伴って。


後日、この世界は激動の時代へと突入する。

何の前触れもなく出現した魔王と魔族の大群が押し寄せ、世界征服を企むのである。

だが彼らは全くの無関心で、関与しようとはしない。

なぜならスローライフを掲げているから。

その為魔王軍侵略の噂を耳にしても、口の端にも上らないのであった。






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