部長と余暇部の過ごし方
牧屋
プロローグ
どうしてこんな事になってしまったのだろう。
常に常識的に動き、特に落ち度はなかったはずだし、こんな場所に連れ込まれて監禁されるような事をした覚えはない。
視線を少し上げて周りへ巡らせれば、そこはすでに暗闇に浸かり込んだ屋内の中。広々とした空間には雑多にコンテナが積み上がり、錆びた金属片やらタイヤが転がっている。
それだけでなく、十数人ほどの人間の気配がうごめいていた。自分をここに押し込んだ男達である。
彼らはどこからか調達して来たのだろうビール瓶を入れる箱やパイプ椅子、あるいは地べたの上へそのままてんでばらばらに座り、ガムを噛んだりタバコを吸ったりビール缶を一気飲みしたり、好き勝手に過ごしているのだ。
不良。DQN。チンピラ。パンクな柄のジャンパーやタンクトップ、染めたり逆立てたりとロックな髪型やこめかみに刺青を入れた人相を見て、真っ先に浮かぶのはそうした感想である。
「なんでこんな事に……」
ぽつりと愚痴のような独り言が漏れると、同行者がちらりと視線を寄越し、眉毛だけを上下させて。
「仕方ないのだ、人間諦めが肝心なのだ」
確かに、この状況で自分達にできる事はない。何せ逃げられないよう両手は後ろ手に縛られ、不快な音を聞かされ匂いを嗅がされながら輪の中心に座らされているのである。
これからどうなるのか。ともすれば止まらなくなりそうな震えを唇を噛んでこらえ、一は待っていた。その時が来るのを、じっと。
それは突然だった。光差さぬ、小さな電球やライトの明かりがせいぜいだったその室内に、いきなり凄まじい轟音が響き渡ったのである。
それまで余裕しゃくしゃくといった風情でくつろいでいた男達が色めき立って身を起こし、何事だという風にわめき始める。
一もまた、顔を上げていた。暗鬱とした心地を斬り裂くように、希望の灯火が一直線に輝いてくる。来た。来てくれた。
一達の視線の先で、出口を封鎖していた巨大なシャッターに、切れ込みが入っていた。さっきの轟音は、このシャッターに何かが衝突したせいなのだと、男達にも理解ができただろう。
しかしその切れ込みはまるで、シャベルカーかダンプカーが体当たりしたかのように斜めに向けて亀裂が走り、しかもぐしゃりとこちらへひしゃげ、外の冷たい夜気が入り込んでいるのだ。
「な、なんだぁ……?」
男達の誰かがあっけに取られた様子で呟く。そしてその返答であるかように、もう一度衝撃と、先ほどよりも数段大きな音がうなりを上げ――破壊的な勢いで真っ二つに割れて、こちら側へ倒れ込んで来たのである。
「なんだっ、ちくしょう、なんだってんだ!」
「まさか、他のチームの襲撃か……!?」
男達はこの光景を、敵対する別の集団の戦闘行為と見なしたようだが、それは違う。シャッターにぶち込まれたのは重機でもなければ鈍器でもない。
向こうから、歩み出してくる人影がある。そこにいたのは、こちらを睥睨するたった一人の者。そう。一の知る限り、こんな芸当をやってのけられるのは、あの人だけだ。
「……部長!」
とっさに出たその声が届いた瞬間、仁王立ちのように佇んでいた彼女は、にっと一瞬笑ったのだった。
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