第62話 再会
「十魔子さん!?」
健作が叫ぶのと同時に十魔子の手が木刀を離れ、体が倒れる。木刀は朽ち果てて粉々に崩れ落ちた。
倒れる十魔子を健作は一瞬で抱き留めた。干からびて動かなくなったベルフェゴールの腕には目もくれない。
「十魔子さん、しっかりして」
健作は十魔子の身体を揺するが反応はない。辛うじて、今にも消えそうな呼吸音が口から聞こえるばかりだ。
「あぁ、どうしよう……。とにかく病院に―」
『健ちゃん落ち着いて』
花子が健作の肩を掴んだ。
「ふぇ?」
健作が泣きそうな顔を花子に向ける。
花子が指先をチョイと動かすと体育倉庫からマットが一枚、ひとりでに飛んできて地面に敷かれた。
『とりあえず、ここに寝かせて』
「う、うん」
言われるままにマットに十魔子を寝かせる健作。花子が十魔子の額に手を乗せた。
『霊気が枯渇寸前ね。命の危険があるギリギリまで霊気を放出したのね。神業と言える技術力だわ』
「助かるの?」
『大丈夫。こうなる直前にあたしに霊気を持たせて弾き飛ばじてくれたから。今から返してあげる。何か、霊気が補給できるものがあればいいんだけど……』
「ち、ちょっと待って」
健作はウエストポーチをまさぐって、ペットボトルを一本取り出した。
「スポーツドリンクしかないけど大丈夫かな?」
『多分大丈夫。飲ませられる?』
「ちょっと待って。えっと……」
健作は再びウエストポーチをまさぐり、吸飲みを取り出した。寝たきりの人に水を飲ませるための介護用品だ。
吸飲みにスポーツドリンクを入れ、飲み口を十魔子の口につける。
少しずつだが、十魔子の喉が動く。飲んでいるようだ。
同時に真っ白だった十魔子の髪に黒色が戻っていく。
「……ふぅ」
とりあえず安心した健作が安堵のため息を吐く。
『相変わらずポーチに変なのを入れてるのね。健ちゃん』
「あぁ、100均で使えそうなやつを一通り買って……。ん?」
ここにきて、ようやく健作は花子の顔を真正面から見た。
「……花ちゃん!?」
健作が目をパチクリさせる。
『久しぶり。大きくなったね』
「え、でも、あれ? うそ、え? なんで?」
目に見えて混乱する健作。
『簡単に言うと、あたしは妖怪なの。旧校舎の怪談にあったトイレの花子さんがあたし』
花子はあっけらかんと言った。
「で、でも、俺、ちゃんと見えてたよ。他の奴らだって」
『子供はみんな強い霊感の持ち主よ。時々あたしが見える子もいる。稀にだけど会いに来る子もね。10年に1人くらいかな? 友達を連れてきたのは健ちゃんが初めてだけどね』
「マジかよ……」
健作はまだ信じられないといった顔をしている。
『健ちゃんはいつかすごい事をする子だと思ってたけど、まさか分霊人になって、しかもマレビトにもなるなんてね。それも好きな女の子の為っていうのが、実に健ちゃんらしいわ』
花子はそう言ってクスクスと笑った。
「え〜、十魔子さんにそこまで聞いたの?」
『ううん、聞いてないよ。さっきまであたしは十魔子ちゃんと同調してたから、記憶もある程度共有しちゃったんだ。だから今、健ちゃんたちが異界造りをしてるって事も知ってる』
「そこまで知られちゃったか。あ、だったら花ちゃん、俺の学校に来なよ。ここ壊されるんだろ? 黄麻台高校に来ればいい。きっとすぐに慣れるさ」
健作は楽観的な意見を口にする。
『う、うーん……』
花子は困った顔をした。
妖怪というものは肉体という物理的基盤を持つ人と違い、住めなくなったから引っ越せばいいというものではない。
そのありようは周囲の環境に大きな影響を受ける。別の場所に行き、今まで通りの”トイレの花子さん”でいられるとは限らない。花子にはそれが恐ろしかった。
他愛のない学校妖怪でいられるならまだしも、ともすれば悪魔と呼ばれる存在へと変わってしまうかもしれない。そうなるよりは、現在の気に入ってる自分のまま終わりたい。それが今の花子の心境だ。
『ありがたい話だけど―』
花子が断ろうと口を開いた時、
『うぅ……』
微かなうめき声が健作の背後から聞こえてきた。
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