第47話 不審者 三葉健作

 その夜。


 草木も眠る丑三つ時。というわけでもない午後10時頃。


 どの家も、まだ眠るには早い様で、窓からは灯りが漏れている。


 その灯りや、街灯の灯りを避ける様に、コソコソと道を行く男が1人。


 黒いジャンバーと黒いズボン。頭にはこれまた黒いキャップに、サングラスとマスクを装着した怪しい男だ。


 さらに怪しい事に、頭の上にでっぷりと太ったヒキガエルが乗っかっている。


 男は、道の暗い部分を選んで、音を立てず、されど素早く移動して、黄麻台小学校の校門にたどり着いた。


 校門の横で、ジャージ姿の竜見十魔子が異様なものを見たかの様な目を男に向けていた。


「なにやってるの、健作くん?」


「あ、十魔子さん」


 男がマスクとサングラスを外すと、三葉健作の能天気な顔が現れた。


「ほら、夜中に小学校に忍び込むわけだから、少し身元を隠そうと思ってね」


 健作は、頭の上のヒキガエルをウエストポーチに変化させ、中からサングラスとマスクを取り出し、十魔子に差し出した。


「はい、十魔子さんのぶん」


「いや、いらないわよ。犯罪者みたいな考え方しないで。それに、誰かが通りかかったとしても、気に止める人なんていないわよ。わたし達の特性は知ってるでしょ?」


「そりゃ、そうだけど……」


 人間をはじめ、生き物は身体から霊気を放出している。生き物には、大なり小なり霊感というものがあり、この霊気を存在感や雰囲気という形で感じ取っている。


 しかし、魔術師は意識的に、分霊人は無意識に、この霊気を放出せず、内に溜め込むようにしている。


 当然、周りの人達は彼らの存在感を感じ取る事ができなくなる。


 要するに、影が薄くなるのである。


「でもさ、俺みたいに霊感0のやつがいるかもしれないし」


「そうそういるものじゃないわよ」


 十魔子は入学当初、この影が薄くなる特性を利用して、出来るだけ目立たない様に過ごしていた。


 しかし、何事にも例外は存在する。


 まず、魔術師や、それに匹敵する霊感の持ち主には、霊気を放たない空白地帯が存在する事になり、逆に目立つ様になる。


 もう一つは、霊感が著しく鈍い人間だ。そういう人間はそもそも霊感に頼らず五感で生きているため、霊気を遮断してようが関係ない。


 健作が十魔子を認識できていたのも、もともと彼の霊感が鈍かったからである。


 この様な人間はだいたい30〜40人に1人。学校のクラスに1人はいる割合で存在する。


 こういう人間は雰囲気も読めないため、周りから空気が読めないと言われ、危険な心霊スポットにも平気で踏み込むので霊障にも遭いやすい。もしくは遭っていても気づいていない場合もしばしばだ。結果、分霊人になる人間も多い。


「まぁ、そのおかげで俺は十魔子さんに出会えたわけだし、人生万事棚からぼた餅だよね」


「塞翁が馬でしょ。わけのわからない事を言ってないで行くわよ」


 そう言うと、十魔子は一跳びに塀を跳び越えた。魔術師は、身体に霊気を流す事で自身の身体能力を強化できる。十魔子の細い身体でも、この程度の事はできるのだ。


 因みに、分霊人はデフォルトでこの状態である。


 健作も後に続いて塀を跳び越えた。

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