第7話 tribute と wedge2
「だから俺達は……親父達の子供であり、智耶の兄と姉。俺達が家族なことには変わりはない」
「……うん」
「そして、お兄ちゃんって言うのは――妹に振り回されるもんなのさ? 親父達ほどじゃないだろうけど……俺にだって、お前が小さかった頃に『お兄ちゃんお兄ちゃん』って必死に後ろから追い
「あはははは……」
「ははは……」
俺の言葉に恥ずかしそうな照れ笑いを浮かべる小豆。
もちろん、「お兄ちゃんが妹に振り回されるもん」なんてことは俺だけの考えだ。世間一般の話なんかじゃない。
でも、親って言うのは我が子が何歳になろうとも、生意気な態度を取ったり、生意気な口を
幼かった純粋無垢な頃、必死に自分に縋ってくる我が子の可愛かった記憶が心に保管されている。その頃の記憶があるから反抗的な態度を取られても見放すことなんてできない。常に気にかけてしまうもの。
そう、「いくつになっても子供は子供」って言うことなのだろう。
なんて、これは親が子供に感じる気持ちだけどね。
それでも、俺にだって妹の記憶はある。いや、今でも可愛いし生意気な態度を取られてはいないけど。
とにかく、小豆に振り回されることに嫌悪など抱いてはいない。むしろ誇らしく思っている。
だから、自分を卑下するな。
……そう伝えたかったんだけど、俺のボキャブラリーでは伝えた言葉が精一杯だったのである。
それでも、相手はアニオタの妹。きっと伝わっているのだろう。
いや、それ以前にな?
「俺は――」
「俺はいつでも、どんな時でも、たとえ何かがあったとしても……お前の兄貴。お前は俺の妹なんだ」
「……」
「だから、それが許される間は……お前はずっと俺の妹でいてくれ。俺をお前の兄貴でいさせてくれ……それが俺達が俺達でいる意味なんだと思う」
「……」
「……うふふ♪」
「……覚えていたのか……」
「……当たり前でしょ?」
俺が続きの言葉を伝えようとすると。
俺の言葉を遮るように小豆が目を閉じて言葉を紡ぎ始める。
言葉で理解できる通り、これは俺が伝えようとしていた続きの言葉。
一字一句違わずに紡ぎ終えた小豆は、おもむろに目を開けて俺に微笑むのだった。
俺は唖然とした表情を浮かべながら、「覚えていたのか?」と訊ねる。
だけど心の中では――密かに抱いていた淡い期待を叶えてくれたことに喜びを感じている俺。
そんな俺の問いかけに誇らしげに答える妹なのであった。
そう、これは俺の声を録音していた時、最後に小豆へ向けて伝えていたメッセージ。
だから小豆も覚えていてくれていることを願いながら伝えていたのだ。
うん……面と向かってだと恥ずかしいけど、きちんと言葉にしておきたかったのかな。
まぁ、あの時は単純に『贖罪と自己防衛』で言葉にしていたのだが。
いや、自責の念によって小豆への想いに蓋をしていたことで――
『小豆を好きになってはいけない……だから、俺が妹の想いに応えるなんて間違っている。俺達は兄妹……それ以上でも、それ以下でもない……ただの兄妹なのだから』
なんて思っていたからな。
「だって私はアニオタなんだもん……」
「そうだな……」
俺に向かって笑みを浮かべて言葉を紡いだ妹も。
「でも、それが、お兄ちゃんには迷惑だったんだよね? 不健全だって……間違っているって思っているんだよね?」
「……」
表情を曇らせ言葉を繋いでいた。
妹の言葉を受け、自分の言葉を詰まらせる俺。
――そう、ずっと俺は妹の『アニオタ』を健全だとは思っていなかった。間違いだと考えていた。
確かにアニメの中のブラコン妹は可愛いと思う。ヤンデレは少し恐いけど、彼女達なりの愛情表現なのだと思っている。彼女達の恋が実ってほしいとも願っている。
だけど。
世の中はそんなに甘くない。
小豆は現実の妹だ。
血の繋がりがないからと言って、恋愛感情を抱くなんて間違いだと考えていた。
それは俺だけじゃなくて、妹だって同じこと――。
俺達は親父達の子供。互いに恋愛感情を抱くってことは、親父達を否定しているのと同義だと思っていた。
俺達を我が子のように育て、兄妹にしてくれたんだ。決して俺達が俺達の意思で兄妹になったのではない。親父達の導きによって兄妹になれたんだ。
それが。
自分達の感情だけで勝手に『兄妹の関係を壊す』ことは、暗に「兄妹になんて、ならなきゃよかった」と思っていること。親父達の導きを否定しているのと一緒なんだ。
確かに親父もお袋も小豆の感情に肯定的なのは知っている。でも、な?
それが本心かなんて俺達には理解できることじゃない。それこそ本心に蓋をしているだけかも知れない。
俺は一度、家族を手放した。それが、もう一度戻ってきたんだ。
実際に俺の馬鹿が原因なのだから、
もう、自分勝手な感情で家族を壊したくない。諦めていたところへ再び戻ってきた家族の形を二度と壊したくない。全員が笑って家族でいられるのを望んでいた。
だから。
同じ
いや、それ以前に、だな?
世の中はそんなに甘くない。
親父達家族は許しても、世間が許すとは思えなかった。そのことで家族に迷惑をかけるのを嫌っていた。それが原因で壊れるのを恐れていた。
たぶん、こっちが主な理由だったのかな。
だから。
俺は小豆の『アニオタ』を健全だなんて思えなかったし、間違いだと感じていた。そして、壊れる前に軌道修正するように、俺はずっと『アニキオタク』ではなく『アニメオタク』になるように仕向けていたのだった。
とは言え。
言うほど冷たかったり強くは否定していない。まぁ、俺の奮闘なんて『いつもこんな感じ』なのである。
妹を強く否定して……それで家族の形を壊せば本末転倒なのだから。
それに妹の感情や思考を否定するってことは――俺自身の変態趣向を否定されることを受け入れなければいけない。あぁ、うん……別に公言はしないけど、自分が健全かつクリーンな人間だとは思っていない。
冷静に分析すれば変態の域に片足を踏み込んでいると思っている。いや、俺ごとき劣等生が変態を名乗るのは変態紳士に失礼だからな。まだまだ、その域に達していないと言うことだ。
とにかく、まぁ、変態は置いておいても……他人にアニメ好きを否定される筋合いはない。
――奪おうとする人間は、奪われる覚悟があるから奪う権利を有するもの。
つまり、そう言うことだ。
妹の『アニオタ』を完全否定できなかったのは、俺自身を否定されることを恐れていたからなのだろう。
……いや、単純に俺が救いを求めていたからなのかもな。心の中に
そう――
『小豆のアニオタは健全じゃない。アニメオタクがアニオタなんだ。アニキオタクなんて、そんなの間違っている。いくら血が繋がらないからって、兄妹で恋愛なんて絶対にあり得ない。第一、贖罪を背負っている俺に恋心を抱ける資格なんてない』
なんて言葉で蓋をしようとしていたのかも知れない。
そんな俺の本心を脅かし、静かなる大地を支配しようとしていた『くだらないプライド』と言う名の魔王の手から。
平和な大地を取り戻すべく、
……妹が救ってくれるのを心のどこかで待っていたのだろう。
とは言え、世の中はそんなに甘くない。
勇者とかヒーローなんて空想の産物。待っていたって現れる訳はないんだ。
だけど、俺は知っている。
――「ヒーローがいなければ、君がヒーローになればいい」のだと。
そんな言葉が生きる意味を与えてくれたんだ。
そう、決めるのは自分。だけど、ひとりぼっちなんかじゃない。
たくさんの物語の言葉達が俺をヒーローにしてくれるんだ。
――「誰もが主人公だって、誰かが言っていた」んだ。望んでいたストーリーじゃないのなら、そんな偽物になんて惑わされない。
そう、「君が望んでいる君さえいればいい」のだろう――。
だから。
俺は、妹へ自分で踏み込んでいこうと。
自分でヒーローになることを選ぼうと。
平和な大地を取り戻すべく、果敢に立ち上がった勇者のごとく!
悲しげな表情を浮かべる妹へと言葉を紡ぐのだった。
◆
「……なぁ、小豆?」
「……なに?」
俺の言葉に表情を崩さず聞き返す妹。
だから俺は呆れた表情を浮かべて言葉を繋ぐ。
「お前は何か勘違いをしていないか?」
「……」
俺の言葉を受けて神妙な顔つきで俺を眺める妹。
「いや、そもそも……アニオタって、なんだ?」
「え? ……私は『アニキオタク』だと感じているけど、『アニメオタク』のこと、なんだ――」
俺の問いに泣きそうな顔で言葉を紡ぐ小豆。たぶん俺の問いが「アニオタはアニメオタクだろ?」と言わせようとしたと思ったのだろう。
だから俺は妹の「アニメオタクのこと、なんだよね?」って言葉を遮り――
「ブッブーですわっ!」
「お兄ちゃん、ちっとも似てないよぉ〜?」
「――やかましいわっ!」
すると、すかさず「ブッブーですわ!」と言いたそうな表情を浮かべて妹が反論してきた。
やかましいわ! 似てないことなど百も承知だ!
とは言え、妹の表情には悲しみは消えている。
そう、
「……ブッブー。……ブ、ブ、ブッブー。……うーん。もう少しキーを高めにした方が多少は似ていたのかな? それとも勢いが足りなかったのかも……」
「……あはははは」
……はい、思いっきり気にしておりますね?
つい、心の声が漏れていたのだろう。
ブツブツと呟いていた俺に、乾いた笑いを送る妹なのであった。
「――んんっ! と、とにかく、だな?」
「う、うん」
少し顔が
咳払いをしてから言葉を紡ぐ俺。
そんな俺に真面目な顔で返事をする妹。
「アニオタって、さ? 実際のところ……アニメとかアニキとか……アニマルとかアニエスとかアニールとか杏仁だとか」
「……」
「……すまん、そこは重要じゃないんだ」
俺の言葉を受けて怪訝そうな表情を浮かべる妹に、苦笑いを浮かべて謝罪する俺。
いや、『アニ』で思いつく単語を
「と、とにかく、だな?」
「うん……」
仕切り直して、もういっちょ。
「アニオタって、さ? 実際のところ……アニメとかアニキとか、そんなことは重要じゃないんだ」
「ん? どう言う意味?」
俺の言葉を受けて、心意が気になるのだろう。真剣な表情で先を
とりあえず、俺の言葉が冗談ではないことは理解してくれたようだ。流れ的に、ね?
「いいか、小豆?」
「うん」
「アニオタって言うのは、さ?」
「言うのは?」
「対象となるモノに対して……『愛情』を抱き、『人情』で接し、『温情』をかけ……」
「……」
「
「……」
俺の言葉を真剣な表情で聞いている妹。
俺の言葉は別に今考えたことではない。
小豆が言い放った『アニオタ』を聞いてから、ずっと俺は「そもそも、アニオタってなんだろう?」と考えていた。
いや、もちろんアニメオタクなのは理解していること。でも、さ?
正直アニメオタクの略称がアニオタならば、アニキオタクもアニマルオタクも、アニオタだと言われれば反論できないような気がするんだ。
だって、アニオタがアニメオタクだけの略称だなんて誰が決めたんだ?
そんな法律や登録表記は存在しない。勝手に「そうだ」って決めているだけなんだ。
だから俺はアニメオタクがアニオタである意味を考えていたのだ。そう、アニメオタクがアニオタである為の……。
そして考え抜いた末、出てきた結論が『これ』だったのだが――。
「テルミーホワイ? 君に問いたい……その熱いアニオタの進化!」
「――レスキュー♪」
「……ん、んん! えっと……」
なんとなくガラにもなく真面目に話したのが恥ずかしかったんだな。
とりあえずボケてみた俺。
ビシッと人差し指を妹へ向けてドヤ顔で言い放ったのだが、速攻で満面の笑みを浮かべる妹にレスキューされてしまい、二の句が継げられずにいたのだった。
まぁ、俺が言った言葉なのに「小豆に問いたい」とか言っても、レスキューされるのは当然なのだがな……。
ただボケただけであり、特に問うつもりのなかった俺は咳払いをしてから言葉を繋げるのであった。
「つまり、だな……」
「う、うん……」
俺が真面目な顔で話始めたのに気づいた妹は真面目な表情に変えて相槌を打つ。
「お前は……そ、その、なんだ……お、俺……に対して愛情を抱いていないのか?」
「……そんな訳ないでしょ?」
理解していることだし、妹の言動で知っていることとは言え。
自分に対する感情を確認することが照れくさくて、少しだけ妹から視線を逸らしながら訊ねる俺。
まぁ、これ……「俺のこと、好きだろ?」とか、面と向かって聞いているのと一緒だしなぁ。俺はナ●シストではないのだから……。
そんな視線を逸らした俺の鼓膜に妹の少し不機嫌な声が響いてくる。
いや、知っているけれども。お兄ちゃん、そこまで土管――いや、鈍感じゃないから。
と言うより、あれだけのアピールされているので確信犯でもなければ気づくから。
まぁ、理解していることだし、「お兄ちゃん愛している」が服を着ているような小豆さん。
……いや、たぶん小豆さんのことだから「お 兄 ち ゃ ん愛 し て い る」なのかもな?
いや、別に本当に『文字が胸の部分あたりにプリントされているシャツ』を着ている訳ではないのだが。いやいやそもそも、「お兄ちゃん愛している」が服を着ているのだから違うのですが。
だから妹の気持ちを知っているはずの俺が訊ねたことに小豆は不服なのだろう。
「そ、それなら……人情を持って接していないのか?」
「そんな訳ないじゃん?」
「温情はかけていないのか?」
「かけているよぉ?」
まぁ、そう言う意味ではないのだよ。
俺は気にせず質問を続けるのだが、更に輪をかけて不機嫌そうに答える小豆。
……うーん。おかしいね?
普段のアニオタな妹だったら、ここまで言えば俺の言いたいことなんて理解しているはずなんだけど。
どうにも理解しているようには見えないぞ?
「……」
「……」
的を射ていない答えを返してくる妹のことを、不思議そうに眺める俺。
だけど妹にしてみれば完全に素の言動なのだろう。不思議そうな表情を返してくる妹なのであった。
もしかしたら。
自分自身で俺やあまねるに対して「アニオタだったから迷惑をかけた」って言っていたし。
俺が「妹のアニキオタクを否定して、アニメオタクがアニオタなのだと妹へ突きつけようとしている」なんて勘違いをしているから――
既に『お兄ちゃんが呼んでくれた時から』理論によって、アニキオタクを完全否定したのだろうか。
そう、既にアニメオタクがアニオタだと認識して、自分の中でアニキオタクを排除した結果――俺の意図には気づいていないのかも知れない。
……でも、これって喜ばしいことなんじゃ? 妹が健全なアニオタに戻ったってこと、だよな?
これからは普通のアニオタとして、普通にアニオタライフを満喫するってこと、だよな?
そうかそうか、確かに「普通の兄妹の関係に戻れること」は世間的に喜ばしいことなのだろう。
そう、今から俺が念押しの一言でも伝えれば、今後は確実に健全な関係に戻れるんだ。
だから……俺は優しい微笑みを浮かべながら『健全な関係に戻れるように』妹へと言葉を紡ぐのだった。
「いや、そうだよな? そうだろうって……俺も思っていたさ」
「――え?」
俺の言葉に目を見開いて驚きの声を発する妹。
「そう言う、俺に対する、お前の気持ちや想いを言葉にして、幾重にも重ねてきた――誕生してきたんだよな?」
「……ぅ、うん……」
「だったら……お前のアニオタについて、誰も――いや、少なくとも俺は否定ができるはずはないんじゃないのか?」
「……ぇ?」
「いや、だってよ? お前は俺が考えるアニオタを実行している……それって俺的には、お前は立派にアニオタなんじゃないのか?」
「……」
妹は俺の言葉を受けて怪訝そうに俺を見つめている。
だから俺は苦笑いを浮かべて言葉を繋いでいた。
「そもそも、お前のアニオタは俺にしか理解されていないはずだろ? ……と言うことは、俺がアニメ好きである以上、周囲には小豆のアニオタはアニメオタクでしかないんだ。まぁ、俺がアニメ好きをやめる時は……まだまだ当分先のことだろうしな? お前がアニキオタクでも当分はアニメオタクにしか見られないってことだし、結局俺一人の問題なんだと思う訳よ?」
「……」
「だから――お前が今後もアニキオタクを貫くのであれば……俺は逃げも隠れもせずに正面からお前の全部を受け止めてやるさ? 俺に対してオタクの気概を見せるなら、俺は迷惑だなんて感じていねぇ。巻き込まれたとも思っていねぇし、お前が責任を感じることなんて何一つないんだ……つまり……今まで通りの俺でいてやるってことさ」
「……お兄ちゃん……」
「……」
俺の言葉を受けて安堵するように微笑む小豆。
理解してくれたことを確認して、同じように安堵の笑みを溢す俺なのであった。
俺は俺達兄妹の健全な関係を取り戻す為に言葉を紡いだまで。別に世間を喜ばせるつもりはない。俺と小豆が喜べるだけで十分なのさ。
だから、「小豆のアニオタがアニオタなのだ」と伝えたのだ。
結局さ?
俺が妹のアニオタを否定する為に考えていたアニオタの定義。
これって、実のところ……全部のオタクに通ずる定義なのかも知れない。いや知らない。
まぁ、少なくとも俺は通ずると思っている。
そう考えた結果、妹のアニオタも別に間違いではないのだと認識したのである。
――なんて、な?
アズコンを認めた俺が小豆のアニオタを認めない訳がないだけ。好意的な感情を抱いてもらっておいた方が嬉しいし、結局アニオタなんて個性でしかないのだと思う。
結局さ?
『俺の妹がこんなに可愛くないと言うヤツは表出ろ!』
と言う訳だ。平たく言えば『可愛いは正義』ってことだな。正義の前では俺なんて無力なのである。
……なるほど、ラノベのタイトルにしては随分とケンカ売っているタイトルだなぁと思っていたが、正論だったようだ。
なお、本当に表に出るヤツがいるのなら手を振って見送っておこうと思う。いや、お兄ちゃんは妹との時間が最優先事項だし、表出ろとは言ったが俺も出るとは言っていない。よし、話を進めよう。
「でも――」
それでも
だから俺は妹の言葉を遮るように――
「デモなんてアニメや円盤の試聴動画だけで十分だ!」
「……何それ……」
一刀両断に言い放つ。
――と、怪訝そうな表情を浮かべる妹に聞き返されてしまっていた。……そだねー。自分でも何を言っているのか理解できていないからスルーしておこう。
「いや、だからな……『全部の罪は俺が被る』ってことだ!」
「……何それぇ……」
改めて、一刀両断に言い放つと。
妹は表情を緩めて苦笑いを浮かべながら同じ言葉を紡いでいた。
妹も知っている俺の昔の口癖。
俺が全部の罪を被る以上、お前には何も責任は存在しない。いや、香さんの言葉を拝借するならば「俺達の間には何もなかった」ってことを言いたかった俺。
上手く伝わっていないかも知れないが、アニオタを取り戻した小豆には理解してもらえたと思っている。
って、まぁ、その、なんだ……『お兄ちゃんが呼んでくれた時から』理論によって、アニキオタクを完全否定していただけで。
とどのつまり、小豆自身はアニキオタクを貫いていただけなんだと思う。単に封印していたってことなのかな。
そんな封印が強固であるはずがないことを身をもって知っている俺。結局、自滅していましたからね……。
だから、俺が肯定したことにより――
大手を振ってアニキオタクに返り咲いたのだろう。
「と、とにかく……お前はお前の望むべき道を進めばいいのさ。俺はお前の全部を受け止める義務がある」
「……」
「なぜならば! それがアニオタのアニに課せられた使命なんだからな!」
確かに俺の口癖だし、当時の俺は大真面目に使っていたのだが――やはり恥ずかしい過去は恥ずかしいのである。
少しだけ頬に熱を感じながらも、ぶっきらぼうに言葉を繋げる俺。
――そう、それがアニに課せられた使命。
寄せられる想いには全力全開で
俺達が想いを寄せているアニメやアニメ声優さんやアニソンアーティストさん達は、俺達の想いを受け止めて全力全開で向き合ってくれているじゃないか。そのことを学んでいるはずの俺が、妹から寄せられる想いに向き合わないでどうするんだよ。
それでアニメ好きなんて語れねぇ――いや、語るに落ちるのだろう。
なお、この「語るに落ちる」――本来は「問うに落ちず語るに落ちる」と言う
意味は『他人に質問された時は警戒して秘密を話さないのに、自分で語る時には簡単に話してしまう』と言うこと。平たく言えば、筋の通らない厚顔無恥な振る舞いだってことなのだろう。
だけど最近では『語るに落ちる』の部分だけを切り取って『論ずるに値しない』みたいな誤用をされるようだ。
当然だけど俺は誤用の意味で言った訳ではない。
俺は……まぁ、あまねるほど崇高かつ高尚な心根を持ち合わせてはいないのだが。
それでも、アニメに対して色々と学び、自分を高めようと心がけている。
そう、全力全開で向き合ってくれている姿勢を素晴らしいと思う俺が。
自分の立場になった途端に手の平クルーで妹と向き合おうとしなければ、それは筋が通らないってもんだろう。
「うん……ありがとう、お兄ちゃん……」
「あ、あぁ。それでだ――」
「んぅ……」
「――ッ! ……」
そんな俺へと慈愛に潤ませた表情を浮かべながら礼を伝えた妹は――
ゆっくり俺へと近づきながら、俺の首に両手を絡ませ瞳を閉じて唇を重ねてきた。
それはまるで俺がしたように。
繋ぐ言葉なんていらない。あとは想いで繋がるだけ。
そんな意思表示だったのだろう――。
少しの間、俺達は互いの想いを感じていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます