第七章 途上

第1話 ずた袋 と 対立

◇1◇


「……お嬢様、お待たせいたしました。善哉様をお連れしました……」

「……そう? ご苦労様……」


 衝立を抜けた少しひらけた場所の先は、一面壁になっている。

 その壁の中央辺りに大きめの両面引き戸があり、片方が開いている状態だった。

 師匠は特に振り返ることなく奥へと進む。だから俺も彼女に倣って奥へと進んでいた。

 そんな俺の視線の先。

 部屋の中央辺りにもうけられた高級そうなテーブルと椅子……廃屋工場には場違いな気がするんだけど、お嬢様が手配したんだろう。

 その椅子に座って、テーブルの上に並べられたティーセットで優雅ゆうがに紅茶を飲みながら俺達を見つめる彼女。師匠の主である、ゆきのんが映し出されるのであった。

 師匠は彼女の目の前まで歩みを進めると、恭しく頭を下げて俺を連れてきたことを報告する。とりあえず、俺は豚足ではないらしい。ブヒブヒ……。

 いや、あれは単なる「豚足の意味、アニメ好きの貴方なら理解できますよね?」って意味で俺を試していただけ。暗号みたいなものだったのだろう。

 だから、たぶん声や名前とかは単なる偶然なんだろうな。メイドさんは元からだしさ。

 まぁ、髪型は寄せたのかも知れないけど、その他のパーツは、ねぇ? だから「豚足」と呼んでいたのは、たまたま作品とマッチしたからリスペクトしただけなのかも?

 いや、別に「豚足」の真相は何でもいいや。可愛いは正義なのだから! 

 つまり、俺が「師匠」と呼んだ時点でミッションはクリアしたみたいだ。まぁ、彼女の名前を知るまで気づきませんでしたけどね。


 師匠の言葉を受けた彼女は優雅にティーカップから口を離し、カップをソーサーに置き、テーブルに置くと。

 師匠に向かって微笑みを浮かべて、ねぎらいの言葉を送っていた。

 そして視線を後ろの俺に向ける。だから俺は一歩前に進み、師匠の横へと並ぶのだった。


「……わざわざ、ご足労そくろう願いまして申し訳ありません。改めて……雪風院雪乃と申します」

「こちらこそ急な来訪につき、お待たせして申し訳ありません……霧ヶ峰善哉と申します」


 俺が前に出たことを眺めていた彼女は立ち上がると頭を下げて自己紹介をする。

 俺も待たせてしまったことを頭を下げてびてから自己紹介をしていた。それ以前に彼女のオーラに屈服くっぷくしたのかも知れないな。

 うん。それはともかく待ち合わせを遅らせたのは事実だしさ。それに、対面した時の自己紹介は礼儀だろう。「知っているのに」は関係ないな……ゆきのんも同じなんだし。


「そうですか、貴方が……」

「……」


 視線を戻した彼女は意味ありげな言葉を紡ぐと、軽い握りこぶしを口元に当て。

 少し前かがみになりながら、俺の頭のてっぺんから足のつま先まで、まるで値踏ねぶみをするような表情で俺のことを眺めている。

 蛇に睨まれた蛙な俺は緊張で固まっていた。

 いや、不良連中の値踏みは日常だったし慣れているんだけどさ? こんな美少女の値踏みなんて生まれて初めての経験なんで対応に困るのである。


「雨音が……将来をすほどに見初みそめた相手なのですわね? それに、おじ様もおば様も、ご執心しゅうしんだとうかがっていたのだけれど。あの子やおじ様おば様のことだから見る目は確かでしょうし、礼儀も正しいのだけれど……及第点きゅうだいてんってところかしら?」

「……」


 何かブツブツと握りこぶしの中に言葉を詰め込んでいるようだけど。俺の耳には届いていないから値踏みの視線だけが俺を突き刺している状況だ。

 だけど最初の「雨音が」って部分と、最後の「及第点ってところかしら?」って部分だけは声が漏れていたので聞き取れていた俺。

 だから彼女は『あまねるの兄としての値踏み』をしているのだと思っていた。

 違うかも知れないが、他に思い当たることなんて存在しないから。

 きっと、あまねるから俺が兄のような存在だと聞いたのだと思う。だから姉として彼女の兄にふさわしいかどうか確認したかったのだろう。


 その上で及第点――試験などに合格するために必要な点数だと口にしていた彼女。

 それはつまり……お情けで合格点をもらえたってことなのだろう。うん、「落第ね?」なんて言葉を突きつけられなくてよかった。

 ひとまず安心する俺なのであった。ただ。


「あ、あの……」

「あら、失礼……何かしら?」


 俺には部屋に入ってから、ずっと気になっていることがあるので、彼女には申し訳ないが話を進めさせてもらおうとしていた。

 俺の言葉に姿勢を元に戻して言葉を紡いでいた彼女。


「小豆を……妹を『解放』してもらえませんかね?」

「……どう言う意味なのかしら?」


 苦笑いで紡いだ俺の言葉に、彼女は少し怒気を含ませた表情で聞き返してきた。

 ……あぁ、なるほど。まぁ、そうだろうとは思っていたけどさ。

 彼女の表情と言葉で状況を察した俺は彼女に伝わるように説明を続ける。


「いえ……確かに妹は小豆と言いますけど、食用の小豆ではないので『ずた袋に入れて出荷』されても困るんですよ?」

「……何を言っているのかしら?」


 俺としてはウィットに富んだジョークをかましたつもりなのだが。どうやら、ゆきのんには通用しなかったらしい。更に表情をゆがませて聞き返してきたのだった。

 うむ……俺のトークスキルはまだまだ、美香おばさんの足元にも及ばないのだろう。言った本人が背中をビシャビシャにしているくらいだし、さ。

 確かに、あまねるの姉らしく眼光がんこうするどさは彼女以上かも知れないけど。

 俺の周りには死を覚悟するほどの眼光の鋭い御仁ごじんが何人もいるし。よく生きていられるね、俺……まぁ、数回しかおがんだことないからだろうけど。

 お嬢様のオーラで言えば、あまねるだって負けていないと思う。庶民の俺には優劣がつけられないからさ。

 要は彼女の嫌悪なオーラを前にしてもブルッちまって声が出ないこともなく。背中ビッショリですが。

 言葉を繋ぐ俺なのであった。


「ですから……小豆を出荷するつもりがないのなら、そんな『ずた袋に入れて隠すような真似事まねごと』はやめていただきたいのですが?」

「ん? ……」

『●△※□○×■!』

「――きゃうんっ! ……んんっ! ……貴方達?」


 俺は彼女でも理解できるように――右腕を、手の平を上にして水平に持ち上げ突き出し、視線で彼女の後ろだと知らせながら言葉を紡ぐ。

 不思議そうな表情を浮かべていたが意図が伝わったようで、ゆきのんは後ろを振り向く。

 刹那せつな、彼女から少し離れた場所に置いてある『ずた袋』がポルターガイスト現象を巻き起こしていた。いや、耳まではふさがれていないのだろう。会話を聞いていた『あいつ』が反応しただけってことさ。

 そんな現象に驚いた彼女は可愛い悲鳴を発する。うん、可愛かった。まぁ、一つ年下の美少女だからな……可愛いのは当然か。

 とは言え、彼女的には恥ずかしかったのだと思う。

 突然咳払せきばらいをすると、責任転嫁せきにんてんかをするように視線を反対方向へと移して――周囲に立っていた彼女達。

 宇華徒学院の制服に身を包んだ数名とフダツキを睨みながら声をかけていた。まぁ、別に責任転嫁ではないだろうけどね。


「――ひゃ、ひゃい」

「――ひゃ、ひゃい」

「――はぅん♪ ……」


 声をかけられた彼女達の中央に並んで立っている二名が、シンクロしながら背筋を伸ばして返事をする。

 それと同時に、ご褒美をもらって恍惚な表情を浮かべて崩れ落ちる師匠。いや、俺とは普通に会話していたので忘れておりましたよ。

 そもそも流れ弾でしかないのに自分から飛び込むとは……お見事です師匠!

 まぁ、性癖せいへき自体は別に嫌いではないので変わらずに師匠と呼びはしますけど……発病中は近寄らないでくださいね。免疫めんえきないので対応に困るので!

 ――って、あれ? 中央に立っている二人……どこかで見覚えが?


 俺は背筋を伸ばして恐縮きょうしゅくしている彼女達を眺めて、どこかで見覚えがあることに気づいた。

 だけど彼女達は宇華徒学院の生徒。俺には繋がりなんてあるはずもない。

 小豆はともかく、あまねるも俺に友人を紹介することはなかった。まぁ、小豆がいるからな。気をつかってのことなんだろう。

 だから面識なんてあるはずないのに――って、あぁ! 彼女達か……。

 俺は自分の記憶の引き出しから彼女達の記憶を引っ張り出していた。

 いや、整理整頓できないから乱雑な引き出しだし、必要ないんで上からアニメ関連の知識が山のようにかぶさっていたから探すの苦労したんだけど。


 数年経っているから少し大人っぽくなっているけど、あまねると同じだけ成長していると考えれば「きっと彼女達なんだろう」と、そう結論づけていた俺。

 ……そう考えると、小豆って成長しとらんな? あれかな? 栄養が全部スイカの肥料ひりょうになっているのかな? それなら納得だ――


『●△※□○×■!』

「――ッ!」


 こんなことを考えていたからだろうか。いや、だからエスパーなのかよ!

 突然『ずた袋』がズタズタと動く。

 その動きで室内の全員が驚いていた。うん、ネタバレしていても恐いもんだな。

 まぁ、さすがに「私だって成長してるもん……ちっちゃくないよ!」ってことじゃなくて、「いいから早く助けてよぉ?」って合図なんだろうけど。

 いや、お前の成長は認めているぞ……とある部分だけは。それに助けに来ているんだから「かたなしくん」なんて呼ばないでほしい。今だけは。


 何はともあれ……『ずた袋』におおわれていたんじゃ暑いだろうな。苦しいだろうな。すぐにでも解放してほしいよな?

 だが、断る。 


 いや、すぐにでも解放してやりたいのは山々なのだが。まだ彼女達の記憶を解明していないし。

 なにより今は、ゆきのんのターンだからさ……。もう少しだけ変態お兄ちゃんの変態プレイに付き合ってくれ?


『――。……』


 おっ、静かになった。まぁ、顔のありそうな部分がかすかに動いていたし、頷いてくれていたみたいだから安心だろう。いや、本当にエスパーだったら不安しかないけどな。色々な意味で。

 と、とにかく、話を進めようかな。


 彼女達。

 そう、『小豆の件』であまねると対峙した際に一緒に来ていた二人。いや、あまねるの両脇に立っていたから見覚えがあっただけで、今彼女達の両脇に並んでいる女子もいたのかも知れない。

 あの時も、今のように女子数名と男子数名の大人数だったからなぁ。


 ――サブキャラまでは覚えちゃいるが、モブキャラだとチト覚えてねぇな。

 あまねるの取り巻きだって? 彼女の周りには沢山いるからねぇ……。

 悪いが他をあたってくれよ?

 ……あんた、彼女の関係者?


 ……きっと関係者でしょうね? 取り巻きなんだし。

 なんとなく脳裏にリズムが浮かんだので口走ったのだが、特に意味はないのである。

 もしも仮に「なんなのさ?」と言う疑問に答えるならば――必要な顔以外は記憶にないんだ。

 これがアニメだったら幾久いくひさしくヒロインだと思うけど、リアルにそんな考えはないのである。

 要は、たぶん他の数名も『取り巻き』だったのだろうってこと。そして。

 そもそも中央の彼女達二人が本当のラスボスなのだと考える俺なのであった。


「彼の言っていることは……どう言う意味なのかしら?」

「あ、あの、いえ……そ、それは……」

「私は確か、貴方達から『小豆さんは別室にて丁重ていちょう隔離かくりしてもらっている』と聞いていたはずなのだけれど?」

「――ひっ!」

「それならば彼の言葉と……あの動く物体は、なんなのかしらね?」

「あ、あのあのそのその、そそそそそれはですね……」


 ゆきのんが怒りのオーラをまといながら、彼女達に問い質していた。


 ――えっと……今、曖昧あいまいに思い出しただけで、ほとんど面識のない彼女達に俺の通訳は無理なのだと思われますが?


 俺の言った言葉を彼女達に問い質そうとしていた彼女の言葉を聞いて、こんなことを念力で彼女に飛ばしてみた俺。

 もちろん、そう言う意味ではないことを知っているから口に出していないのだが。単純に彼女が恐かったので心の中でボケをかまして心をなごませていただけなのかも知れない。

 まぁ、ゆきのんの続けられた言葉で完全に彼女は知らなかったって確信できたけどね。


 うん、敵意を向けられていない、しかも男の俺でも恐いんだ。直接睨まれている彼女達には、相当の恐怖なのだろう。

 顔を青ざめ、大粒の涙をめてブルっている。と言うより、上半身と下半身の揺れが微妙にずれているぞ? え、いや、まって? それって放水寸前なんじゃないの? いやいやいやマズイだろ、それ!


 確かに変態お兄ちゃんな俺としては『その手の趣向』に嫌悪感の反対の感情を持っている。

 ぶっちゃけ目の前の彼女達だって、美少女のレベルに君臨していると思う。しかも、お嬢様。

 そんな女の子のリアルシーンが再生されたら『俺TUEEEE』状態の興奮が支配している俺の脳内なのだろう。

 逆に嫌悪感を抱く思考の方が理解できないくらいだ……いや、本当、変態だなぁ、俺って。

 それに『そんな写真』を撮ってしまえば、小豆とあまねるから手を引かせる『切り札』になるかも知れない。

 とは言え、実際にシーンが展開されれば確実に室内の男子は追い出されるだろう。それでは小豆の出荷を阻止できないのである。

 そもそも、事情を知らないゆきのんが目の前にいるしね? そんな写真を撮っているのを見られようものなら、あまねるに金輪際こんりんざい近づけなくなるから、本末転倒なのだよ……。そして。


 まぁ、単なる自業自得じごうじとくだし、別に彼女達を擁護ようごする義理もないんだけどさ?

 それでも俺は小豆の兄貴――小豆の性格に似ているってことなのだろう。普通「お前が兄貴なんだから逆だろ?」って思うだろうが気にしない気にしない。だって「小豆ねぇたん」なのだから。 

 つまり、彼女達にトラウマを植え付けさせたくない。恥ずかしくて、死ぬほど悲しい想いをさせたくなかった。純粋に彼女達を助けたかったんだよな。

 まぁ、さっさと小豆を回収したかっただけかも知れないけどね。 


 ――よし、最低でも男子が部屋を追い出されるような。彼女達のトラウマになるような『ロマンティックハプニング』は回避せねば!

 そんな誓いを胸に、俺は人質になっている小豆を救出する為に歩き出すのだった。

 

◆ 


「……」

「……あぁん? ――って、ちょい待てやコラァ!」


 全員がゆきのんと彼女達に集中している今。俺は散歩をするように、自然に数歩ほど歩き出していた。

 そんな俺に、彼女達の後ろで待機していたフダツキの一人が気づく。

 まぁ、わざと直線ではなく迂回して、気づくようにフダツキの視界に見切れる道を歩いていたんだからさ。気づいてもらわなきゃ意味がないのである。

 フダツキの声で、ゆきのんを始めとする全員の視線が俺に集中していた。チラッと見た危険な二人は、ホッとしたような表情を浮かべている。

 まぁ、お嬢様らしからぬ……安心したみたいだから顔色は戻って。いや逆に真っ赤な顔で大粒の涙を溜めている表情と。

 前かがみになりながら乙女の花園を布越しから両手でギュッと掴んだ完全なる『ロマンティックポージング』を、俺を含めた野郎どもの前だと言うのに披露ひろうしたままなので油断は禁物なんだけど。

 まぁ、こんな状況ですし、相手はラスボスですし、俺には心に決めた愛する三人がいるので平常心を保っていますけど。

 そう言うものがなかったら……「一目惚ひとめぼれしていたかもな?」なんて感じるほどに可愛い仕草だと思っていた俺。変態お兄ちゃんの基準はアテにならんよ?

 現に彼女の周囲にいるフダツキ数名は何もしていないのに鼻息を荒くして前かがみになっていた。


 ――さてはDTだなオメー。 

 って、不本意だけど俺も同じギルドメンバーなのだがね……。


 なお、DTとは――デンジャラス・トレジャーハンターのこと。

 そう、我々には理解できない未知なる宝を探し回り、危険をかえりみずに追い求める者のこと。……世間では童貞と呼ぶ者もいるらしい。


 まぁ、このくだりはともかく……彼女達を眺めて意味は違えど「可愛いな?」と思う、俺を含めた男子連中なのであった。って、全員変態ですね……。


 と、とにかく彼女達の表情的には「とりあえず難は逃れたってことで大丈夫かな?」と思っていた俺。いや、思いたかっただけですがね。

 現実逃避ならぬ暴走逃避する目的で視線を正面に戻して歩き続けていた。いや、こっちがメインなのですが。

 俺の進行方向に小豆がいることを知っている連中。当然回収を阻止しようと、慌てて声を張り上げ襲い掛かってくるのだった。


「……よっと!」

「――え? おわっ! ――うげっ!」

「……」


 勢いに任せて右腕を振り上げながら襲い掛かってくるフダツキ。

 だから俺は咄嗟とっさに軽く一歩後退する。刹那、驚きの表情を浮かべるフダツキが視界の端から映りこみ……勢いよく眼前に落下していた。

 うむ。そんなヘッドスライディングじゃキャッチャーに激突したってボールを落としてくれないぞ? 完全にアウトだな。色々な意味で。まぁ、落下しているだけだからヘッドスライディングじゃなくて、低空エアボディプレスなのかもな。興味ないけど。


 とは言え、一応通行止めには成功している決死の妨害ぼうがい。そんな、地面に大の字になって寝転びながら邪魔をするフダツキを見下ろして、心底呆れていた俺。

 いや、透達に聞いていたから「こいつら相当弱い」って、予想はしていたんだけどさ。想像以上じゃないのか?

 なんだよ、その腰の乗っていない……のに拳にはが乗っかって、あまりの遅さに蚊が欠伸あくびしていそうなパンチは! 

 たぶん透達や後輩達なら今のタイミングだったら確実に俺へ一発入れられるぞ? 別に回避しないとは言っていないから、あくまでも「入れられたら?」の話だがな。

 まぁ、単純に一発入れられたくらいで戦闘不能になるほどヤワじゃないから、入れられたとしても確実に。


 ――やられたらやり返す、五倍返しだ!


 うん、三倍じゃ腹の虫がおさまらないから五発は入れていると思う。

 と言うより俺の周りの大人達なら、確実に三発は入れられているしな。いや大人の一発は確実に俺を戦闘不能にするレベルだから三発も必要ないかも知れないのだけど……。


「……ちょいと失礼? ……」

「――おい、てめぇ、やりやがったなぁ!」

「一人倒したからって調子に乗るんじゃねぇぞ!」

「それ以上行かせると思ってんのかぁ!」


 邪魔をしているとは言え、それほどの障害になっていない、地面に横たわるフダツキ。

 特に障害になっていないことを証明するように、フダツキに謝罪をしてから背中をまたいでいた俺。

 いや、「俺のしかばねを越えてゆけ!」ってメッセージかと思って。死んでいないけどさ。

 いやいや、さすがに俺でも、こいつが……踏み台転生者だとは思っていないから踏まないけど。踏み台転生者に失礼だしさ。

 そんな俺の行動を見ていた他のフダツキ達が、もの凄い剣幕けんまくで声を張り上げ突進してきたのだった。


 うわー。お約束的な台詞をありがとう……嬉しくないけど。

 と言うより、俺は何もしていないぞ? ただ自滅しただけじゃねぇか。俺のせいにすんじゃねぇ!

 あと、「行かせると思っているのか」も何も……俺には「行ける」としか思えないんだけどさぁ?


 襲い掛かってくる三人に呆れ顔を浮かべて、こんなことを考えていた俺。

 三人とも最初のフダツキと大差ないからな……襲ってくるだけ時間の無駄だぞ?

 まぁ、言葉の通じる相手でもないだろうから体で理解させておくか。

 俺はそう考えて、襲い掛かってくる三人に向き合うことにするのだった。


「だぁぁああああ……」

「すぅー。――はいっ!」

「えっ? うおっ! ――うげっ!」


 最初に射程圏内しゃていけんないへと到達したフダツキの、放ってきた右ストレートに狙いを定めて軽く精神統一をする俺。

 そして相手の右手首を狙って、一歩左足を前に踏み込み、手の平を突き出して迎え撃つ俺。

 相手の手首に俺の右手を当てるやいなや、左足を軸に腰の回転を使い、右足で時計と反対周りに円を描きながら、突き出した手によって相手を前方へと押し出し軌道きどうを変えてやった。

 強引に軌道を変えられた相手は驚きの表情を浮かべながら、横目で俺を見たまま地面へとダイブする。スライディングだったっけ? どっちでもいいや。


「なめんじゃねぇぇえええ……」


 一人目がダイブすると同時に次の射撃が俺に襲い掛かる。相手は少し不敵な笑みを溢していた。

 今の俺は左横より少し後ろ向き。相手に右肩から背中半分を突き出しているような体勢だ。

 だから、この体勢からなら反撃できないとでも思ったのだろう。って、こいつら本当に戦闘力皆無な連中なんだろうな。それとも、俺を「本当に喧嘩けんかを知らない一般人」だとでも思っているのだろうか。

 普通それなりに経験を積んでいれば二人への対応だけで判断できると思ったんだけど。期待した俺が馬鹿だったようだ。

 すまないが、この体勢でも軽くジャブなら打てるぞ? まぁ、打たないけどさ。

 そう言うことじゃなくて。

 三人が同時に襲い掛かって来るって知っているのに、次のことを考えずに対抗する馬鹿がどこにいるんだ? 俺はお前らとは違うんだよ。


「……ふっ。――せやっ!」

「なっ! うわっ! ――おごっ!」


 二人目の拳が射程圏内に入ると同時に、俺は左足のつま先を相手に向けた状態で一歩後ろに引きながら腰を落とす。

 同時に前方に突き出していた右手を胸元へと一度引き戻し、体を完全に相手の方へ向けて。

 右腕のひじを起点として垂直に立てながら、人差し指と中指を軽く立てた握り拳を作り、『逆くの字』に曲げた形で迎え撃つ。

 刹那、俺の腕をすり抜けようとしている相手の拳に合わせ、手の甲と手首で相手の右手首を俺から見て左側ではさむと。

 腰の回転を利用して、左足を軸に右足を時計回り。さっきとは反対方向へ逆回転で円を描くように地面をすべらせながら、相手を一人目とは反対方向になぎ払っていた。

 信じられないとでも言いたそうな表情で俺を見つめながら地面へとダイブする二人目。


「もらったぁぁあああああ……」


 その瞬間、三人目が俺の眼前に映し出される。こいつは完全に勝利を確信している表情を浮かべていた。

 今の俺は右手を大きくなぎ払い、左手も腰にえていた。つまり、顔面は『がら空き』だってことさ。

 だけど三人目は両腕を大きく広げて俺の両肩を目がけて襲い掛かってくる。

 なるほど、パンチじゃなくて全体重をかけたタックルでもするつもりだろう。単純に正面を向いているから回避できないとでも勘違いしたんだろうな。


 今目の前にいるフダツキは他の二人――いや、見える範囲じゃ一番の巨漢だ。

 例えるならば、キャ●翼の高杉くんや次藤くん。キン●マンのサンシャイン。鬼●郎のぬりかべみたいなもんだ。

 いやいや弱虫な自転車競技部の主人公の先輩。暴走の肉弾頭にくだんとうな田●先輩だな。まぁ例える必要があったのかは知らんけど。

 それに引き換え、俺はと言うと。見える範囲の連中と比較しても小柄な方だと思う。

 うむ、どこかに連中の仲間として、目●のおやじとか、事故の衝撃しょうげきで体が十五センチになっちゃった堀●ち●みちゃんとかが隠れていなければ……。いやいや、実際に見たら恐がりのお兄ちゃんは確実にブルッちまうのでお引取りください!

 

 つまり見える範囲では……って、さすがに、ゆきのんや師匠、それに彼女達よりは――ちっちゃくないよ! いや、言ってみたかっただけだ。

 とにかく男としては小柄な方に分類される俺。

 だから相手にしてみれば「押し潰せば簡単に倒れるだろうから楽勝だ」なんて考えているのだろう。

 まぁ、確かに、するつもりはないけど攻撃も、さっきみたいな回避も無理そうだしな。

 押し倒した後、全員で袋叩きにでもする計画なのかも知れない。


 ――だから、俺を甘く見んなっての!


「――ぐっ!」

「な、なに?」


 俺は即座に正面を向き、腰を落として真正面から相手のタックルを受け止める。そんな俺に驚きの声を漏らす巨漢。

 だけど別に俺は、ただタックルを止めていた訳じゃない。

 そう、俺の左手は相手の右腕のそでを。右手は相手の胸倉むなぐらつかんでいたのだった。


「――くっ! ……ぇ? かっ! このっ! うぐっ……」 


 しっかりと握った俺の両手を振りほどこうと、巨漢は強引に体を引き離そうとしていた。だけど俺の両手からは逃げられない。「嘘だろ?」とでも言いたそうな表情で俺を見ている巨漢。

 当たり前だろ? 引きがされないように手首をしぼっているんだからさ。


 俺の握力は人並みだ。そう、袋一杯……どこから調達したのか知らないけれど。

 パーティーなどで飾られている大きい花の鉢植えが入りそうな。

 二・三泊程度の旅行なら楽勝で荷物が入れられそうなサイズの、旅行鞄になりそうな袋。たぶん調達元はあまねるだろうけどね。

 そんな、厚手のビニール製の袋に「これでもか!」ってほどに詰め込まれた。

 はかっていないけど、一袋数キロ程度あったんじゃないかって重さのラブレターの袋。

 あの時は紙袋だと思っていたけど、こんな重量は紙袋には耐えられないって理解して、厚手のビニールだろうと理解したんだ……小豆が全部ラブレターを出し終えて、丁寧に袋をたたんでいるのを見て。って気づくの遅いな、俺! 

 いや、袋になんて興味なかったのと疲弊ひへいと……とあるイベントによって、帰宅途中のお兄ちゃんはそれどころではなかったから。主に、とあるイベントが発生していた両腕のあたりが。


 つまり、そんな袋を両手で持ったら「お、重いじゃなぁーい?」と、顔を歪ませるほどには人並みの握力しかない。

 ――って、妹達よ。よく外まで、こんな袋を運べたな……と、その場では疑問に思っていたのだが。

 帰宅後に妹に聞いたら、どうやら二人は同級生を……黒猫さんや飛脚さんやペリカンさんにしたらしい。

 まぁ、ちゃんと相手の両手をギュッと握って「おねがぁ~い?」なんて上目づかいいでお願いしたら、こころよく……興奮しながら雄たけびを上げて運んでくれていたらしいから問題ないな。

 

 ――あ、あんたら策士や! まぁ、俺が「使える男子なんて使わなきゃ損なんだから、そうしろ!」って、自分の負担を減らす目的で教えたんだけどさ。


 そんな感じで校門までは男子二名、一袋につき。つまり、四人がかりで運んできたのだと言う。

 うーん……妹の話によればバリバリ体育会系の男子だと聞いていたし。少し離れた場所で「ぜぇぜぇ、はぁはぁ」と死にそうな顔をしている男子共を見ても、そう感じていたんだけどさ。

 きっと外見だけはバリバリ体育会系の、中身は『もやしっ子』なんだろうな。人並みの握力の俺でも二袋持てるんだからさ?

 なお、あの時妹達は「袋を持っている」と思っていたのだが。

 実際には二人とも袋は地面に置いていたのである。だけど袋が大きくて身長の低い二人だから持っていると錯覚したのかも知れない。

「ほら?」と、俺が手を差し伸べた時も妹達は取っ手を動かしただけで、俺の方から掴んでいただけだし。まぁ、どっちでもいいんだけどね。

 とにかく俺は人並みの握力しか持ち合わせていないのだ。


 つまり夏冬の有明に参戦し、一ヶ月の給料……いや、それ以上なのか? 

 そんな金額分の薄い本を購入して、本のびっしりと詰まった袋を両手に複数持ち帰れる猛者もさには到底及ばないほどの握力なのである。


 だから本来だったら、力の強そうな巨漢なら普通に引き離せるかも知れない。外見だけのもやしっ子でなければ。

 だけど俺は掴んでいる手首を返し、衣服を巻き込んでひねる。そう、絞りを入れて掴んでいた。

 普通だったら引き剥がせるかも知れないが、絞りを入れた状態では簡単には引き剥がせないのだ。

 まぁ、それだって腕力が俺よりも上で……柔道熟練じゅくれん者だったら容易たやすく引き剥がせるんだろうけどね。具体的には親父や江田さんなんかは……。

 だけど巨漢は完全な素人なのだろう。「なんで離れないんだ?」なんて困惑の表情が見え隠れしていたのだった。


 しかも本当に素人……そこは抜きにしても、こんな体格差の相手に押さえつけられていることで焦りを感じていたのだろう。強引に引き剥がそうと、後ろにる巨漢。俺はその一瞬を見逃さなかった。


「――てりゃ!」

「――がっ! ぬおぅ……」


 後ろに体重を移動した瞬間、巨漢の右足の真横より少し後ろに俺の左足を踏み込んだ。

 そして全体重をかけて、相手から見て右斜め後ろへと押しやった。

 油断と焦りで一瞬すきができていた巨漢も、押されたことで我に返り必死で抵抗する。

 だけど自分で体重移動してしまった重心は、すでに俺の力として吸収されていた。


 ――まるで将棋だな。


 俺は心の中で某スマホな異世界の主人公の台詞を口ずさむ。俺はガラケーですけど。って、関係ないね。

 まぁ、勝利を過信しないように自分をふるい立たせていたのだった。


「せいせいせいせいっ!」

「ぐぐぐぐぐぉっ……」


 既に巨漢の左足はかろうじて地面を踏んでいる程度。あと少し押しやれば完全に浮く。

 そう確信した俺は声を張り上げ、強固な城門を力でこじ開けるがごとく、更に巨漢を押しやっていた。

 そんな俺の押し出しに必死で抵抗する巨漢。

 さながら……いつぞやの上がりかまちでの俺と小豆の最終決戦。って、それほど大層なものでもなかったけど。

 あの時の光景を思い出していた俺。

 ――思えば、あの時点で既に小豆は苦しんでいたんだよな。わかってやれなくて、ごめん……。

 ふと視線を前方の『ずた袋』に送って、そんなことを考えていた俺。

 だけど大丈夫だ。すぐに苦しみから解放してやる。もうすぐだから待っていろ。

 そうさ、小豆でさえ俺のことを打ち破ったんだ。お兄ちゃんである俺が、こんな巨漢を打ち破れないはずがない。

 

「ふぉぉぉおおおおおおおお!」

「――ぬぁっ!」


 俺は全力全開な雄たけびを上げながら、神風アタックを決行した。

 そんな俺の雄たけびにおののいたのか、あえなく巨漢の左足は宙に浮き、後方へと倒れ込むのだった。

 勢いのついていた俺は、そのまま巨漢のたくましくて分厚い胸板に抱かれるように飛び込んで一緒に倒れこむ――


「はぁぁああああ……」

「――ぐおっ!」

「チェストォオ!」

「――うげっ! ……」


 ……なんてな? いやなんで俺が、こんな巨漢の胸に抱かれて倒れこまなきゃならんのだ。

 これがまだ小豆やあまねるや香さんのスイカ……に飛び込むのは度胸どきょうがないので無理です。

 せいぜい、俺のクラスの高松くんなら自分の方から倒れこむかも知れないけどさ。まぁ、彼のファンクラブの女子が恐いので無謀なことはしませんけどね。

 なぜ、俺が高松くんの胸なら飛び込めると思っているのかと言うと――特に今は関係ないので話を進めよう。

 とにかく、別に俺は捨て身で押しやっていたのではない。

 そもそも、小豆のアレは『かみかぜアタック』だったけど、俺のは『しんぷうアタック』だから別物なのである。


 後ろに倒れそうになる巨漢に引っ張られそうになるのを踏ん張り、両腕に力を込めて強引に引き寄せていた俺。驚きの表情で近づいてくる巨漢を右肩で受け止めた俺は。

 瞬間、左足を半歩外側へと移動する。そして左足と巨漢の右足の間にできた隙間を狙って右足を蹴り上げる。そして、雄たけびとともに。

 蹴り上げた右足を振り下ろして、俺の膝裏ひざうらあたりで巨漢の膝裏あたりを強打しながら大地を踏みしめる。

 瞬間、巨漢は悲痛の叫びを漏らす。数秒もしないうちに巨漢の体が小刻みに震え出したのだった。

 

「――はっ! ……よっと! ――ばぁん!」

「うがぁ……」


 巨漢の震えを察した俺は、すぐに両手を離して左足を一歩後退すると、左足を軸に右足を時計と反対周りに円を描きながら左足で後ろにジャンプ。

 つまりフィギュア……俺の部屋にある方じゃなくてスケートの方。

 そんなフィギュアのアクセルターンっぽく華麗かれいに離脱する。まぁ、普通の地面だし、一回転だから華麗でもないんだけどね。

 巨漢の方を向きながら着地した俺は、右手で銃を構えるポーズをし、銃口を巨漢へと向けて「ばぁん!」と撃ち放つ。

 すると、巨漢は一瞬大きく震えたかと思うと、悲痛の叫びを漏らして崩れ落ちるのであった。


 いや、エアガン……だと意味違うな。ただの真似事だよ? あと、ゆきのんは関西に住んでいるけど、別に巨漢は関西人じゃないと思う。知らないけど。

 だから「ばぁん!」とやってもノリで「うわぁ、やられたぁ」なんて、ボケてはくれないはずだ。いや、この場面でボケられても困るのだが。俺はともかく。

 まぁ、そもそもボケた訳じゃないんだけどね。


 簡単に説明すると巨漢は俺の武術。

真正しんせいこりゃあダメか? の格闘武術――阿呆あほう流』の技に倒れたのである。

 いや、阿呆流は、かのはシリーズに登場するマインハルトちゃんの師事している古流武術をリスペクトして……今名付けてみた。うん、アホなお兄ちゃんにはピッタリなんだと思う。

 そして俺のり出した技名は『大外り風 片膝カクーン』と言う。今決めた。

 なお、膝カックンではなくて膝カクーン。これ重要。

 某球体な女性声優ユニットのライブの寸劇すんげきでメンバーの彼女が――

「膝カックンじゃなくて、膝カクーンなの!」と言っていたことに由来する。


 まぁ、なんてことはない。ただ柔道の大外刈りの要領ようりょうで相手の右足を刈り取って後ろに倒さずに。

 膝カクーンの要領で相手の膝裏に強い衝撃を与えていた。

 確かに膝よりも膝裏では衝撃は少ないだろう。だけど、それでも巨漢相手には一番なんだ。

 もちろん漠然ばくぜんと攻撃したってビクともしないだろう。だから俺は先手を打っていたのだった。


 そう、俺は体重移動させて――巨漢に右足一本で体重を支えるように仕向けていた。

 これだけの巨漢だ。その体重を右足一本で支えるなんて相当足にダメージがあるはず。

 そんな状態の右足。それも重要な膝裏に強い衝撃を与えれば?

 ギリギリで保っていたバランスを崩して自分の体重につぶされるって話さ。

 まぁ、だから本当の膝カクーンはできないんだけどね。

 いや、速攻で後ろに崩れ落ちてきたら自分が逃げ切れずに潰されちゃうからね……。


「ふぅ……まだ、やるかぁ?」


 地面に崩れ落ちる三人を見ながら軽く息を吐き、視線を移して他のフダツキに声をかける俺。

 なお、細かく説明しているから時間がかかっているように思うだろうが。

 最初の一人も含めて四人。全員相手にしても一分とかかっていない。当然ながら息も切れていなかった。

 まぁ、準備運動にすらなっていないしな。

 そんな呆れ顔を浮かべて連中を見つめる俺。見つめられた連中と言えば。

「お前行けよ?」「いやいや、自分で行けばいいだろ?」などと焦った表情を浮かべて他の連中へとなすり付けていた。

 ……まぁ、体で理解させておいて正解だったようだな。だけど、うるさい。本当に、うるさい。まったくもって、うるさい。さすれば、うるさい。つまり、うるさいのである。

 うむ。うるさい連中を一人ずつ睨みつけながら脳内で言い換えてみたのだが、やっぱり「うるさい」と言う結論に至っていた俺。

 とは言え、体に理解させたおかげだろう。俺が睨むとウェーブのように順番に口を閉ざす連中達であった。少し面白いぞ。

 まぁ、他の連中は未だにうるさいのだが。俺は別のことが気になって、視線をスライドしていた。

 いや、ゆきのんが怒りに震えていたら俺では太刀打ちできないからね。こわいのいやだもん……。

 

「……」

「……」


 だけど視線の先のゆきのんは――

 鳩子が主人公である彼の中二病に対して堪忍袋かんにんぶくろが切れて、彼に対してマシンガントークを撃ち続ける。

 その量、なんと! 実にラノベ三ページにびっしりと詰まった感情のままに紡がれた魂の叫び。

 実際にアニメ化された際にもシーンは存在し、調べていないので省略されている部分があるのかも知れないが。

 その長台詞を一気にくし立てていた中の人である女性声優さん。

 ファンからは彼女を代表する名シーンとたたえられている。そんな。

 鳩子が繰り出すマシンガンのような魂の叫びを食らっている彼のような、呆然とした表情を浮かべて俺を見つめていたのだった。

 まぁ、単純に鳩が豆鉄砲を食らったような顔なんだけど、「それ以上かな?」と思ったので言い換えてみたのだが……特に女性声優さんとゆきのんは関係ない。現実的じゃないから関係ない。


 ――現実と言うのは、なんとなくだけど超絶スーパーな。そんな私たちの日常なのである。

 意味は知らない。

 

 なお、某ラノベ原作でアニメ化もされた……中二な異能の日常系作品なのだ。

 さてと、話を走り出そうか。深遠なる運命の謎ミステリアス フォーチュンの為に……。


「……ふんっ……」


 周囲を警戒けいかいしていた俺。だけど、それ以上の妨害はないようだ。

 俺は少し呆れた表情で連中を見ながら、心の中で連中の不甲斐ふがいなさをなげいていたのだった。

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