I need always tiny.【完結】

いろとき まに

第一章 愛情

第1話 善哉 と 小豆

◇プロローグ◇


 ――なんでアニオタがアニメを好きじゃないといけないの?


 まさに曇天うんてんとどろく雷のように、俺の脳内へと響いた言葉。

 アニオタ。それは世間一般的に浸透しんとうしつつある総称の一つ。

 日本の誇れる文化。

 キャラクターを描いて動かし、キャラクター達の周りに住む世界と季節と時を与える。

 キャラクターに命を吹き込むべく、声優さんが声を与える。

 シナリオと言う、人生の指標しひょうをキャラクターに与える。

 そして音楽や効果音を添えて、画面の向こうに一つの世界を生み出す技術。

 アニメーションと呼ばれる、日本が誇れる文化の一つ。

 そう、日本が世界に誇れる文化であるアニメーション。いわゆるジャパニメーションと言うやつだ。


 俺の好きなゲームのサブヒロインの子が――

「ジャパニメーションは宇宙一!」

 と豪語ごうごしていたから、きっと間違いないのだと思う。


 そんなアニメーション。まぁ、アニメで通用するからアニメにしよう。

 アニメをこよなく愛し、精通せいつうしている種族。

 当然、アニメの数だけ愛する形は存在する。

 さらにアニメの中でもキャラクター。シナリオ。音楽。声優さん。その他もろもろ。

 そう、一つの作品の中だけでも愛する場所は無数に存在しているのだろう。

 さらに愛する場所が違えば、愛し方も違う。

 映像の円盤に走る者。音楽の円盤にこだわる者。グッズにハマる者。声優さんに熱を入れる者。イベントに命を燃やす者。そして、作品の世界観そのものに魅了みりょうされる者。

 更に、自分の手で新たに世界を広げようとする開拓者のごとく、共存を求める者達。その他もろもろ。

 一言で言えばアニメを愛する者だが、中に入れば無数に存在している種族の総称。

 それがアニオタ。アニメオタクなのである。

 ――と、今までの俺は認識していた。いや、できることなら、このまま一生認識させてほしかったんだけどな。

 

 これは俺の目の前に突如現れた、新たなアニオタの認識。


「――えっ? だってアニオタって『アニキオタク』の略だから!」


 さも、それが世界基準だと言わんばかりに豪語しやがった人物によって、綺麗さっぱりと塗り替えられそうになっている俺の認識。

 そんな侵略者の魔の手から、俺の知っている認識であるアニオタ。

 そう、アニメオタクこそが、この世の真のアニオタなのだと。

 魔王の手から平和な大地を取り戻すべく、果敢かかんに立ち上がった勇者のごとく!

 俺の平和なアニオタ人生を取り戻す為に奮闘する話なのかも知れないが、それほど大した話ではないのだった。







◇1◇

 

「……すぅー。……ふわぁ~」

「……」


 四方を取り囲む壁。そして、締め切られた窓ガラスと木製の扉により、外界の喧騒けんそうや、気温から閉ざされた空間。

 そんな空間に『何かを吸い、何かを吐き出す、何か』の音だけが響いている。


「……すぅー。……ふわぁ~」

「……」


 その『何か』は一定のリズムで吸って吐くを繰り返す。それ以外は何もない。吸って吐く音だけが空間に変化をもたらしていた。


「……すぅ――むぎゅ! ……ぅぅぅぅ~」

「……わ、悪い……」

「……すぅー。……ふわぁ~」

「……」


 少しだけでもと変化を望み、俺は『その何か』の先端部分を左手の親指と人差し指で軽くつまんでみる。

 すると変な音を響かせた『その何か』から、一瞬だけ吸って吐く音が止まる。

 しかし、突然『その何か』の中央辺りに位置する、二つの白い球体に覆われた黒が俺へと照準を合わせてきた。

 刹那せつな、『その何か』は全体を赤く染め、白い球体のふちあふれんばかりの泉をもたらして、警告音を発していた。

 危険を察知した俺は即座に摘んでいた指を離す。

 すると何事もなかったかのように『その何か』は再び吸って吐く音を響かせていた。


 ――やはり俺では何も変えられないのだろうか。俺にできることなんて皆無だってことなのだろうか。


 俺は自分の無力さを痛感し――しばらくの間、呆然とその音を聞き続けていたのだった。

 

 ここはアニオタの聖地・秋葉原から電車で約……アニメAパートほどの位置にあるA区のとある住宅街。 

 そんな住宅街にひっそりとたたずむ――改築三年にも満たない、まだまだ真新しい白壁のえる一軒家。

 とは言え、家の持ち主はひっそりどころか、かみそりばりにエッジの効いた、百戦錬磨ひゃくせんれんま猛者もさの集まる巣窟そうくつと化している我が家。

 そんな家の一室。文明の素晴らしさを実感できるほど、蛍光灯によって明るく照らされている俺の部屋。

 角部屋の俺の部屋には窓が二面ある。一つはベッドが横長に置かれている面の、ベランダへと出られる窓。もう一つはベランダからみて右手。隣の家の角部屋が見える窓。

 とは言っても、隣の家の部屋の住人は『永山ながやま いそ助』さん。八十九歳になる寝たきりのお爺様だ。

 何かあった時には即座に対応できるよう、基本俺はコッチの窓はカーテンを閉めない。さすがに若い男子の「出陣!」の時には閉めるけどな。

 そして俺の携帯には、永山さんの家の電話番号と、おばさん夫婦の携帯番号がワンタッチで登録されている。もしもの時に番号を知らないと全速力で階段すっ飛ばして、隣の家までレスキューしないといけないのは体力的にキツイからだが……。

 そんな病院の当直室と化している俺の部屋。今はおばさんが家にいるんで、いそ助さんの部屋はカーテンが閉まっている状態だった。


 今はもう、窓が鏡の役目を果たして、室内をうつせるくらいに外の景色がすっかり暗くなっている時間帯。

 俺はベッドにもたれかかりながら、いそ助さんの部屋の方の窓を眺めていた。そう、窓に映る俺と窓の間に位置する、俺よりも少し小さい物体にあきれ顔を浮かべながら、それを眺めていたのだった。

 ――と言うか、暑いし、重い……。


「おい」

「……」

「おいってば」

「……」

 

 何故か――


『俺の右腕に宿りし、紅蓮の炎の如く熱を発して覚醒のオーラをまとった、俺とは異なる存在の塊』


 は、俺の応答を無視して一生懸命酸素を吸い込んでは空気を吐いていた。周りにもっと綺麗な酸素があるにもかかわらず、人の腕に顔をうずめてな。まるで空気清浄機のようだ。まぁ、俺の心はすさんでくるけどさ。 

 

 とは言え、俺はもう立派な高校三年生だ。だから『中二』な時代はとっくに通り越している。

 つまり中二病をわずらって言った訳では当然なく、言いたかったのは精神的な話じゃなくて、あくまでも物理的な話。ただ、こう言った方が燃えたんで言ってみただけだ。


「……なぁ?」

「……」


 俺はダメ元で、もう一度だけたずねてみたのだが。

 相変わらずな無反応ぶりに、苦虫をつぶしたような表情でその物体をにらんでいた。

 そんな俺の睨んでいる先の、空気清浄機のような物体の正体。

 それが、俺の右腕に何故だかは知らんが常にまとわりつく、とても豊満で肌触りのいい、人肌の温もりのスイカの双丘。

 その持ち主であり、恍惚こうこつとした表情を浮かべて寄り添っている俺の妹。高校一年生の霧ヶ峰きりがみね 小豆あずきなのだった。 


「……ほふぃ~ひゃ~ん♪」

「呼んだか?」

「……へへへへへ~♪」

「……」


 こんな、広い意味では合っているかも知れないだろう、シ●ナ●中毒患者のような小豆さんに、右腕を拘束されている「ほふぃ~ひゃ~ん♪」と呼ばれた俺。

 世間一般的な通常モードだとは言ってはいけないのかも知れないが、あくまでも小豆オリジナルの通常モードでは「お兄ちゃん」と呼ばれているので、決して『ほふぃひゃん』と言う名前ではない。

 いや、そんな名前じゃ、どこの国の人なんだって話だが。

 そんな「ほふぃひゃん」である俺、霧ヶ峰 善哉よしき

 原作漫画の人気があってアニメにもなった、俺の大好きな作品。

 彼――八城やしろ 善哉くんが、とあるキッカケでもう一人の彼に誘われて、二人組でライトノベル作家を目指す。

 そんな作品の主人公と同じ名前なのだ。

 さすがにアニメを見た時には「親父、グッジョブ!」と、親指をつるくらいに立てた覚えがあったくらいだったな。

 生まれてこのかた――放任、丸投げ、なすりつけ。

 そんな親の愛を受けてきた俺には唯一、親のありがたみを感じる瞬間だったのだろう。

 まぁ、名前だけだし、他は感じていないけどな。

 ん? ――って、やい、こら親父! 俺はともかく、妹になんて名前をつけてんだよ!

 まったく『善哉に小豆』って、さ? あんたは近●相●をご所望か! 


「……むふふっ♪ ――ッ! ……」

「……」


 俺が心の中で親父に対して俺達を『善哉と小豆』と名付けたことに文句を言っていると、妹が突然――ライオンが近づいてきたことを察知したインパラのように、パッと顔を上げてジッと俺のことを見つめてきた。その目には、ほんのりと熱が帯びているような気もする。

 お、おい……今のは冗談だぞ? いや、頼むから上目遣いで兄貴に熱のこもった視線を送ってくんなよ……小豆。と言うか、何で俺の思考が読めるんだ?

 あっ、違うわ。コイツのこれは通常運転だった……それはそれで問題だけど。

 さすがに口に出すと「何の話?」と問い詰められそうだから、黙って見つめ返していたんだけどな。


「んん~♪ ――ぷぎゅ! ……ぅぅ~、ぅぅ~。……」

「……」


 何を勘違いしたのか、瞳を閉じて唇を突き出して近づいてくる赤ら顔な妹。とりあえず思考の邪魔なんで、手でブロックしてみる俺。

 そんな俺の手に邪魔されて妹は変な声を発すると、涙目になり恨めしそうな声で俺の手を睨んでいた。だけど数秒もしないで、何事もなかったかのように通常運転へと戻る妹。

 そんな変わり身の早さに呆れ顔を浮かべて思考を再開する俺なのであった。

 

 それと『小豆』と言うのは、さっき言ったアニメのヒロインであって、声優志望の『小豆 佳苗かなえ』ちゃんと言う女の子だ。

 そんなアニメの善哉と小豆は『善哉ともう一人の彼とのラノベがアニメになって、その作品に小豆が声優として出演する』と言う夢を描き、その夢が叶ったら結婚する約束をしていた訳だ。

 それで、つい心の中で叫んだんだが、そもそも俺達兄妹の方が先に名前があったんだから、まったくの偶然なのだった。


「……うぅ~ん♪ ……」

「……」


 未だに酸素を吸い込んで、お花畑で寝転んでいるような表情の妹を眺めながら、脳内で思考を再開する。

 と言うよりも、アニメの彼女の小豆は名前じゃなくて苗字だから、結婚したら彼の姓である『八城』になる訳で……実際には近●相●と、俺達の名前は特に関係がない。

 そして厳密に言えば、近●相●と言う背徳も関係がないような家庭事情ではある。だから本人達さえならば、何も問題は発生しないことを俺は知っていた。


◇2◇


 俺も昔は色々とあった。小豆にも色々あったと思う。飄々ひょうひょうと暮らしている両親だって、俺が勝手に巻き込んでいた。いや、鋭い牙を向けていた。だから当然色々あったんだ。

 そんな俺の勝手な意固地から、一度は手放して失いかけていた家族の絆。それが再び、この手に戻ってきたんだ。

 鈍感な俺だってコイツの気持ちくらい気づいている。「なんで俺なんだ?」と疑いたくなるほどの好意を寄せてくれていることも言動を見ていれば理解している。

 そして両親も後押しをして、家族ぐるみで俺に猛アタックをかけている状況だって把握しているさ。

 正直な話をすれば俺はコイツを嫌っていない。むしろ『●●●』いる。当然コイツが抱いているのと同じ気持ちの話なんだけどな。

 俺が受け入れれば、話は丸くおさまるのかも知れない。家族の絆は一層深まるのかも知れない。

 だけど、俺はコイツの想いを拒み続ける。それがコイツを悲しませるとしてもだ。


 失いかけていた絆が再び戻ってきた時、俺はコイツの「お帰りなさい」と言ってくれた満面の笑顔に誓った。


『俺は一生、コイツのバカアニキでいてやろう。もうコイツに悲しい顔はさせない……バカアニキとして笑顔でいさせてやろう』


 ってな。

 だからアニメを見て、色々なバカアニキ達を参考にして勉強したさ。

 バカって言っても『妹バカ』って意味だし、実際にはそんな素振りをしていないキャラが多いけどな。

 他に頼れるものがないんだから、わらにもすがる想いで必死に勉強したのだった。

 それほど上手く演じている訳じゃないんだけどさ。どちらかと言えばボロボロな感じではある。

 それでも……コイツの前ではバカアニキでいたかった。

 だけどそれまでの俺達には距離があったし、俺には黒歴史が残っていた。そこに後ろめたさもあったんだと思う。

 だから正直、最初は普段の接し方ですら手汗をかくくらいに緊張したし、ガチガチだったのを覚えている。

 それが数年かけて、最近ようやく普通に接することができてきたのである。

 

 そして距離のあった頃。荒んだ生活を送ってきた俺には、女性に対する免疫がまったくなかった。まぁ、小豆絡み以外では、今でも接することなんて皆無だけどさ。

 だけど俺だって女の子は大好きだ。色んな意味で興味がある。そう言う部分は、どこにでもいる男子高校生なのかも知れない。

 それは妹だとしても例外ではない。

 もちろん、普通の家庭環境だったら俺だってコイツを「異性として見れるのか?」なんてことは不明だ。

 でも。

 複雑な家庭環境と、俺の想いが……コイツの猛アタックをサポートするように、悪魔の囁きで俺の理性を取り除こうとしている。

 だけど免疫もない俺がスマートにかわせる訳もなく、パニック状態で虚勢を張ることしかできないでいる。

 だからコイツの猛アタックを受けると自分でも情けないくらいにオタオタしてしまう訳だ。

 それでも俺はコイツを拒み続けるだろう。自分の姿が悲しいくらいに滑稽こっけいだとしてもさ。

 あえて虚勢を張ってオタオタしながら拒み続けるんだと思う。

 もう二度とコイツに悲しい顔をさせない為にも、俺が全力でコイツのことを拒絶することはないんだから。


 それに、そんな俺の情けない姿を見てコイツはいつも笑っているから、それで良いんだと思う。

 俺が俺でいる為に、俺が決意した『バカアニキでいること』の意味。

 これは俺の贖罪なんだろう。数年間悲しい思いをさせていた小豆へのせめてもの償いだ。

 もちろん、単なる自己満足かも知れない。コイツはそんなことを望んでいないんだろうってことは実感している。

 だけど俺はそう誓ったんだ。

 あの日、こんな俺を笑顔で受け入れてくれた小豆のバカアニキとして、ずっと見守ってやりたい。

 どんなに滑稽でピエロな役回りでも、ずっと『小豆のお兄ちゃん』でいるって誓ったんだからな。


 ――と、ついついガラにもなく、しんみりとしちまったな。ところで小豆は静かだが、どうしたんだ?


「……むにゃむにゃ……」


 って、寝ているのかよ! まさか匂い嗅ぎすぎてガス中毒……いや、酸欠とかじゃねぇよな?

 そっと顔を覗くと幸せそうに寝ていた。まぁ、血色は良いから寝ているだけかな。

 そんな俺の右腕のとある一部分が、俺のさっきまでの心を反映したように弱冠『しんみり』していた。

 正確には『しっとり』としていた。さすがに女の子の恥ずかしいことを暴露する趣味はないから気にしないでおこう。たぶん、俺の思考が長すぎたんだな。ごめんな。つまらなかったんだろうな。疲れていたのかもな。

 だが、起こす。


「起きろ!」

「……ふにゃ~? お兄ちゃん」

「そんな体勢でよく寝れるな? いいから目を覚ま――」

「……おやす――」

「二度寝すんな」

「ふぁわわ……お兄ちゃん、どうしたの~?」

「……」


 とりあえず、右腕を揺すって起こしにかかった。こんな体勢だから眠りが浅かったらしく、寝ぼけ眼ではあるが、すぐに起きてくれた。そのことにホッとして声をかけたんだが、二度寝しようとしていたんで更に揺すって起こしたのだった。

 少し前まで物思いにふけっていた俺も、それまでの少し悲しい表情から優しく微笑みの表情に変えて、未だに寝ぼけている感じの妹を見つめながら、今の状況へと思考を戻すことにしたのだった。



 ただ俺的には、コイツのことを小豆と呼ぶと、彼女のことを思い出して心が幸せに……まぁ、なるんだけど、とりあえず悲しくなっておこう。

 そんな理由で、俺はコイツを『佳苗』と呼んでいるのだった。


 さてと、そろそろ腕がしびれてきたから引きがすかな?

 まぁ、手っ取り早いと思って『鼻を摘んだ』ら涙目で威嚇いかくされたから他の方法で引き剥がさないといけないんだけどさ。

 俺は未だに俺の腕から離れず、人のシャツの袖を酸素マスクと勘違いしているんじゃなかろうかと疑いたくなるくらいに、袖に顔を押し付けて袖が醸し出す酸素を、すべて鼻から吸い込んでしまう勢いで、至福の表情を浮かべて『くんかくんか』しておる、我が妹に声をかけることにするのだった。


「……なぁ、佳苗?」

「……なぁにぃ……お兄ちゃん?」


 俺の問いかけに自然と顔をあげて笑顔で聞き返す佳苗。俺の聞き違いか?


「……佳苗?」

「だから、なによぉ……お兄ちゃん?」


 特に大事なことではないが、二度見ならぬ二度聞きをしてみた俺。

 そんな俺に疑問の表情で「だから、何?」と訊ねる佳苗。俺の耳は正常なようだ。だから俺は素直な疑問を佳苗にぶつけるのだった。

 

「……お前はいつから佳苗になったんだ?」

「お兄ちゃんが呼んでくれた時から♪」


 ――オニイチャン ガ ヨンデ クレタ トキカラ?

 俺も一応はDK……決して、ダイニングキッチンじゃないんだ。JK的な意味で『男子高校生』だ。

 あと余談だが、今は日本にも進出しているみたいだけど、俺の知るDKはニューヨークなんで日本じゃないのだった。

 まぁ、普段からそんな略し方はしたことないし、周りも誰も言っちゃいないから男子高校生に戻すか。

 俺も一応は男子高校生の端くれではあるんだけどな。

 どうにもJKの使う言葉と言うのは面妖でござる……。まったくな、何語なんだか理解に苦しむだろうが。

 何語で言われたのか、言葉の意味の理解に苦しむ俺。そんな俺に自然な笑顔を送っている佳苗。

 ……実際には現実逃避していただけだ。言葉の意味は理解している。だがな?

 お前の言っている意味がわかんねぇんだよ!

 

「いや、お前……小豆じゃねぇか!」

「えっ?」


 心意を問いつめようと訊ねた俺に「なんで?」と言いたそうな表情で返す妹。自分で声をかけておいてと言う気持ちはあるものの、収拾がつかない俺はコイツに食ってかかっていた。


「えっ? じゃねぇだろが……何、小豆がグツグツ煮込まれたような顔しているんだ?」


 本来ならば「鳩が豆鉄砲食らったような顔」なのかも知れないが、人の腕に顔を埋めていたせいか、真っ赤な顔で俺を見つめていたから、コイツの名前の小豆にかけて、つい口走ってしまっていた。


「……美味しくできているよぉ~? と・く・に……ココとか?」

「……た、確かに美味しそうではあるし、小豆っぽいが……唇を指差すんじゃねぇ!」 


 そんな俺の言葉に何を思ったのか、突然艶やかで弾力のある唇を指差すと爆弾発言を始める小豆さん。指を差されたことで咄嗟に凝視していた視線をそらして、俺は焦り気味に答えていた。


「……美味しいよぉ~。……味見してみるぅ~? ……ぅ!」

「……だから、しねぇよ」


 しかし追い討ちをかけるようにニタリ顔をしながら、唇を近づけつつ更に爆弾を投下しやがった。

 さすがにコレはマズイと感じた俺は、心の中で謝罪しつつ、妹の右頬を左の手の平で抑えて横へと向けさせた。少し体温が高くなっている頬の感触。とてもやわらかい肌の感触。

 頬の体温が伝わったのかと思うくらいに、体温の上昇を感じていた俺は妹と反対の方へ顔を向けながら否定の言葉を投げかけたのだった。

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