ヤリサー
マムルーク
念願のキャンパスライフ
「大学生活、緊張するなぁ......」
俺は期待に胸を膨らませながら近未来的なキャンパスの中に入った。
俺の名前は平神太一(ひらかみたいち)。今日から夢にまでみた大学生活。
一年死ぬもの狂いで浪人し、偏差値五十前後の私立大学に入学することができた。
今まで平凡な容姿でつまらない生活を送ってきたが、大学生活といえば、サークル活動にアルバイト、そして恋愛と、夢のような生活が待ち望んでいる。
合格が決まってからというもの、キャンパスライフに心をぴょんぴょんさせていた。
「えーと......ここだな」
俺はサークル説明会に向かった。俺はまだ、何のサークルに所属するか決めていない。
よく調べてサークルには所属するつもりだ。アルバイトもやりたいしな。
「天体観測サークルいかがですかー?」
まるで祭りの出店のように宣伝している。天体観測か......結構、面白そうである。
俺は天体サークルのブールに向かった。
「どうもー初めまして、天体観測サークル部長の唄星健太(うたほしけんた)です。それじゃ、早速天体観測サークルの説明を始めたいと思います」
メガネをかけた理系っぽい部長がノートパソコンでパワポのスライドの画面を見せてきた。
「まず、うちの活動なんですが、月曜から土曜日まで活動しています。時間は月曜日から金曜日が夜の六時から十時までで、土曜日が朝の十時から夜の八時まで活動しています。サークルに入る条件として、アルバイトを禁止しています。サークルに専念して欲しいですからね」
「ええ!?」
俺は思わず驚いた。もうそれ、サークルってレベルじゃねぇぞ。ガチの部活じゃねぇか。そもそも天体観測サークルってそんなに活動するもんなのか?
「あ、あの......天体観測以外に、どんな活動するんですか?」
俺は部長に質問した。
「基本的に一年生は天体に関する勉強をして、夏ころからぼちぼち天体観測を始めるって感じですね。私が直々に勉強を教えるので、すぐ天体に関する知識が身につくと思いますよ。他にも宇宙戦争や E.T.の映画を見たり、アットホームで楽しい部活だと思いますよ」
なるほどな......それは確かに......
「すみません、ちょっとトイレに行ってきていいでしょうか?」
「え? はい」
俺はそう言い、ブースから離れた。
誰が入るかあんなサークル! 狂っている! あのサークルは狂っている! 何だ週六活動って!
その後、俺は色んなサークルの話を聞きにいった。ゲーム制作サークルやバレーボールサークル。
面白そうなのもあったが、いまいち入りたいとは思えなかった。
まぁ、サークルは気にせず最初はたくさん入って、自分に合うのだけ続けるのがいいのかもしれない。
俺はパンフレットを眺めていて、気になるサークルを見つけた。
『ヤリサー』
なんて、清々しいまでの名前のサークルなのだろうか。会場は他のサークルとは違い、体育館より離れた講義室にあるそうだ。
俺はヤリサーのブースに向かった。
講義室にノックをし、中に入った。
「失礼します」
「よくきたな」
赤い髪のピンクのカーディガンを羽織っている女子学生が出迎えてくれた。
俺は思わず彼女に目を奪われた。
彼女はかなりの美人だった。しかし、気になったのはそこではない。
右手に鋭利な槍を持っている。
「あの、そ、それ......槍ですか?」
「ん? 当然だろう。うちは槍サーなのだから」
まさか本物の槍とはな。これはたまげた。
「あの、このサークルって何をするサークルなんですか?」
「そんなの決まっている。最高の槍を作り上げるサークルだ」
いや、ねぇよ。そんなサークル。始めて聞いたぞ。
「それじゃ、この槍も先輩が作ったんですか?」
「ああ! この槍は私が作った『イカロス2号』だ!」
ブンブンと槍を振り回してきた。あぶねぇな。当たったらどうすんだ。
「おっと。そういえば、自己紹介がまだだったな。私の名前は槍塚絵里(やりつかえり)。今は三年で工学部に所属してる。将来は槍を作る会社に入社したいと思っている」
そんな会社あるのだろうか。
「は、はじめまして。唄星健太です」
「健太か。よろしくな! ちょっと、私が作った槍を見せたいと思う」
すると、細長い入れ物のなかから、金色の輝く槍を取り出した。
「これが私が作った槍、『ゴールデンランス』だ」
「か、かっこいい......」
思わずそう呟いた。全部金色というだけで、厨二心をくすぐられた。また刃の歯がギザギザしていて、とても良い。
「ははは! そうだろう、そうだろう。メッキでコーディングしたんだ。ほら持ってみな」
絵里が俺にゴールデンランスを渡してきた。ズシリという重量感が伝わった。
おお、なかなか重い。
「結構重いだろ? 私の重い思いが詰まってるからな。なんつって」
テヘペロという顔を絵里はした。寒いが、可愛いから良いのか。
「そして......次はこれだ」
再び、絵里は細長い入れ物から槍を取り出した。その槍は全て透明なプラスチックのような素材でできていた。
「な、なんか変わってますね」
「ふっふっふ。まぁ、見てな」
絵里は不敵な笑みをし、槍の棒部分についていた、ボタンのようなものを押した。
すると、槍は虹色に光を放ち始めた。
「おおー! すごい」
「だろ? これが私の自信作、『レインボースピア』だ! いやぁ、光らせるの結構難しいからな!」
絵里はえへんという顔で自分が作った槍を自慢した。
「それで......どうだ? 良かったら槍サーに入ってくれないか? 去年は部員、私しかいなかったんだ」
「いいですよ。僕、入ります」
「本当か! ありがとう! それじゃ、八月に行われる槍コンテストに向けて活動していこう!」
「槍コンテストというのは?」
「オリジナリティ溢れる槍を作るコンテストだ。優勝者には賞金百万円と、ヨーロッパでの槍制作の研修を受けられる」
「へぇ......そんなコンテストがあるんですね。俺、頑張ります!」
「ああ! 一緒に頑張っていこうな!」
こうして、俺は槍サーに所属した。この奇妙なサークルでどんな出来事が巻き起こるのか、俺は楽しみで仕方ない。
ヤリサー マムルーク @tyandora
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