肉体消滅後に、意識はどういう状態になるのか

憑木影

肉体消滅後に、意識はどういう状態になるのか

肉体消滅後に意識は残ると思っています。

理由は、後述いたします。


意識というものは、身体のどこにあるものでしょうか。

おそらくは、「脳」とよばれるものと共にあるのではないかと思います。

さて、この脳というものが、とても奇妙な「機械」だと思えるのです。


いわゆる脳で意識が活動している状態というのは、ニューロンの発火とよばれる現象によりあらわれてきます。

意識の活動があるということは、ニューロンの発火が発生しているという状態でもあると思えます。

このニューロンの発火というのは、細胞内に電位差が発生する、電気的な現象だと考えられます。

ひとが思考する際に、このニューロンの発火パターンが変化していくことがみられます。

問題は、ニューロンの発火パターンがどのように形成されるか、です。

ニューロンとニューロンの間は、シナプスによって接続されています。

シナプスとシナプスの間は、神経伝達物質によってやりとりをします。



つまり、脳内で行われているのは


【電磁気的な現象】 → 【物理的な物質の運動】


という、とても奇妙な変換なのです。



ひとの身体には神経細胞があり、これによって電気信号を伝達することができます。

ひとの進化はしかし神経細胞を使って脳内に電気的な回路を形成することではなく、電気→物質の変換を選択したのです。


脳とコンピュータを比較してみましょう。

おそらく、ニューロンというものは、汎用レジスタに相当するのではないかと思います。

シナプスが神経伝達物質を使ってニューロンの発火パターンを生成するのは、プロセッサがレジスタに情報をスタックすることに相当すると思います。

レジスタにスタックされた情報は、メモリにキャッシュされたりハードディスクに書き込まれたりすることがあると思います。

メモリに相当するニューロンがあると思いますし、海馬体の先にはハードディスクに相当する器官があるはずです。

プロセッサは電気回路として動作し、レジスタへは電気信号にて指示を行います。

ひとの脳では、いうなればプロセッサからレジスタに向かって電気信号ではなくなにがしかの粒子を放射し、レジスタは粒子を受け電気信号に翻訳し情報をスタックしているということになります。


電気的現象と物理的現象の翻訳を行い、ニューラルネットワークを形成する。

これは、とても奇妙におもえます。

このことに、何か意味はあるのでしょうか?


ペンローズという、ノーベル賞をとった数学者がいます。

このひとは、人工知能をめぐる議論でなぜ人工知能が実現できないかということについて、ゲーデルの不確定原理を用いて説明を試みたひとです。

つまり、電子的演算回路では、ある公理系内部で動作することは可能であるが、その公理系のメタレベルの問題は処理できないと語ったのです。

しかし、ペンローズは逆に考えました。

なぜ、ひとは公理系をこえたメタレベルの問題を処理可能であるのか。

ひとと、電気的演算回路との差は、なんであるのか。

ペンローズは、ひとの脳がとても奇妙な機械であることに気が付きました。

彼は、量子脳理論という仮説を、考えます。


電気的な現象であるニューロンの発火が、神経伝達物質の放出、受信という物理的運動に変換される。

ここで行われているのは、量子的波動関数の収縮ではないかということです。

脳内に、コヒーレントな状態、つまり様々な可能性に向かって重なり合った状態が形成され、それが量子重力の崩壊によって一意に収縮する。

このことによってシリアルなロジックにより動作し、一定の公理系内にとどまる電子的演算回路とはことなり、メタレベルの思考が可能になっているのではないか。

ペンローズは、そう考えました。


ようするに脳とは、波動関数の収縮装置なのだといえます。


波動関数の収縮とは、あのシュレディンガーの猫の話でよく知られています。

光や電子、放射線もそうですが、それらは波であると同時に粒子であると規定したのは、アインシュタインです。

つまり、物質を形成するすべての粒子は波である同時に、粒子であるといえます。

ここで、奇妙な問題が発生します。

波は、複数個所に同時に到達しますが、粒子は一箇所にしかたどり着きません。


シュレディンガーの猫は、ふたつのスイッチがついた箱の中にいます。

放射線が、ふたつのスイッチに向かって放射されたとしましょう。

片方のスイッチは放射線を受け箱の中に毒ガスを放出し、猫を殺します。

もう一方のスイッチは、なにもおこさず猫は生きています。

波である状態の時には、両方のスイッチに放射線が到達します。

でも、それが粒子となり局所実在化したときに、スイッチがおされます。

その粒子化=局所実在化を波動関数の収縮とよびますが、これはどのタイミングでおきるのでしょうか。

コペンハーゲン解釈では、ひとがその放射線を観測したときにおこるとしています。


さて、ペンローズの量子脳理論に従えば、そもそも観測するという行為においてひとの脳の中で波動関数の収縮がおきているはずなのです。

つまり、コヒーレントな、生きている猫と死んだ猫が重なり合った複数の事象が併存している状態から、量子重力の崩壊によって一意の現実を選択するための機能が、脳にはプリセットされているといえるのです。

ここで問題は、その波動関数の収縮をコントロールしているのは何ものかということです。

あくまでも、ニューロンの発火は、結果でしかありません。

ニューロンをレジスタとするならば、そのレジスタにスタックするプロセッサが必要です。

脳内のどこにプロセッサがあるのか。


判りません。


そのプロセッサは、波動関数の収縮をコントロールしなければいけません。

つまり、局所実在化した物質の形成した器官では無理ではないかと、思うのです。

量子的ユニタリティの中に組み込まれたプログラム。

それこそが、波動関数の収縮をコントロールできるプロセッサ。

そう、考えます。


ひとの肉体が滅ぶ。

それは、コンピュータにたとえれば、ディスクやメモリ、レジスタが破損した状態なのでしょう。

でも、意識の大本が量子的ユニタリティに組み込まれたプログラムとしてのプロセッサであるのならば、ひとつの場の性質として空間に保持されるのではないかと思うのです。


これが、肉体が滅んでも意識が残ると思う理由です。


そして、肉体が消滅したあとに意識はなにがしかの空間の歪みとして残存すると思うのです。

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